第八話  気持ちの正体

    八  気持ちの正体


 いつ頃からだったのだろう。人間なんかに興味すら持たなかった自分だがこんなにも彼女の事を気になり始めたのは…。初めて人を守りたいと思えた。初めて人の役に立ちたいと思えた。殺し屋を始めてから気持ちなんて心なんて何も持ってはいなかった。人を殺しても何も感じなかった。自分が何の為に生きているのかすら分からなくなった時もあったが、彼女と出会えて、共に時間を過ごして、任務をするにつれ彼女の事を知りたい、触れたい、と思うようになった。これは一体何だろうか…。

 だからと言ってこんなことを誰かに相談することもできない。なんならいっその事彼女本人に自分が今どんな気持ちになっているのかを伝えたほうが良いのだろうか。分からない。そんなことを思いながら白飴はアジトの中庭にあるベンチに一人座っていた。

「どうした白飴‥こんなところにポツンと座って、考え事でもあるのか?」

 丁度中庭を見回っていた柊がベンチに座っている白飴に声をかけてきた。

「ボス…?」

「悩み事があるなら聞くぞ?」

 そう言いながら柊は白飴の隣に腰を掛けた。

「…どうした、珍しく悩み事か?」

「…俺、分からないんです。今の自分の気持ち…みたいのが…」

「それはどういう…?」

「…なんか、最近になって初めて人を守りたいって思えたんです。後は彼女の事を知りたい、触れたい、って思うようになったんです」

「…彼女って永月の事か?」

暫く間をおいてから白飴は小さく頷いた。

「…成程、良い子だもんな…。多分それ、恋とかなんじゃない?」

「恋…?」

白飴は不思議そうに問いかける。

「そう、人の事、彼女の事を守りたい、知りたい、触れたい、等を思えるようになったのは恐らく彼女の事が好きという気持ちに白飴がなっているから‥だと思うよ」

「好き…」

「彼女の事を本気で思っているのなら少しずつアプローチしていけばいいんじゃないかな」

「…分かりました、ありがとうございます」

 そう言って白飴はベンチから立ち上がりその場を去っていった。

「…これは先を越されたかな…」

 その場を立ち去る白飴を見送りながら柊はそうボソッと小さく呟いた。


 彼女を思い始めたのはいつ頃だったのだろか。自分が今まで生きていた中でこの様な外も中も綺麗な女の子は見たことがない。人には必ず表と裏がある。俺はそれをいつも一目見ただけで感じ取ることができた。幼い頃に所属していたマフィア組織の仲間でもやはり裏はある。裏が濃い者は組織を裏切るかその前に自身から抜けていく。だけど彼女からはその裏を何も感じられなかった。入ったばかりの頃は誰でも表でいる。しかし月日が経つにつれその裏が段々と濃くなっていく。それが人間。そう思っていた。

だから彼女もいつかその裏の部分が濃くなりいずれ自身の行いに出てくる。そしていつかこの組織を去る。この組を立ち上げ数か月経つが彼女からはそれらしきものは全く感じなかった。その時俺は彼女なら信じられる。本当の俺でいても大丈夫かもと思えた。そして彼女の事を見ていくうちに話していくうちに段々と彼女自身に惹かれていった。

だが、今現在、同じ人物を好きだと言ってきた。俺は白飴がもしかしたら彼女の事を思っているかもしれないと少々嫌な予感がしていたが当たっていた。だが彼女には彼がお似合いなのかもしれない。何故なら彼、白飴も永月と同様裏がなかった。初めは少々黒い部分が見えたがロンスで共に過ごしていく中その黒い部分が少しずつ薄れていったのだ。

表しかない、という言い方は可笑しいかもしれないが、その黒の部分が無い方が此方側としてはとても有難い事だった。裏があると何を考えているのか分からない。いつこの組を裏切るのか、この組を去ってしまうのか、それを思う事はとても悲しく悔しい気持ちになるからだ。自分の何処が気に入らなかったのか、色々と考えてしまう。だからそんな事まで忘れさせてくれそうな彼女だったがもう少し早く言うべきだったかなと心残りを感じながら柊もその場を後にした。

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