特別話 レオのレポートその1

『魔法という存在について』


 この世界には「魔法」という事象や「スキル」といったものがある。今回はそのうち、人口の四割が使える、またはその才能がある(魔力を持つ)とされる魔法について所感と考察を述べる。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 まず魔法という超常現象の生まれた経緯について考察する。


 これは元の世界で人類が化学を生み出した経緯に近いのではないかと考える。


「戦争の歴史は科学の歴史」と言われるように、戦争(=暴力)という、生物において最も原始的かつ根幹にある営みと生物から遠く離れた存在に思える科学はその実、密接に関係する。人類は狩りや縄張り争いをより効率化するためその科学力を磨いてきたとも言える。


 では科学が生まれた経緯とは。それは人類が窮地に立たされたということである。


 元の世界において中世に起こったペスト流行。黒死病とも呼ばれる死の病は、当時の世界人口を二割も減らしたという。

 これによって権威を失ったのは教会。つまりは宗教である。


 時に神権政治は強固な国家基盤や国民精神を生み出すが、残念ながら病に対しては神への祈りは届かず、見えざる敵に対しては宗教は無力であった。


 この窮地を乗り越え、また次は避けるために人類が目をつけたのは科学である。

 科学は医療や工業を生み、人類は遥かなる発展を遂げた。その先にあるのが幸福か不幸か、というのはここでは論じないものとする。




 このことから、この世界の住民が魔法を手にしたのも、同じように人類に対して脅威たるものが存在すると考えるのが妥当である。


 それは、帝国で言う治癒魔法や王国で言う神聖魔法が病や怪我を治すから病である、というのはいささか短絡的に思える。

 それよりもより脅威であるもの。それは魔物やモンスターといった存在だ。


 元の世界の感覚でいうと、私が産まれた時点で人類は食物連鎖の頂点にいた。そのため自らが被捕食者であるという実感が沸きずらい。

 しかし体長が優に五mは超えるであろうトロールが人間を貪り食う姿などを想像すれば、せいぜい数十cmの剣を振り回す我々が如何に無力であるか思い知るだろう。


 そこで人類は魔法を身につけた。

 いや自然淘汰の考えから言えば魔法を使える生物だけが生き残り、今の人類になったというのが正しい。


 ここでいきなり魔法を持ち出すのは余りに突飛であると感じるかもしれない。

 元の世界の人類は何かを作り出すことには長けていたが、体自体から放出することはできなかったからだ。


 では人類という枠組みを取り外して考えて見てほしい。

 ここで私は「デンキウナギ」を例に出す。

 その生き物は自らの体の内部に発電器官を持ち、貯めた電気を一気に放出することで狩りや自衛に使う。


 これは魔法に酷似した現象ではないだろうか。

「異世界人デンキウナギ説」などと言うと滑稽に思えるかもしれないが、人類が魔法を使えるという点について考えると行き着く先の一つであることは間違いないだろう。




 まとめると、話の流れ的に順番は逆になったが、人類は強大な敵である魔物やモンスターに対抗するため魔法を手にし、元の世界の人類が科学を発展させていったようにこの世界の人類も魔法を発展させていったのだろう。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 次に魔法そのものの内容についてである。


 仮に人類が魔法を使えたとして、手や杖から炎を放つといった事は可能なのか?(いや実際使えているから可能な訳だが)


 ここで前述した「電気を発する」という点をさらに深掘りしたい。

 特にこの「電気」に注目すると面白い考察が浮かぶのだ。


 この「電気」という存在は、元の世界の人類にとって最も扱いやすいエネルギーのひとつであったと言っても過言ではない。

 電気そのものを光エネルギーや熱エネルギーに変換し利用していたし、運動エネルギーを介することであらゆることが可能になった。

 それは人類単体では到底なし得ない超常現象にも思える。


 例えば、電波という存在は私の脳では全く理解できない事象だ。

 何故電波というもので数千km離れた人物と映像や音声を通じて会話できるのか。


 また生物は電気信号によって筋肉やらを動かしているらしい。

 これも私の脳では理解できないのだが、理解できないなりに考えているこの脳も電気信号の動きであって、感情とやらも全て電気信号の交差に過ぎないらしい。



 このように、「電気」はもはや超常現象の一端とすら思える。

 どこか魔法に通ずるものがあるのではないか。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 このふたつの考察をを合わせることで、元の世界における「電気という超常現象の一端を発する生物」と、この世界における「魔法の使える人類」が結びつくだろう。


 魔法と電気を結びつけることでまた都合良く説明できるものも多々ある。

 その一例としてゾンビを挙げる。


 ゾンビと呼ばれるモンスターは、死んだ人間の体が動き出し人を襲う。

 元の世界の科学いわく筋肉の動きを電気信号が制御しているので、この世界では魔力が制御していると仮定する。

 そうすると、魔力を持つ人間が死んだ時、運悪く体(脳)に魔力が残留してしまった場合ゾンビが自然発生してもおかしくない。

 また魔力の元である魔素が充満しているという魔王領において、人の戦死者はゾンビに次々と生まれ変わるというのも、説明がつきそうである。





 以上のように、魔法は元の世界でいう電気のようなものであり、人類が手にし進化させたものであると考察する。

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