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 聞こえてきた電子音で、目が覚めた。

 

 

 

 

 

 アラーム。

 

 

 

 

 

 え、もう起きる時間だっけ?

 

 

 っていうかこの音なに。俺のいつものアラームじゃねぇぞって。

 

 

 

 

 

 ごそごそしてみたけど、音の出所が分かんない。

 

 

 けど、ごそごそしたら。

 

 

 

 

 

 ぬくもり。

 

 

 

 

 

 え?で、あ。

 

 

 ぬくもり?で、ぬくもり。

 

 

 

 

 

 そうだ。俺。

 

 

 

 

 

 目を開けたら、居た。………ゆず先生、が。

 

 

 ゆず先生もちょうどぼんやりと目を開けたとこで、俺を見て。

 

 

 

 

 

 え?で、あ。だった。

 

 

 

 

 

 恥ずかしそうに、目を伏せた。

 

 

 

 

 

 それに俺は。

 

 

 うっわ。って。

 

 

 そのまま手を伸ばして抱き締めた。

 

 

 ついうっかりそのままキスしようと思ったけど、まだ熱い身体に、やめた。

 

 

 

 

 

 下がらなかった。

 

 

 

 

 

 昨夜なんだかんだ遅くなっちまったしって、反省。猛省。

 

 

 ゆず先生がごそごそしてアラームを止めた。

 

 

 止めて、またごそごそして、もぞもぞして、その腕が俺に絡む。

 

 

 

 

 

「おはよう、なっちゃん」

「………はよ」

 

 

 

 

 

 布団の中。

 

 

 超密着超ドアップゆず先生が、にっこり笑う。

 

 

 

 

 

 どっきんって、なる。

 

 

 

 

 

 俺、昨夜よく色々やって色々言えたなって。

 

 

 色々思い出して、余計どきどきして、顔が熱くなるのが分かった。

 

 

 見てって言われて見た大きな傷跡にキスしまくって身体触りまくったとか、好きとか俺のとか渡さねえとか。

 

 

 

 

 

 夜ってこえぇ。そして。

 

 

 

 

 

 お日さまに………恥ずかしい。

 

 

 

 

 

「照れてる、なっちゃん」

「………うっさい」

 

 

 

 

 

 図星で余計恥ずかしくて、ゆず先生を抱き締めて隠れて誤魔化した。

 

 

 誤魔化せてないけど。バレバレだけど。

 

 

 

 

 

「ごめん」

「え?」

「まだ熱い」

「………うん。でも、何でごめん?」

「………色々したし、寝るの遅くなったし」

 

 

 

 

 

 ぼそぼそ言ったら。

 

 

 なっちゃん?って、優しくて、穏やかな声で呼ばれた。

 

 

 で。

 

 

 俺が抱き締めてるのに。俺の方が、がっつり抱き締めてるのに。

 

 

 

 

 

 ふわんって。

 

 

 

 

 

 ゆるく絡む腕に、完全に、抱き締められたって。俺が抱き締められてるって。思った。

 

 

 

 

 

「なっちゃんが来てくれたから、すごい心強かったよ?持って来てくれた薬を飲んだから、楽になった。嬉しいことをいっぱい聞いた。だから全然」

 

 

 

 

 

 ふわん、ふわんって。

 

 

 撫でられる、髪。

 

 

 ゆず先生に伏せてた顔を上げたら、大人キレイな、どきんってする笑い顔。

 

 

 あ。って時には、キス。されてた。

 

 

 

 

 

「嬉しすぎて幸せすぎてテンション上がりすぎてじっとしてられなかったのは僕だから」

 

 

 

 

 

 大人キレイな顔から、てへって顔になって。

 

 

 コノヒトかわいすぎて死ぬって、思った。

 

 

 

 

 

 いや、そんなゆっくりしてる場合じゃないんだけど。

 

 

 

 

 

 今何時だ?

 

 

 春が起きるまでに、帰らないと。

 

 

 

 

 

「体温計どこ。熱はかろ」

「………うん。待って、この辺」

 

 

 

 

 

 ごそごそごそ。

 

 

 

 

 

 枕の下に手を突っ込んで探してて、そこで剥がれた熱冷ましのシートを見つけて笑ってる。

 

 

 

 

 

 好きって、思った。

 

 

 

 

 

 色々あって色々知ってて色々な顔をするコノヒトが。

 

 

 まじ、好き。

 

 

 

 

 

 春のこともある。こう先生も気になる。けど。

 

 

 

 

 

「あった。………なっちゃん?」

 

 

 

 

 

 やっと体温計を発掘して、またころんって転がったゆず先生を、そっと抱き締めた。

 

 

 どうしたの?って。柔らかな声。

 

 

 

 

 

 好きだよって。

 

 

 言いたくなって。また。

 

 

 これで最後だよ。春が卒園まではもう言わないよって。だから、言おうと、した。

 

 

 

 

 

 ………のに。

 

 

 

 

 

「やだ、なっちゃんっ」

 

 

 

 

 

 今の今までとは違う、はしゃいだ声。

 




 

 今度は何だ。どんなかわいい爆弾が来るんだ?

 

 

 

 

 

 ちょっと慣れてきた自分に笑える。

 

 

 ちょっと慣れてきたぐらいは、一緒に居るんだなって、それも嬉しい。

 

 

 

 

 

「ん?」

「なっちゃんの『なっちゃん』がばっちり僕に当たってるっ」

「………っ⁉︎」

「やだ、なっちゃん。それは朝だから?それともー」

 

 

 

 

 

 ふふふ。

 

 

 

 

 

 ゆず先生は超ご機嫌に笑った。

 

 

 

 

 

 ………恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 いや。朝だから普通だよ。たまたまそれがおとなしくなる前に当たっただけだよ。

 

 

 ってかゆず先生もじゃないの?………は、確かめると大変なことになるから確かめらんないけど。

 

 

 

 

 

 って、おいっ。

 

 

 

 

 

 元気になるからやめろ、俺。それ以上考えるな。

 

 

 

 

 

「ん?僕に反応しちゃってるのかな?」

 

 

 

 

 

 だからやめて、まじで。

 

 

 

 

 

 ゆず先生が片手で体温計を持ったまま、俺のほっぺたをむにゅってした。

 

 

 あっついね、なっちゃんって。

 

 

 

 

 

「………だから、食うなよ」

 

 

 

 

 

 耳。また食われてるし。

 

 

 ふふふってまだ笑ってるし。

 

 

 

 

 

「カモネギを前にどうして熱かなあ」

 

 

 

 

 

 ぼやくゆず先生に、早く熱計れよって、俺も思わず、笑った。

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