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快晴。
運動会日和ってこういうのだよなってぐらいの、ちょい暑い秋の土曜日の保育園。
いつもより遅め、運動会時間で春と保育園に行ったら、園庭はすっかり運動会仕様になってた。国旗とか、応援席とか、使えないようにしてある遊具とか。
運動会だなって、まさにそんな。
俺は春を教室に連れてったらそのまま待機。
母ちゃんはしたくできたら行くーって言ってた。これ直してから行くわって、ボサボサ頭を指差して。
『母ちゃんの頭、鳥の巣みたい』
おはようよりも先に母ちゃんを見て言った、今朝の春の一言がどうやら効いたらしい。
春が言ってなきゃもしかしたら、そのまま。
あ、春は、だから言ったのか?
自分の母ちゃんが、春曰く『鳥の巣』状態で応援に来たら恥ずかしいから?
単純にそう思ったからそう言っただけかも、だけど、春だけに分かんねぇ。分かってて言ってそうでも、ある。
らいおん組の前。いつもよりちょっとテンションが高くていつもよりよく喋る春を連れてったら。
「おはよう、春くん」
「ゆず先生っ」
青空の下、季節外れのヒマワリみたいに笑うゆず先生が、居た。
白い半袖Tシャツに、黒のジャージズボン。
ついさっきまでとは違う保育士スタイルの、さっきまでとはどこか雰囲気も違う『ゆず先生』。
「おはよう、なっちゃん」
「………はよ、ございます」
さっきまで一緒に居たのに。居たから?
すごい恥ずかしいっていうか。照れっていうか。
ちらって見ただけで、直視は不可能。
保育園でのゆず先生は、俺の隣で笑うゆず先生とキラキラ度が違う。
『先生スイッチ』が入るんだよなって、いつも思う。んでもってキラキラしてる。全力で一生懸命仕事に打ち込んでるっていうのが出てる。
それが眩しい。そして羨ましい。憧れでもあるんだよ。保育士のゆず先生って。俺の。
俺もそういう仕事に就きたい。
保育士になりたいってことじゃなくて、いいかもとは思ったけど、無理かもって気づいて今はそれも宙ぶらりんのままだけど、そうじゃなくて。
自分がこれって決めた仕事に、俺も将来就きたいって、猛烈に思う手本が、ゆず先生。
まだ、なりたい何かは、就きたい職業は、俺は、具体的に何も決まってないから。
保育園でのゆず先生と、そうじゃないゆず先生を見てるから、余計にそう思うのかも、だけど。
「春くん今日は頑張ろうねっ」
「うんっ」
「応援お願いね、なっちゃん」
そしてこれもいつも思う。
コノヒトって何で普通に、普通のフリできんだろ。
保育園で会うゆず先生は、完全に保育士の顔で、俺と居るときと違うのは先に述べた通り。
俺もそうしなきゃとか、できるだろって思うけど。俺にはどうにも、どうしてもできない。
結果不自然なぐらい、自分でもどうよって思うぐらい、俺は、保育園ではぶっきらぼうになる。どうしても。
春の前だからってのも………ある。
どもって今日も軽く頭だけ下げて、じゃあな春、頑張れよって俺は手を振った。
ゆず先生の熱は、心配。気になる。
けど、今日は春の、保育園生活最後の運動会。
泣かずに見れるか?俺。
ちょっとそれも、心配だった。
夏祭りもうっかり泣きそうになったし。
春が出るのは何だっけ。
いつもの何倍だよってぐらい人が居る園庭。
それでも人があんまり居ない、年長応援席後ろの更にブランコ後ろまで移動して、俺はフェンスに凭れながらプログラムを開いた。
人数が少ないからなのか、小学校じゃないからか。運動会は午前中で終わる。
とは言っても、午後は引き続き普通に保育もあるらしいから、運動会が終わってもゆず先生が帰れるわけじゃないと思う。
大丈夫か?
見てるとペース配分ってやつがどうも苦手っぽいアノヒトが、午後の保育のことまで考えて運動会にのぞめるのか。
絶対無理だ。最初から全力だろ。
プログラムを開いたのに、今度は春じゃなくてゆず先生が気になって、俺はプログラムに隠れつつその姿を探した。
ゆず先生のことは、すぐ見つけられる。もはや特技の域。
さっき俺と春と挨拶したとことは全然違うとこで、登園してくる園児や保護者に、ゆず先生は相変わらずまぶしい笑顔を振りまいてた。
あんま無理すんなよ。
でも。
無理しても、いいよ。
もちろん春を見る。年長で、最後の運動会だ。見ないでどうする。
けどな。
アンタも。アンタのことも。俺は。見るから。絶対見てるから。
ずっとなりたかったんだよって教えてくれた保育士になっての、初めての運動会。
熱が出るまで頑張った運動会。
見るよ。見てるよ。ちゃんと。
そして夜、また。
側に居るから。行くから。頑張ったなって。お疲れさまって。抱き締めに、行くから。朝まで居るから。アンタの側に。
俺は、目の前にプログラムを広げて、見てるフリをして。しながら。視線でゆず先生に頑張れって、エールを送った。
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