149話 栄枯盛衰
馬なら二日はかかる距離だが、飛んで行くとエアネスト領には半日程で着いた。
「そこの君、私はレオ=ウィルフリードという者だ。デアーグ=エアネスト公爵に会いたいのだが……」
私は門番の兵士に話しかけた。
竜人に乗ってきた人物など初めて見ただろうから大層驚いた様子だったが、それが逆に私が只者ではないことの証明になったようだ。
「レオ様ですね! 以前よりお話は伺っております! すぐに確認して参りますのでお待ちください!」
父の名前を出さなくても済むようになったのには少し成長を感じる。良くも悪くも私の名前が広まっている証拠だ。
程なくして馬に乗ったエアネスト公爵がやってきた。
「よく来たレオ殿、それにウルツ殿。──それにそちらは竜人族の……? なるほど、事前の連絡もなしに来るだけ重大なことがあったのだな」
「はい。エアネスト公爵からご連絡を頂いたおかげで謁見には間に合ったのですが……。とにかく、どこか情報の漏れない安全な場所でお話を」
「では私の屋敷へ。だが街の中で飛ばれては悪目立ちするし民も怖がる。ここから先は馬でお願いする」
丁度そう話している時に馬に乗った数名の兵士がやってきた。デアーグ公爵が出る時に声を掛けてくれていたようだ。
「馬車を用意していなくて申し訳ないがこれでついてきてくれ」
「いえ、わざわざありがとうございます」
「……何やら話が進んでいるところ邪魔して悪いが、我らは馬に乗れない。竜人にできぬことなどないが、乗る必要がないから乗ったことがない」
「そういえばそうだったな……」
「そなたらはこんなものに乗っているのか……。臀が痛くなるわ」
今度は逆に竜人たちが私たちの背にしがみつく形で馬に乗った。
来た時のペアでそのまま別れたので、私の後ろには時々驚いて信じれない力で掴んでくるハオランが乗っていた。
「本来であれば領主として街案内のひとつでもするべきなのだろうがな」
皇都―エアネスト―そしてもうひとつの街。この三都市を通ってアキードと大規模な貿易を行っている。
それ故にエアネストは皇都に負けず劣らず、帝国とアキード両方の品々が行き交う大都市だ。
先の戦争の条約によってか、街ゆく人々の中には亜人や獣人の姿もあった。
エアエスト家は旧皇帝家との繋がりがあるとかだったはずだ。今の皇帝は二代前からの系譜で、それ以前はまた別の皇帝家が国を治めていた。
血統的に見ればエアネスト家も皇帝になり得たのだが、実力主義が強く根付く帝国では外戚の中で最も武力と権力を持っていた現皇帝家が実権を握った。現皇帝のカイゼル=フォン=プロメリトスのプロメリトス部分はプロメリア帝国皇帝が襲名しているのである。
そんなことを考えながらしばらくエアネスト公爵の背を追っていると、彼の屋敷についた。しかしそれは正確には屋敷への入口だった。
屋敷の規模で言えば私が初めて見る大きさだった。
私の知る領主の屋敷と言えば、恥ずかしながら貧相なファリア、要塞都市としてガチガチに固められた石造りのウィルフリード、宿場町として中規模なリーンぐらいだ。
しかしエアネストは帝国の中心部に位置する大都市。それらとは比べ物にならないほど豪勢で、それでいて開放的な屋敷だった。
「門を開けよ」
背丈ほどの高さしかない低めな塀と横に両開きの門を抜けると、皇城のものと比べても見劣らないほど立派な庭園が広がっていた。
奥に見える巨大な屋敷と併せて、イギリスのブレナム宮殿を彷彿とさせる壮大な景色だ。
「やれやれ、ここからまた長いんだ。まあ景色を楽しんでくれ。……と言っても、空を自由に飛び回るあなた方には少し退屈かな?」
「いえ、立つ場所が変われば見える景色も違いますから……」
庭園の中を曲がりくねった生垣に沿って進みやっと屋敷本館に着くと、二十人ものメイドが待ち構えていた。これだけの規模なら維持するだけでも大人数必要なのが見て取れる。
「お帰りなさいませご主人様」
「ああ。それで、急遽客人ができた。もてなす用意をしてくれ」
「畏まりました」
「さあ、どうぞ中へ……」
屋敷の中も外観に見劣らないほど立派で、異国情緒溢れる壁掛けの絨毯や豪華絢爛なシャンデリアが彼の実力者具合を引き立てる。
部屋数も異常で、応接間まで行くの十部屋は通り過ぎた。
ハオランたち竜人も、普段洞窟で暮らしている分私たちよりも驚いているだろう。皇城では気を緩めることができなかったが、今はらしくもなくキョロキョロと興味深そうに周囲を見渡している。
部屋に入るとエアネスト公爵が主人の椅子へ腰掛け、私たちにも座るように手で促す。
その様子を見て、待機していたメイドが私たちの上着を預かろうとする。
しかし、歳三、アルガー、部屋の後ろの方に立っていることにしたようだ。
よそ行きで、しかも相手が最上位の公爵とあれば平民である彼らは同じ位置に座ることも遠慮しなければならないらしい。
それを見て竜人たちも歳三の横に並び始め、私たちは多めな観衆に見守られる形となった。
結局は私と父、そして人間の上下関係なんてことは気にしてなさそうなハオランがエアネスト公爵の正面のソファに座った。
「それで、陛下と何があったのか聞こうか」
エアエスト公爵は一口だけ紅茶に口を付けると、前置きもなしに本題に突っ込んできた。
「はい。それでは順を追ってご説明します」
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