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年長児伝統の和太鼓は、見ててうっかり泣きそうになった。
甚平や浴衣姿でバチを持ち、勇ましく声をあげながらの和太鼓。
紐で袖を縛り、浴衣の裾から長い脚を覗かせながら、デカイ太鼓を叩くゆず先生も意外と男っぽくて、それがいつものかわいいゆず先生じゃなくて、カッコよくて、そのカッコよさにどきってしたけど。それはヒミツで。
はるぅ。
お前、でっかくなったんだなあああああ。
って。
先生たちが集まって準備をする中、ゆず先生に教えてもらった一番前のセンターってここらへんか?ってとこに陣取って、多分来てないだろう母ちゃんのためにスマホでばっちり動画を撮った。
時々ゆず先生に見惚れてたからブレたかも、だけど。
最後のキメポーズで俺の方を満面の笑みで見た春に、4月から小学生なんだなあって。しみじみ思って、涙腺が本当に、ヤバかった。
来てよかった。
俺しか居なくて春は寂しいかもだけど、周りを見れば俺も寂しいって思うけど。
来てよかった。まじで。
和太鼓が終わって、先生たち主催の夏祭りが始まった。
ヨーヨー釣りにひも釣り、射的にスタンプラリー。
手作り感満載だけど、それは保育園だからこその空気。
「春、どこから行く?」
最初に門のところでゆず先生にもらった、どこで何がやってるかって案内図とスタンプラリーの台紙を兼ねたカードを首から下げてる春に聞けば。
「ゆず先生のとこ‼︎」
春は元気に即答だった。
「で、そのゆず先生はどこだ?」
「分かんないっ」
「分かんないのかよ」
俺も春と一緒にキョロキョロしてみるけど、狭い園庭にいつもの数倍の人が居て、どうしたものか、さっぱり見つけられない。
一個一個手作り屋台を覗いた方が実は早くないか?って時だった。
ゆず先生どこーって探してる春の横を、『あの』けいこちゃんがお母さんと手を繋いで行った。
だから、もしやと思って目で追った、ら。
ビンゴ‼︎だった。さすがけいこちゃんとでも言うべきか。吸い寄せられるみたいにゆず先生に一直線だ。
「春、ヨーヨー釣りんとこにゆず先生居る」
「ほんと⁉︎行くっ‼︎行こう、なっちゃんっ」
嬉しそうに走る春を。
本当にゆず先生が大好きなんだなあって、俺は複雑な気持ちで見ることしかできなかった。
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