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まじか。
始まった年長競技2つ目を見て、まじかって、フリーズ。
これ、熱があるゆず先生には相当キツくね?って。
よーい、スタートで始まった、大きくなったよ見て見てレースは、ざっくり言えば障害物競走。
確かにそうだよ。障害物競走だよ。けど。
よーい、スタートのスタート。
ゆず先生とこう先生が、一本の竿みたいな銀色の棒を横にして端と端を持って男の子の列の前に立ってた。
女の子の列の前には、同じように竿みたいな棒を持った女の先生がふたり。
スタートと同時に、一番の………あれは夏休みに児童館で一緒に遊んだ俊くん、俊介くんだ。
俊くんが、俊くんの胸の高さぐらいの竿みたいな棒の。その真ん中らへんを握った。
そして。ゆず先生とこう先生のせーので棒が。
上がった。上げられた。
170センチぐらいの先生ふたりが、棒を持ったまま腕を上げて、ピンと伸ばす。つまり結構な高さだ。
俊くんは肘と膝を曲げて、懸垂状態でぶら下がってる。
そのまま走った。先生ふたりが。先生ふたりで。
要するに、こんなにぶら下がっていられるようになったよってことのアピールなんだと思う。高さもある、動いてる。でも落ちないでいられるって。
それは、大きくなったよ、見て見てだよ。って思うよ。
思うけど、さ。
ほんの数メートルだ。
俊くんはぴょんって降りて、マットに行く。
でんぐり返しを2回、跳び箱5段、鉄棒で逆上がり、平均台、どんどん行って、ゴール。
春が夏休みに逆上がりの練習をしてたのは、このためだったんだって、これで分かった。
俊くんがゴールして、次。2番目の子がまた、ゆず先生とこう先生が持つ竿につかまった。
ちょっと待てって。
これ男の子全部をゆず先生とこう先生でやんのか?
いくら保育園児ったって、いくらふたりでったって。
途中、何度もゆず先生が袖で汗を拭ってるのが見えた。
………でも。
笑ってた。ずっと笑って、頑張れって。
棒を握った子に、まず何か声をかけた。
ぴょんって降りた瞬間頑張れって。
その後も、でんぐり返しが曲がってマットから落ちちゃった子に、跳び箱の助走が勢い弱すぎて飛べなかった子に、逆上がりが失敗した子に、平均台から落ちちゃった子に、頑張れーって。
笑って。笑って。笑って。
だから俺はずっと。
ずっとアンタに。
頑張れって。ずっと、頑張れって。
ゆず先生ばっか見てる俺に気づいた母ちゃんが、貸してって俺からカメラを取ってった。
気づけばもう春の番だった。
春はすりむいた膝もなんのその。
落ちたり失敗したりしないで、パーフェクトでできてた。
見た。ちゃんと見た。けど。
抱き締めたい。ゆず先生を。柚紀を。思いっきり。
俺は、春よりもずっとずっと、ゆず先生のことばっか………見てた。
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