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 俺がこんくらいの時ってどんなだったっけ。

 

 

 

 

 

 思い出そうにも全然思い出せないのがちょっと残念な気もする、運動会。

 

 

 まあなんつーか、普段むさくるしい高校生を見てるからだとは思うんだけど。

 

 

 

 

 

 ………かわいい。

 

 

 

 

 

 特にひよこ組っていう年少クラスより更に下のクラスのなんか微笑ましい通り越して顔面が崩壊した。

 

 




 ただ走ってるだけでかわいいって何だろな。罪だな。

 





 応援席も笑い声が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 春もつい最近までこんなだったのにな。いつの間にかおっきくなって。もうすぐ小学生。

 





 なんて、にやにやしみじみしてたらひよこ組のどたばたなかけっこが終わってた。

 

 

 そして始まる。

 

 

 

 

 

 年長クラスの、らいおん組のかけっこ。小学校で言うところの徒競走。

 

 

 ひよこ組の次が春のらいおん組ってことで、開会式に間に合って、一緒に見てた母ちゃんと、すでにブランコ後ろから応援席の方に出て来て場所取りしてた。

 

 

 春はどこだ?って、春の勇姿を母ちゃんが持ってきたカメラにおさめるべく、探す。

 

 

 ひよこ組はひとりずつ走って、尚且つお父さんかお母さんが一緒だった。

 

 

 けど、年長は横に並んだ4人が、よーいどんでゴール目指して走る。だから余計ぎゅうぎゅうわちゃわちゃってなってて、春が探せない。

 

 

 

 

 

「あ、あそこじゃない?」

 

 

 

 

 

 見つけたらしい母ちゃんがほらって指をさす。

 

 

 

 

 

「え、どこ」

「えっとね、真ん中の、真ん中らへん」

「………は?もっと違う表現はないのかよ」

「真ん中の真ん中らへんは真ん中の真ん中らへんだからしょうがないでしょ」

 

 

 

 

 

 他に何て説明すんのって。母ちゃんがぶつぶつ言ってる。

 

 

 

 

 確認なんだけど。

 

 

 一応、作家なんだよな?うちの母ちゃんって。

 

 

『普通の』作家とはちょっと路線が違うけど、路線が違うだけで作家なんだよな?文章書いてるんだよな?

 

 

 それにしちゃちょっと。

 

 




 ………真ん中の真ん中らへんって。

 

 

 

 

 

 ボキャ貧すぎる母ちゃんに若干呆れつつも、言われた通り真ん中の真ん中らへんをカメラで追ってったら。

 

 

 

 

 

 居た。春だ。

 

 

 

 

 

 ちょっと緊張してんのか?かたい表情にも見える。

 

 

 

 

 

「居たでしょ?」

「居た居た」

 

 

 

 

 

 ひよこ組からのらいおん組を見てるからだな。

 

 

 カメラを覗きながら、おっきいなあ、おっきくなったんだなあってまた、しみじみ。

 

 

 しみじみしてるとこに、音楽が鳴って、『らいおん組さんの入場です』ってアナウンス。こう先生を先頭に、ゆず先生を一番後ろに、らいおん組が入場してくる。

 

 

 ピッピっていう、こう先生が吹く笛の合図で走って入場。そしてピーッピピッピッピ、で止まる。

 

 

 

 

 

『次は、らいおん組さんによるかけっこです。年長さんのかっこいい走りを見てください』

 

 

 

 

 

 またアナウンスが流れて、スタート地点にこう先生。ゴール地点にゆず先生が走る。ゴールには、誰だっけ。名前忘れたけど、女の先生も居て、ゴールテープをふたりで持った。

 

 

 

 

 

 ゆず先生は、俺が見る限りでは、贔屓目とかじゃなく、多分先生たちの中で一番動いてる。

 

 

 新人だからってのがあるんだと思う。雑用係的な。

 

 

 あっちこっち走って、走って、走って。とてもじゃないけど、熱があるなんてまったく見えない。

 

 

 

 

 

 見えないけどさ。

 

 

 見える見えないの問題じゃなくてさ。

 

 

 もうちょい加減すりゃいいじゃん。手を抜く、じゃなくて、セーブする。後を考えて。

 

 

 

 

 

 思ったところで、それはもうゆず先生の性格なんだろうから、思うだけ仕方ないのかも、だけど。

 

 

 きっと今は、熱のことも頭になくて、目の前のことに一生懸命なんだ。

 

 

 

 

 

 かっこいいよ。アンタ。

 

 

 

 

 

 改めて、惚れ直す。惚れ直してる。

 

 

 そして今日の夜。それを絶対、伝えるから。伝えに行くから。

 

 

 

 

 

 頑張れ。

 

 

 

 

 

 頑張れ。

 

 

 

 

 

 ………柚紀。

 

 

 

 

 

 よーい‼︎

 

 

 

 

 

 こう先生の声。

 

 

 そしてパン‼︎ってスターターピストルの音。

 

 

 

 

 

 

 母ちゃんとふたり。春の番を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど真ん中らへん。

 

 

 半分が走り終わった頃に春がスタートに立った。

 

 

 俺はカメラを回して準備万端で、母ちゃんは超デカイ声で春ううううう頑張れえええええって叫んでる。

 

 

 おいおい、その母ちゃんの声に気づいて反応したらスタート遅れるぞって突っ込もうとした瞬間、パン‼︎ってスタートの音。

 

 

 と同時に飛び出した春を、おっしゃ、いけーって追いかけた。

 

 

 

 

 

 追いかけて、追いかけて。

 

 

 

 

 

 そのままゴールだ‼︎1位だ‼︎って。そこで。

 

 

 

 

 

「あっ」

「春っ‼︎」

 

 

 

 

 

 母ちゃんと同時に声が出た。

 

 

 出た時には、もう春は。

 

 

 

 

 

 どさって。

 

 

 

 

 

 めちゃくちゃ派手に、転んだ。

 

 

 1位で、ゴール寸前のとこ、で。

 

 

 

 

 

 応援席からどよめき。

 

 

 俺らも呆然。

 

 

 

 

 

 そんなって。

 

 

 

 

 

 呆然。

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 それが、もっと呆然に、なった。

 

 

 

 

 

 だって。一緒に走ってた、春のすぐ横、しかも2位のとこに居た、あれは楽だ。

 

 

 春にいつもちょっかい出して泣かせてる楽が、そのまま行けば1位になったのに、ゴールしないで春に駆け寄った。

 

 

 転んで痛いのかショックなのか恥ずかしいのか、動かないでいた春に声をかけてるみたいに見えた。

 

 

 楽が春の背中をぽんってして、春が顔を上げる。

 

 

 

 

 

 楽、お前。

 

 

 

 

 

 行こうって、楽は言ってるみたいだった。

 

 

 春くん頑張れって、ゆず先生の声が聞こえた。

 

 

 それきっかけに、まわりの先生たちや応援席にいる人たちが、頑張れーって次々に言ってくれて。

 

 

 

 

 

 春は立ち上がって、楽と一緒にゴールした。

 

 

 

 

 

「春ぅ」

 

 

 

 

 

 半ズボンから覗いてる膝から、血が出てるのがここからでも見える。

 

 

 じわって、俺が、泣きそうになった。

 

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