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今から帰るね
って、ゆず先生からラインが入ったのは、感動と興奮と心配で感情が色々と忙しかった春の保育園生活最後の運動会が終わって、春の好きな弁当屋、まぼちゃんあっちゃんに寄って3人分の弁当を買って家に着いたタイミングだった。
え?
って、時間の確認。
まだ、運動会が終わって1時間弱。
保育園は、午後預かりの園児が居るからやってるはず。
片付けも、もちろん。
帰りは顔をチラッと見ただけで、何も喋ってない。挨拶さえ俺はできてない。
え、確か、今朝の話では帰りはいつも通りの時間って。
それがこの時間ってことは、熱が。もしかして、上がってきたってこと?
いや、もしかしても何も、あれだけ全力でペース配分ゼロで思いっきり身体動かしたら余計上がるのなんか当たり前だ。
ちょっと電話してくるから先に食っててって、俺は自分の部屋に行った。
電話。かける。
数回のコールのあと、なっちゃんって出たゆず先生。
「どした?早くね?熱?」
出た瞬間質問攻め。
まだ保育園に居るかもしれないって、聞いた後に思って。焦った。
「ごめん、電話大丈夫?」
『うん。あの、今ね、タクシー乗ったとこ』
「………タクシー?」
ゆず先生はいつもバイク通勤。
今日もバイクで行くって言ってた。だからとにかく気をつけろって話をした。
んでもって春と登園した時に、あった、はず。ゆず先生のバイク。見た。チェックした。俺。
ってことは。
そんなに熱が?
バイクの運転さえできないぐらい熱が上がったってこと?やっぱり?
『あ、熱はね、そんなに上がってないんだけど………こう先生にバレちゃって。何で言わなかったんだ、今日はもういいから帰れって、怒られて。バイクは危ないからタクシーでって、タクシーも呼ばれちゃって………。で、今乗ったところ』
こう先生。
気づいて、帰らせてくれたのは良かったって思う。
ありがとうこう先生って、思う。
ゆず先生は絶対、自分から熱があるとか、帰らせてくれとかは言わないだろうから。
だから、ありがとう。
だけど。じゃあ。
「………何で、バレた?」
見てるだけじゃ絶対分かんないはずだ。あんだけ動けてるのに熱なんて、思わないだろ。普通。
って、ことは?
『え?えっと、午後の保育がない子たちが帰った後、教室でお疲れ様〜ってみんなに言って、こう先生にも言って、握手して、ハグして、そしたら』
「………は?」
『………へ?』
だから、えっとって。
俺の超不機嫌炸裂の『は?』に、ゆず先生がしどろもどろになる。
気づけよ、こら。今何つった。
黙って念を送った。
『あの………なっちゃん?』
「握手して何したって?」
『だから、ハグ………って、やだ、なっちゃん‼︎もしかしてそれってヤキモチ⁉︎』
「………そうだよ、ヤキモチだよ。当たり前だろ?何してんだよ。アンタはもう俺以外のやつに触られたらダメだっつーの‼︎」
特にこう先生、には。
こう先生はきっと、ゆず先生の、こと。
『やだ、なっちゃん、超かわいいんだけど‼︎僕超嬉しいんだけど‼︎』
ひゃはって笑って、やだもう照れちゃうーって、ゆず先生はひとりで騒いでる。
俺以外の誰か。特にこう先生とハグはダメだけど。
ヤキモチ焼く俺へのこの反応が………かわいい。コノヒト。まじで。
「そんなに上がってないって、熱、ちゃんとはかったの?」
『………あー、うん』
「何度?」
『………えっと』
「何度」
『………8度』
そんなにじゃねぇじゃん。って言ったら、そうだねって。ごめんねって。笑ってる。
朝は、微熱程度だった。
だから、では、ない。
ゆず先生は朝から38度あっても、絶対運動会に行くことを選んでる。俺が何を言ったって、身体が動くなら。いや、動かなくても、動かす。
だから。無理してまた上がったからって、何を、何かを、言うだけ無駄なんだ。
「今から行く」
『………え?』
「行くから」
それだけ言って、俺は。
ゆず先生の返事も待たず、電話を、切った。
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