187話 対面
「開門が遅れたこと、大変申し訳ありませんでした。通信機が壊れ計画に支障が……」
「結果何とかなったのだ、問題ない。……それで、皇都の中の様子はどうなっている? 敵兵はあとどのぐらい残っているか把握しているか?」
「はい。敵は皇都から打って出て戦う作戦にしたため、守備兵はほとんど残っておりません。その守備兵も我々で片付けました」
アルドは爪先に乗っていた敵兵の手を蹴り飛ばした。
「なるほど。では第二皇子……ではなく、現皇帝ボーゼンはどこにいる? 皇帝旗はあったが戦場には出てきていないだろう」
「そのようです。ヴァルター共々、僅かな手勢のみを従え皇城の中で縮こまっていることでしょう。尚、皇城の門にも細工済みでいつでも突入できます。」
「準備が良いな。……しかしそれは後にしよう。まだ外では戦いが続いている。そちらを早く終わらせよう。フラッゲ」
「は!」
フラッゲは死守していた皇帝旗と鞄にパンパンに詰め込んだファリア、ウィルフリード、リーン、エアネスト、その他私たちの味方をしてくれた貴族たちの旗を取り出した。
「さて、この戦いが終わったこと、時代が変わろうとしていることを、皆に知らせよう。……ハオラン、竜人たちでこの旗たちをあの壁上に立ててきてくれるか」
「了解した」
旗を受け取った竜人たちは強風に煽られながらも何とか飛び上がり、旗の掲揚を行った。
「しかしこの天気では誰からも見えないな。戦いを止め天気も晴れに戻して欲しいのだが、孔明にはどう伝えるか」
相変わらず通信機は雑音を垂れ流すだけで使い物にならない。
「レオ様、お耳、失礼します。皆様も耳を塞ぐことをおすすめします」
「な、なんだ──」
アルドが突然バックハグをするかのように後ろから腕を回し、両手で私の耳と耳を塞いだ。と、次の瞬間、
バン! ──キーーーーン………………
アルドの手の隙間から漏れ出る強烈な閃光とつんざく高音が鳴り響き、私は平衡感覚を失うかのような感覚に襲われた。
「大丈夫でしたか? これは音響弾です。これなら見えなくても遠くまで合図を送ることができます」
「そういえばそんなものもあったな……」
少し遅れて天候が一気に晴れになった。音なので距離があって多少時間はかかったが、どうやら確かに孔明に伝わったようだ。
燦燦と降り注ぐ太陽の光が私たちの濡れた旗を輝かせていた。それを見てか、次第に外から聞こえてくる争う声や罵声は収まっていく。
外で戦う国有軍の兵士たちも既に戦う理由を失っている。彼らの持つ皇帝旗は折られ、代わりに皇都には私たちが持ってきた皇帝旗が立ったのだ。これがどれ程のことを意味するか、彼らにはよく分かっているだろう。
「さて、それでは全てを終わらせに行こうか」
偽帝たちに逃げ場はない。この皇都全てが彼らを閉じ込める鳥籠だ。
プライドからか、あるいは周囲に対する政治的なアピールのためか、籠城という手段を捨て野戦を選んだことにより、ここまで私たちに攻めいられた時点で彼らにとっては敗北と呼べる結果なのである。
「レオ様、手が震えていますが大丈夫ですか? 私たちだけで皇帝を捕えてきましょうか?」
「大丈夫だタリオ。
私は震える右手を左手で掴み、深く息を吸い込んだ。
私たちは凱旋をするかのように堂々と皇都を歩いた。
千にも満たない少数ではあったが、フラッゲが掲げる皇帝旗が持つ威光があれば誰もが私たちのことを認めるだろう。いや、認めざるを得ない。これはそういう旗なのだ。
「後にも先にもこんな静かな皇都の姿はもう見ることができないだろうな」
あの人通りが多かった皇都の街並みも、不気味な程にしんと静まり返っている。
鎧の音を響かせながら歩いていた守備兵は始末され、ここまでの本格的な戦乱に直接巻き込まれた皇都の民衆は怯え皆家に篭っているのだ。
皇城に着く頃には、門は全て開いていた。これもアルドたちの丁寧な仕込みなのだろう。門番の死体こそないが、よく見ると血の跡がそこら中に見える。
私たちは更に城内を進み居館部分を目指した。
無人の城内は以前来た時のような面白味は一切感じることなく、無言のまま進んだ。
そして城の本体とも言うべき居館に着いた所で、私は重たい口を開く。
「いよいよ……、だな」
「この先は我々諜報部でも潜入は不可能でした。故に扉はこじ開けられますが中にどのような危険が潜んでいるか不明です。どうかお気をつけください」
「分かった。……開けてくれ」
諜報部に何人所属しているかは私も聞かされていない。だな母選りすぐりのエリートたちであり、守備兵を始末しこの広い皇都全てを掌握できる規模の組織である。
そんな彼らでさえ潜入はできない領域に、これから足を踏み入れるのだ。
アルドは扉に仕掛けがないか調べつつ、慎重に重たい扉を押し開けた。
団長にアイデクス、ヴォルフは私を庇うように前へ、タリオとシャルフは後ろから弓を構えて万全の体制だったが、扉を開けた先には誰もおらず、攻撃が飛んでくることもなかった。
「……中は大人数では動きづらい。族長たちは私の護衛に、他の者は露払いを。メイドや文官連中は殺すな。他かにも投降する者があれば拘束し放っておけ。後々使える」
「了解しました」
「城については私が一番詳しい自負がある。先導は任せて欲しい」
「それもそうだな。団長、頼む」
諜報部の部隊員が次々に居館へ突入していく。
それから少し置いて、団長を先頭に先程の護衛体制のまま私たちも中へ入っていった。
別の場所では小競り合いが起きたのか時折喧騒が聞こえてきたが、特に私が奇襲を受けることはなかった。
そのまま自然な流れで行き着いた先。それは玉座の間だ。
「……ここに来るまでに見つからなかったということは、奴らは絶対にここに居る。油断す──」
扉の前で立ち止まりそう話し始めた瞬間、突如扉が爆発とともに吹き飛んだ。団長がその鎧と盾を使い身をもって護ってくれたので私は無事だった。
向こうからこじ開けられた玉座の間には、彼らの姿があった。
「随分なご挨拶だな。往生際が悪いんじゃないか? ヴァルター、そしてボーゼン!」
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