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イマドキ片親なんてそんなに珍しいもんじゃない。
ツレんちもそうだし、クラスに何人も居るし、高校生にもなれば親が学校に来ることもそんなにない。だから何とも思ってなかった。
けど。
春はこういうのを見て、寂しいと思わないんだろうか。
今日、ここに来たのは、春の家族として今ここに居るのは、俺ひとり。
締め切りが近い母ちゃんは、後で行けたら行くって言ってたけど正直無理っぽい。それは前から言ってたことだから春も今日はぐずったりしなかった。
でも、それでも、俺がこの空気に、賑わう夏祭りの空気に何かって思うのに。俺より小さい春は。………春は。
ぽつんってそこに居ることがひどく。
ひどく………寂しいと、思った。
春に、ごめんって思った。俺でごめんって。俺だけでごめんって。
「なっちゃん、もうすぐ年長さんの太鼓始まるよ?」
「………っ」
「春くんすごく頑張って練習してたから、是非前の方で見てあげてね」
「………あ、う、うん。見る」
ぼけっとしてて、ぼけっとしすぎていきなりの声に驚いた。
どっきーんって、アニメならハート形の心臓が飛び出してる感じ。
ゆず先生。
ちらって横目で確認。直視は無理。んで。
うわ。やっぱり。
やっぱり。やっぱり。
………かわいい。
何か、たくさんの視線がゆず先生に集まってる気がするけど、多分気のせいじゃない。
お母さんたちだけじゃなくて、ばあさんや園児の姉妹の視線も。何ならお父さんやじいさんだって。
まあ………こんだけかわいけりゃ、なあ。
「どうかした?」
「え?」
「何か………小さい子が迷子になってるような顔してる」
「迷子って。………なってないし」
「うん、そうなんだけど」
小さい子って。迷子って。
俺とゆず先生って、そんなめちゃめちゃ年離れてないだろ?なのにその扱いかよ。
ちょっとそれはへこむ。
………って、まあ、へこむも何も、男同士じゃそもそもレンアイになんか発展しない。
しかも春は年長だから、俺の送り迎えも3月で終わる。
4月からは大学生だし、だから大学行ったら彼女作って、青春を満喫するんだよ。
今は俺、家事と春の世話に勤しむ勤労高校生だから、コイなんて知らない。彼女ができたことも一度もない。だから。
だから。
………ゆず先生は、それまでの目の保養。そうだろ?
「どうかした?」
心配そうな声に、ドキンってする俺。
「………うん。こういう時、春が寂しいんじゃないかなって、思って」
ここの保育園は決して大人数の保育園じゃない。
一学年に1クラスの小さな保育園。
でも、どこから集まって来るのか、園庭は結構な人で賑わってる。『家族連れ』。まさにそれ、で。
だから、さ。
「………そうだね」
俺の視線を辿って、ゆず先生も園庭を見る。
結構来てるね。緊張してきちゃったって笑う。
そして。
そして。
「何も思わないって言ったら、嘘になるだろうけど。でも春くんは毎日暑い中、すごく頑張ってたよ?なっちゃんが見に来てくれるからって」
「………え?」
「春くん、なっちゃんのことが、お兄ちゃんのことが本当に本当に、大好きだからね」
春、が。春が。
はるうぅぅぅぅ。
お前は何でそんなにかわいいんだっ。
また今度400円のガチャポンやってやるからなっ。
なっちゃんおれこっちでいいって、遠慮して200円のにしなくていいからなっ。
俺が春のかわいさに萌え萌えしてたその時、ゆず先生って、らいおん組の担任の………確かこうめい先生?だったか?うちは基本ゆず先生の話ばっかだから名前がイマイチはっきりしないけど、珍しい男ペアの、しかもモデルなみにイケメンの先生が、教室の前ぐらいのところで呼んだ。
はーい。今行きますって。ゆず先生は答えて。
「春くんは一番前のセンターだよ」
ゆず先生は俺にそう言って、それはそれはかわいくきれいに笑って、俺の背中をぽんってしてくれた。
どっきん。
跳ねる心臓。
意味なんか、ないのに。
背中ぽんの意味も。
俺がどきどきする、意味も。
小走りでこうめい先生のところに行くゆず先生の背中を、俺はじっと、じっと見てた。
「………」
すぐ近くで妙に痛い視線を感じてなんだ?って見たら。
………けいこちゃんだ。
いつも我が物顔でゆず先生を独占してる井上けいこちゃんが、ふりふりの浴衣姿でじーーーーーって見てた。ゆず先生ではなく………俺を。
………な、何だ?
「………」
俺も無言でけいこちゃんを見つめ返すこと数秒。
けいこちゃんは結局無言のまま、くるって俺に背中を向けて、ゆず先生の後を追いかけるみたいに走ってった。
色んなものを吐き出すみたいに、はあって息をひとつついてから、俺は春をベストポジションで見るために、場所移動した。
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