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「うわあああああああんっ………」
春が泣いた。
やべぇ。母ちゃんに怒られる。
って思ってる側から母ちゃんが、どうしたの?って部屋から出てきた。
ゆず先生のかわいさにどきゅーんとやられて数日。
もう500円で朝もやらない?って母ちゃんに言われて、俺は渋々を装い心で両手をあげてオッケーした。
意外にも春がやったーって。なっちゃんの送り迎えだーって喜んでくれて、それがちょっと………だいぶ後ろめたくて、でもかわいくて、俺は今度春に1回400円のガチャポンをやってやろうと心に決めた。
これで1日2回、ゆず先生に会える。
俺の毎日はゆず先生で始まりゆず先生で終わるようになった。
ただ。
保育園に行くようになって、ゆず先生はとんでもなくモテるということに俺は気づいた。
いや、あのルックスなら当たり前か。
園児のお母さんたちにはもちろん、他の先生たちからの視線も心なしか熱い。
そして園児からも。
特にけいこちゃんっていうらいおんぐみの女の子は強敵だ。
羨ましいことにいつもゆず先生に抱っこされているか手を繋いでいるかのどっちか。
春はライバル、けいこちゃんは強敵。
なんて自分を、男相手に園児相手にいいのか?って思うけど。
でもそこはまだ俺17だし。若いし。彼女ができそうで結局できなくて軽いショック状態だし、さ。な?
「何泣かせてんのよ、あんた」
母ちゃんに睨まれる。
洗濯物を畳みつつ、いやあのって。
「母ちゃん‼︎なっちゃんがっ。なっちゃんが‼︎ゆず先生にち◯こ付いてるって嘘つくんだあああああっ」
「………は、はい?」
「ゆず先生はかわいいからち◯こなんか付いてないって言ってるのに‼︎」
「や、だからな?春」
「ゆず先生にち◯こ付いてたらおれ結婚できないじゃん‼︎そんなのやだあああああっ」
やだやだやだあああああっ。
春が泣く。
母ちゃんがぽかーんってしてる。
俺もどうしたもんかと頭を掻く。
困った。
どうもゆず先生を男だと認識していないっぽい春に、さっきから説明してるんだけど。
「母ちゃん‼︎ゆず先生にち◯こなんか付いてないよね⁉︎ね⁉︎」
どうしても、認めたくないらしい。
春が母ちゃんに迫る。
誰に似たのか、色素の薄い、茶色い目にいっぱいの涙をためて。
母ちゃんは苦笑いをしながら、春をよしよしって撫でた。
「はるぅ」
「なあにっ」
「………残念ながら、夏の言う通り、ゆず先生にはち◯こ付いてるわぁ」
「付いてないよ‼︎絶対絶対絶対絶対付いてない‼︎」
「じゃあかなこ先生みたいにおっ◯いある?」
「うっ………」
「かなこ先生みたいにピンクのエプロンしてる?」
「ううっ………」
「ゆず先生は春と同じ男なんだなあ」
「うわああああああああんっ………‼︎そんなのやだあああああっ‼︎」
春の泣き声が酷くなって、おいおい母ちゃんどうすんだよって。
まあ分かるけどなあ。ゆず先生はマジでどきゅーんってなって、つい毎日送り迎えするって引き受けるぐらい猛烈に激烈にかわいい。
俺に同性相手の趣味なんかないって思ってたけど、っていうかそんなこと全然考えたこともないけど、そっこー心奪われたぐらいにかわいい。
猛烈激烈かわいいあの顔で、いつもニコニコしてて、楽しそうに園児にまみれてて、ありきたりな言い方しかできないけど、キラキラ光る太陽みたい。
昨日お迎えに行ったら、らいおんぐみの子と本気でままごとしててめちゃくちゃ萌えた。
「ち◯こ付いてたら結婚できないよぅ………」
ぐすぐす。
鼻を鳴らしながら母ちゃんにくっつく春。
………なんつーか。
春は結構マジだ。マジでゆず先生に恋してる。
その点俺はまだ春より全然だと………思う。
男同士って分かってるから、どきゅーんってやられても。めっちゃかわいいって萌えても。毎日会いに行ってても。壁が見えてて、ブレーキがかかってる。………と、思う。分かってるよって。
でも春は。
「春。外国ではち◯こ付いてる同士でも結婚できんだぞ」
「えっ⁉︎なっちゃんそれほんと⁉︎」
涙と鼻水でいっぱいの春ががばっと顔を上げてこっちを向いた。
すげぇ顔だなってティッシュを取って拭いてやる。
「ほんと」
「母ちゃんほんと⁉︎」
「ほんとほんと」
「じゃあおれ、ゆず先生と結婚できる⁉︎」
「大きくなってゆず先生が春のこと好きって言ってくれたらね」
母ちゃんの一言に、春が。
春が。
にこおおおおおって、笑った。
くっ………くそぅ‼︎くそかわいいじゃないかっ。俺の弟‼︎春‼︎
笑って。
「おれ絶対絶対ゆず先生と結婚する‼︎」
高らかに宣言した春に、はるぅ、その時は色々教えてねぇって、母ちゃんがネタ提供を要求してた。
食えねぇ母ちゃんだわ、まじで。
「………夏」
「あ?」
「あんたも」
「は?」
「ひとネタ500円」
「はあ?」
「待ってるわ」
「なっ………」
何言ってんだよ。何だよそれって思った。けど。
春が不思議そうに母ちゃんと俺を見てるけど。
ニヤ。
笑う母ちゃんに、ああこりゃ全部バレてっぞって、すぐに分かった。
「我が家はネタの宝庫、と」
「ネタのほうこ?」
ふっふっふっふっふっふ。
ふーっふっふっふっふっふ。
何のことか分かっていない春の頭をぽんぽんってして、母ちゃんはさあ仕事仕事って、部屋に戻って行った。
………理解のある親で良かったと思うべきなのか。
いや俺は………俺はそこまでまじじゃねぇぞって、牽制。
「なっちゃんあのねぇ、今日はねぇ」
「ん?」
そして今日も俺は、洗濯物を畳みながらゆず先生の話をたくさん聞いて、どうやったらもっと話せるようになるかなって。
そんなことばかりを考えていた。
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