121話 盟友
私たちは適当な馬を借りて会議場へ向かった。
帝国側の代表団として、爵位が上の父クラスである公爵と、私と同じ侯爵の貴族たち十五名。それと形式上、帝国側指揮官のウィリーとその部下の文官四名を加えた総勢二十名向かう事になった。
護衛の兵士は連れていかず、現在会場設営を行っている兵士たちを見栄えのために並べることになった。
というのも、国家機密になっているトップの皇族以外の貴族らは、基本その活躍によってその地位に着いている。
父の『魔剣召喚』や母の『慧眼』のように、他の一般人を凌駕する圧倒的に強力なスキルを持つからこそ貴族なのである。いや元は最下位の爵位である貴族から、スキルを見事に使いこなし戦争での活躍によって公爵に成り上がった父を引き合いに出すのは少しズレているか。
ともかく、貴族は強い。皇族は更に強い。これはこの世界での常識である。
中には下位の爵位で地方領主をやっていたバルン=ファリアのような無能もいれば、私のように圧倒的に使いずらいスキルもいるが、それは外れ値のようなものである。
つまりこの場にいる十五名の貴族は桁外れの強さを持つはずである。
特に戦争に明け暮れ、ひたすらに強さを求め続けた帝国ではその傾向は顕著である。
貴族故に強い。強い故に貴族。
従って、戦争でもしないのなら、護衛の兵士はむしろ逃げる時に邪魔になる荷物のようなものなのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
という訳で、十五名の最強格と五名のお荷物を連れ会場に着いた。
会場は指示通り、本陣と同じぐらいの大きさの天幕で、こちら側半分には帝国の紋様が刻まれた陣幕が張られていた。
周囲には帝国旗も無数に並べられ、これなら空から竜人が見つけてくれるだろう。
「会場設営御苦労であった。君たちは引き続きこの場で周囲からモンスターや魔獣が来ないか見張りを頼もう。尚、会議の内容は極秘のため会場内には立ち入らないように」
そう的確な指示を出したのはミドラ家当主のホルニッセ=ミドラ侯爵だ。
彼も実力派の貴族で父とも戦場で面識があり、ファリア反乱時には近衛騎士団率いる援軍にウィルフリードまで兵を送ってくれた、何かと関わりのある人物である。帝国側での条件をまとめる際も何かと手伝ってくれたなど、私の中で彼への好感度はかなり高い。
と言っても、この場にいるのは全員最低条件にサインしてくれた貴族であり、交渉も私主導で進めることを許してくれた貴族たちである。
いや、そももそも私が被害を最小限にするためにと勝手に戦いを終わらせたとも言えるので、最後まで責任を持って取り組むべきだ。
「──あ、あれは!……り、竜人が来ました!」
「早いな」
丁度私が会場内に入ろうとしたタイミングで、複数の竜人が上空に現れた。
例の特別な衣装を身にまとったハオランが後ろを指さすと、他の竜人たちは散っていった。
「ごきげんようレオ。……我々も旗を持ってくれば良かったかな?」
「おはようハオラン。私たちの旗ばかりで申し訳ない」
「いや良いのだ」
人化して降りてきたハオラン手を差し出した。私は恐る恐るハオランの手を握る。
握りつぶされないか心配だったが、ハオランは手加減してくれているようで、私の黒革の手袋越しに彼の高い体温が伝わってきた。
「これはこれは竜人族の代表の方ですか?私はエアネスト家当主の──」
「我は今レオと話しておるのだ。誰だ貴様は。挨拶は後でまとめてやるから良いであろう」
「こ、これは失礼……。それでは……」
彼は強力な火の魔法を使えるスキルを持つというデアーグ=エアネスト公爵だ。聞いた話では孔明の火計にも協力してくれたらしい。
そんな強者であれど、自らの目で見て強さを測らないと認めないハオランの様子に、デアーグもたじろぐ。
それを見た他の貴族たちもバツが悪そうにそそくさと会場に入っていった。
「お前は別だ、強き者の父御よ」
「そうか。それは光栄だ」
父とハオランも握手を交わす。
その後父は私を一瞥して会場内に向かった。早く来いということだろう。
私たちばかり竜人と親しくしていると、帝国を裏切ったと疑われるかもしれない。
帝国と亜人・獣人の両方のバランスを取らなければこの交渉は成らない。
「できればもう少し愛想良くしてもらえれば助かるんだが……」
「我々は仲良しこよしをしに来たのではない。……が、善処しよう。他の種族の者どもは色々な考えを持っているからな。邪魔しない程度には心掛けよう」
「ありがとう。……さあ、立ち話もなんだから中で座って話そう」
「ああ。直(じき)に他の種族の族長らも到着するはずだ」
会場に足を踏み入れると、上流貴族らの真剣な眼差しが私とハオラン注がれ、思わずはっと息を飲んだ。
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