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下手したら倒れちまうんじゃないかって心配だった、大きくなったよ見て見てレースが無事終わった。
知らず全身に力が入ってたみたいで、俺までちょっとぐったりだった。
見て見てレースだからなのか?ネタバレ禁止だったとか?
春からもゆず先生からも、こんなのやるって聞いてなかった。聞いてねぇよって、思った。
聞いてたとしても、俺に何もできないのは分かってる。
熱があってもやるって、行くって決めたゆず先生を、俺はここから見ることしかできないことには、聞いてたってかわらない。
ただ、知ってたら。もっと。
昨夜、もっと、何かできたかも、じゃん。
はああって、すげぇ色んな気持ちが混ざったため息が、出た。
「保育士さんには、本当に頭が下がるわね」
ゆず先生に熱があることを知ってる母ちゃんが、小さく言ったのが聞こえた。
運動会。
トリをつとめるのが、年長。ソーラン節。
保育園の、お揃いのオレンジの法被が青空に眩しい。
その前。
その法被を全員が着る時間稼ぎの意味もあるのかもしれない。
『それでは、我が保育園フレッシュな20代保育士3人によるノリノリダンスをお楽しみくださーい‼︎』
園長先生のテンション高めのアナウンス。
そして、少し前に流行った歌のイントロで、ゆず先生と女の先生ふたりが、走って出てきて頭を下げた。
これ。
ゆず先生が練習してたやつ。夜の公園で。俺との待ち合わせで。
もう。なんつーか。
ダンスは、ゆず先生は完璧だった。ノリノリもノリノリ。ノリっノリで、超笑顔で超楽しそうに。
ちょうどゆず先生の位置が年長の応援席前だった。
だから、当たり前だけどゆず先生をよく知ってて、ゆず先生も知ってるから、ファンサじゃないけど、盛り上がる父兄にわーって手を振ったりもして。
多分、てか絶対ってか、分かりきってることだけど、ゆず先生は人気で、そこだけ異様な盛り上がりだった。応援席が。だから余計に、ゆず先生は応えてた。
もうバカじゃん。
そんな全力で踊るなよ。
まだ最後ソーラン節もあるんだろ?一緒に踊るんだろ?
残しとけよ。体力。セーブしろよ。ペース配分って言葉知らねぇの?
後で絶対文句言ってやるって、決めた。
今年は、春が保育園最後の運動会で、ソーラン節で俺、まじ泣きするかもって思ってた。
けどもう泣きそうだった。春見て、じゃなくて。ゆず先生見て。
見てる俺に気づいたゆず先生が、笑った。すげぇいい顔で、笑った。めちゃくちゃ。本当にめちゃくちゃ、キラキラしてた。
もうまじさ。
好きだよ。アンタが、アンタのことが、すごい好きだよ。俺。そして。
俺もなりたいよ。アンタみたいに。
バカかよってぐらい全力で仕事に打ち込める。そんな、大人に。
音楽が終わる。
ゆず先生は最後。
走って、助走をつけて、そして。
青い空に響く歓声。拍手拍手拍手拍手。
バカだ。
好きだ。
ゆず先生のバク転が、見事に決まった。
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