第九話  相性

    九  相性


 柊からアドバイスをもらい日常生活から永月と少しずつでいいから話そうと白飴は思い、いつも以上に永月に話しかけていた。

「おはよう、夜紅ちゃん」

「…おはようございます‥」

突然の事ながら永月は少々驚いていたが、挨拶を返した。

「今日のメニューは何だろうね」

「さぁ…でもそろそろ武器とかに慣れておかないといけない気が…」

そんなことを話していると柊が声を上げる。

「よし、今日は武器に慣れてみようか。十時に全員地下室に集合な」

「「はい!」」

その場にいたメンバーが返事をし、それぞれまた自室に戻り準備をした。永月も白飴も同様に自室に戻り特訓の準備をしては地下室に下りて行った。

「‥さて、体術については結構学んだので、そろそろ武器にも手を出していこうかなと思います。この武器は大変危険です。取り扱いには充分に注意するように‥。でないと怪我をしたり最悪の場合、死にますので」

柊はにっこりとした笑顔で怖いことを言う。周りがざわつく中柊は言い加える。

「武器には沢山の種類がある。その中から自分と相性のいいやつを選ぶんだ。勿論、これから使いながら自分の身体に覚えさせるんだ。…じゃあ今回は俺と永月で試そうか」

永月においでと言うと奥にある棚からナイフを出す。一方永月は前に出ながら自分用のナイフを腰に巻いていたショルダーバッグから取り出しクルクルと回す。

「今回はナイフで試すが、段々慣れてきたら銃とか色んな武器を試します。ます、ナイフの持ち方について。これは人に合う、合わないがあるが、主に持ち方は二つある」

そう言うと柊は手をグーパーしながら手の向きを縦にするような普通の持ち方をする。

「これが通常の皆が恐らくナイフを持てと言われて持つ形だと思う。これも一つの持ち方になる。だが、戦闘向けとされている持ち方としてはこの逆の方法がある」

柊は先程の持ち方を変え逆手にするような持ち方にした。

「この持ち方の方が刃を力強く押して深く傷つけることができる。じゃあ試してみよう」

そう言うと奥の方から藁のカカシの様なモノを持ってきては永月の前に数体立てかける。

「じゃあ永月、こいつらを切ってね」

「了解しました」

永月は返事をするとクルクルと回していたナイフを先程柊が言っていた戦闘向けの持ち方で目の前にある藁のカカシを全体の半分を切り倒した。その光景を見ていた人達は歓声を上げながら、自分でナイフを持つ形を作ったりしていた。

「ちなみにこれが、戦闘向けと言える持ち方だ。じゃあ次に普通の持ち方で一つ切ってみようか」

永月は柊の言う通りにナイフの持ち方を変えた。そして、目の前にある一つのカカシの喉元を一突きした。藁が少し落ちるが切り落とすことができなかった。

「ナイフを持つ手の力の入れ方でもあるが、普通の持ち方では大抵敵を切り落とすことはできない。まぁ切り落とせとまでは言わないが、せめて敵の急所辺りは狙って確実に仕留めてほしい。じゃあ、これらを踏まえて一旦皆でやってみようか。くれぐれも、人に向けたり人を傷つけたりすることがないように。そんなことがあった場合は即ここから退場してもらうからな?」

柊がそう真剣そうな声で忠告すると皆が目一杯の返事をした。皆がナイフを持ち一人ずつ敵に見立てたカカシを切る練習をした。柊、永月、白飴が指導者として皆にアドバイスをした。

カカシの練習を終えた後は最初辺りに白飴が教えた拳銃を取り扱った。今回の的は木でできており印などが付いている的だった。まず最初に柊が手本を見せる。

「じゃあ次は拳銃で実際に撃ってもらう。リボルバー式だから、ここの穴に弾を入れて、次にそれを抑える金具で固定する。弾を本体とくっつけて、的に向かって構える。今回は両手でやって構わない。だが、任務の時は両手で構える時間などないので片手で行うことが多いから少しずつ慣れていこう。構えたら、的をめがけて一気に人差し指か中指を当てた引き金を引く。」

バンっと凄まじい音が地下室内に響き渡る。飛び出した弾丸の方を見ると、的の真ん中に穴が空いていた。

「凄…」

皆が的を見ていると、撃ち終わった柊が二カッと普通だぞ、と笑った。続いて柊が永月と白飴を呼んだ。何かと思えば、二人も試しに撃てと言ってきた。最初は断ったが、永月が渋々前に出て柊から拳銃を受け取った。弾の確認をしては構えて躊躇せず引き金を引いた。弾丸は的のど真ん中を貫いた。永月は無言のまま拳銃を白飴に渡した。白飴も前に出ながら弾丸を確認し拳銃を構え永月同様、的に合わせた瞬間引き金を引き弾丸は的の真ん中を貫いた。

 二人は平然とした顔をしながら柊の隣に並んだ。

「二人が実践してくれた様にこれから皆には拳銃を持って一度試してみようか」

そう伝えれば、一人ずつ前に呼んでは柊、白飴、永月がいる三グループに分けた。グループ分けができたところからそれぞれ拳銃の持ち方を教わり、実際に持ってはリボルバーの中に偽物の弾を入れて構えるところまで行った。

「凄…これが本物。思ったより重くてビックリした。これ軽々と持っててすごいですね」

あるメンバーが白飴に言った。

「え…そうかな?最初は重いって感じるかもだけど毎日のように触っていれば段々とこの重さにも慣れてくると思うよ」

白飴は得意気に拳銃を回しながら伝えた。

拳銃の重さと弾の入れ方などを学ぶと実際に撃つ練習が始まった。各ブースに分けて一人ずつ弾を入れては的に合わせて引き金を引いた。

「姿勢はいい感じだ。ただ、銃を的に合わせる時は此処の下を抑えると安定するようになる。初めのうちは此処を抑えながら撃ってみるといい」

「分かりましたボス、ありがとうございます!」


「迩陰さん、貴方銃攻撃向いているかもね、上出来です」

「そうですか?嬉しい、ありがとうございます」

それぞれ各三人からの指導を受けた組員は銃の訓練を終え、次の武器へと変更した。

「次に長剣を少し練習しよう」

すると柊はまた違う武器庫から日本刀や中国刀、長剣を取り出しては構え方、鞘への納め方と抜き方、相手の切り方などを説明した。日本刀、中国刀、長剣にはそれぞれ違いがありその違いを理解することによって任務にまたは相手によって剣の使い道が変える事が出来る。説明を終わらすと、先程のグループに分けそれぞれの刀、剣に触れ実際にカカシを切ったりした。剣の使い方を学ぶと次にスナイパーライフルの扱い方について学んだ。スナイパーライフルは柊の得意とする武器になる。柊は淡々と弾を準備しては数十メートル先にある的を撃ち抜いた。その後、組員には先程触った銃と殆ど同じ構造になっているから弾を詰める時も同じやり方でやってみようと作業に移った。それから武器庫にある代表的な武器の扱いを説明、実践をしてから柊は改めて皆を集めてこう言った。

「それぞれ自分の身体に合った武器があったと思うが見つかった奴は前に、まだ分からないよって奴はその場に残れ」

組員の三分の一が前に出てきて、自分に合った武器を見つけたという。彼らは柊に何の武器が良いか伝え、それぞれその武器の練習に励んだ。残りの組員はまだ自身では見つけられないとの事だった為スナイパー銃、長剣などをもう一度試し今度は柊、永月、白飴の三人がその人に合う武器を探すという事を行った。数時間後、組員全員の合うモノが見つかり、各自その武器を持って鍛治室に行った。此処は武器を作る所。通称鍛治室。そこには鍛治職人がいて、自分のサイズに合った武器を生成してくれる。組員は一人ずつ体型、手のサイズ、腰のサイズなどを測り職人さんにこの武器を作ってほしいと武器庫から持ってきたサンプル品を渡してから部屋を出る。鍛治室には鉄を熱している種とても暑いしもし触れてしまったら大変では済まされない事態になってしまうとても危険なところである。全員の注文を終えたところで柊がまた声をかける。

「じゃあ今日はこの辺で終了します。各自自室に戻ってちゃんと休むように。ではお疲れ様でした」

「「お疲れ様でした」」

皆そう返事をすると自室へと帰っていった。



 永月は暗い武器庫に残り武器の数のチェックをしていた。するとガチャとドアが開いた。永月は警戒しながらその場にあったナイフを手に取り構える。自分の横を通り過ぎる瞬間入ってきた人の首筋にナイフを当てた。しかし、その人物からは聞き覚えのある声がした。

「やり方はバッチリだが、声をかければ百点満点だったな」

その声の持ち主は柊のものだった。

「ボスでしたか…すみません」

「大丈夫だよ、ところで何をしていた?」

「武器のチェックですよ、数が合わないと困るでしょう?それに組員がもし持ち出していたとすれば結構な問題になってしまうと思うので」

「真面目だな…此処の武器は結構古いモノが多い。別に貰っていっても価値はない。あとどのくらいで終わるんだ?」

「あとはこの棚だけ…わっ⁉」

 柊が問いかけると永月は脚立に登り棚を確認しようとすると足を滑らせ脚立から落ちそうになった。永月は咄嗟の事に身体が固まってしまい目を瞑った。

 「…⁉…っと危ねぇ…大丈夫か?」

 永月が恐る恐る目を開けると目の前に柊の顔があった。よくよく見ると柊が永月を抱き留めていた。一瞬お互いの時間が止まった感覚があった。

 「…はっ⁉も、申し訳ございません!私は大丈夫ですが、ボスが…」

 「俺は大丈夫。永月が無事でよかった。上の棚は俺がやるよ、脚立古くなっているのかな…気をつけなきゃ…」

 柊は永月を下ろしてはそう述べて自身が脚立の上に乗り棚にある武器をチェックすると脚立から降りてきた。

 「さて、これでチェックはすべてか?」

 「はい、ありがとうございます」

 永月と柊は武器庫を出てドアに鍵を閉めた。

 廊下を歩いている中二人は先程の出来事が頭から離れないのか黙ったままその時を過ごした。

 「で、では、これで失礼します…」

 「ん、お疲れ様…」

 永月は柊にそう述べ後ろを向き自室に帰ろうとする。しかし次の瞬間柊が永月を呼び止めた。

 「どうかしましたか?」

 「…さっきは悪かった、非常事態とは言え…その…」

 「大丈夫ですよ、助けてくださってありがとうございました」

 永月はペコリと礼をするとそそくさと自室に向かっていった。

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