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『フレッシュ3人組によるダンスでしたー。かなこ先生、みか先生、そして柚紀先生ありがとうございましたー‼︎柚紀先生は大変ですけど急いでおしたくしてくださいねー。らいおん組さんが待ってますよー』
園長先生のアナウンスに、はーいって元気に手を上げてゆず先生は返事をした。
起こる笑い。
続くアナウンス。
『まあ、柚紀先生はね、一番若いですからね、園の保育士の中で。大丈夫だと思いますけども』
走ってらいおん組の方に行く。
待ってるこう先生に法被を着せてもらう。色は緑。
いつのまにか、らいおん組の子たちはハチマキもしてた。俺がゆず先生に釘付けになってる間に。
素早くゆず先生も、した。ハチマキを。ハチマキは園児と同じ色。黒。
靴を脱いで、靴下を脱いで。
そしてアイコンタクト。こう先生と。
して。頷いて。頷きあって。
『それでは、柚紀先生の準備もできたようなので、行きますよー‼︎本日の運動会最後は、年長さんによるソーラン節。さあ、らいおん組さんの入場です‼︎」
ゆず先生が保育士になって初めての運動会。
春の、保育園生活最後の運動会。
入場の音楽が、流れ始めた。
流れ始めて、行進が始まって、入場門から入って園庭をぐるっとまわる。一周。
それを、見てて、ん?って違和感を感じたのは、どうやら俺だけじゃなかったらしい。
ほらほらって感じに、指をさす年長応援席のお父さんお母さん。何ならおじいちゃんおばあちゃん。
そして笑い声。かわいいーとか。
まあ、な。最後だもんな。トリってやつ。
緊張するって言ってた。だって年長さん伝統なんだよ?って。
んでもって、自分は初めてなのに、園児は最後の運動会。の、最後の最後。
法被着て、ハチマキもしての、本格的な。
だから、な?緊張なんだよな?熱だから余計な?失敗しないようにとか。
「………ゆず先生ったら、手と足が一緒に出てる」
「………」
らしいっちゃ、らしい。ああ、アノヒトならやるわ。だ。
園児と一緒に入場行進。
ゆず先生は、まあ見事に。見事なほど、右手と右足が、左手と左足が、一緒に、出てた。
分からなくはないけど。
うん。分からなくはないよ。
けど、熱の心配とかちょっと忘れて、可愛すぎるって、俺は笑った。
行進が止まる。
こう先生の掛け声で構える年長児。
そんな笑える行進ををぶっ飛ばすかのように流れ始めたソーラン節の音楽。
こんなにも真剣に運動会を見るのは、初めてかもしれないって、思った。
泣いてる誰かのお母さんが、多分居た。しかも何人も。
ぐすって鼻を言わせてるのが、あちこちから聞こえた。
もちろん隣の母ちゃんからもで。
………俺も、ぐすって、なった。
俺も、やったことある。ソーラン節。
いつからなのか知らないけど、なんかお約束的なとこあるじゃん?
最年長学年の、運動会でソーラン節って。
だから、知ってる。それ、全力でやるとものすごいしんどいって。動きがさ、激しいんだよ。
保育園児用に簡単なのにアレンジされてるのかと思いきや、そうでもなかった。侮れないぐらい、ちゃんとソーラン節だった。
ドッコイショードッコイショーで、網を引くあの動作。あれ、大変で。最後の方は怒られるけど、ちゃんとやれって。下までいけないんだよ。
知ってるから。やったことあるから。
めちゃくちゃ上手に、真剣にやってる春や楽、意外と上手なけいこちゃん、俊介くん。
すんげぇキレッキレにやっててめちゃイケメンのこう先生。そして。
アンタ。………柚紀。
泣くわ。
泣くに決まってる。こんなの。
最後。
掛け声とキメポーズで終わったソーラン節、の、後。
こう先生の気をつけ‼︎って号令で、らいおん組みんながこっち向いた。
『ありがとうございました‼︎』
全員の、大きな声に。
「春ぅーーーーー」
涙腺は崩壊した。
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