第六話 ペア任務
六 ペア任務
今回の任務はとあるカジノバーの鎮圧。この国ではカジノは法律では禁止されてはいないがこのカジノバーでは麻薬などの売買も行われているそうでその情報を耳にした裏社会を代表しているお偉いさん達が阻止する為にこの任務を受けることにしたらしい。麻薬を取り扱っている人たちがわちゃわちゃといる所だ。それなりの準備はしているだろう。その事も踏まえて柊は二人に武器庫を教え何個か渡したのだろう。
「ここですかね‥一見単なるバーにしか見えませんが‥」
「恐らくバーの奥にカジノがあるんだと思う」
「成程‥取り敢えず私が先に行きましょうか?」
「え、でも‥君はまだ未成年だ。行くとしてもリスクが大きい」
「変装すればバレませんよ」
「変装?そんなの持っていないよ」
「いや、私が白飴さんの分も持っているのでそこの公園とかで着替えましょうか」
永月はそう言うと持っていた大きな袋から二人分の変装用ドレスなどの服を取り出し男物を白飴に渡す。
「ありがとう。じゃあ終わったら外で待ってるね」
「了解しました」
二人は近くにあった公園のトイレで着替えを済ませた。暫くすると普通のスーツに着替えた白飴がトイレから出てきた。周りを見る限り永月はまだ着替え中の様だ。白飴の服には盗聴器が仕掛けられておりリアルタイムで本部の方に此処の声等が送られる仕組みになっている。「すみません、お待たせしました」
白飴が出てきた数分後ドレスアップした永月が出てきた。青色のロングドレスの胸元にキラキラと輝くダイヤモンドの様なネックレスがついている。だがその中にも盗聴器を仕込んでいる。またいつもなら流しているロングヘアを簡単なお団子ヘアにして大人っぽさを強調しているようにも見えた。白飴は思わず見惚れてしまった。
「あの、白飴さん?」
「あ、ごめん、大丈夫。行こうか」
「行くってどのようにして行くのですか?」
「ああ‥」
返答に困った白飴を見ては周りをキョロキョロと見渡す。カジノバーは大体会員制になっている。それを考えると恐らくカジノバーに入るには会員証が必要となる。それを手に入れるにはどのようにすればいいのだろうか‥。外に出てきた人に聞き取りをする?それだと色々バレてしまう。
「…取り敢えずカジノバーに入るには恐らく会員証がいるはず‥」
「なら俺が最初に初回の人のふりをしていけばいいかな?」
「いや、多分それだと色々厄介になるかもしれません。それは防ぎたいので‥私が此処に迷ってきた提で行きましょう。それに私は女です。ここら辺でなり切ればなんとかなるでしょう‥危なくなったら連絡します」
「え、大丈夫なの?」
「舐めてもらっては困ります。でも私もこのようなところに入るのは初めてなので少し緊張はしますが、何とかなるでしょう。取り敢えず行ってきます」
「‥分かった、気を付けてね。無理ならすぐ連絡してね」
はい、と返事をした永月はバーのドアを開けその中に入っていった。
バーに入った途端当たり前だが酒の匂いがキツイと思うほどした。まだ酒を飲まないので辺りを見てはキョロキョロしていた。永月の様子に気付いたのかマスターらしき男性が話しかけてきた。
「お嬢さん、どうしてこんなところにいるのかな?それに君‥まだ成人じゃないでしょ?」
いきなりバレた。やはり分かる人にはわかるのか‥取り敢えず誤魔化そうか…。
「いえ、成人してますよ?ほら、証明書もある」
にこやかに微笑みながら念のために作っておいた偽の成人済みの証明書をバーのマスターに見せた。マスターはその証明書を手に取り、まじまじ見るが納得したのか永月に返した。
「まあ、疑って悪かったな。じゃあ好きな席に座りな」
「あ、いえ、私は此処のカジノバーに入っている友人に呼ばれてきたのですが…」
「‥ああ、成程。分かった。じゃあドアまで案内するからそこからは自分で何とかしろよ」
「はい、ありがとうございます」
マスターにカジノに続くドアまで案内された永月は一度立ち止まってはマスターに礼を述べカジノへ続くドアに手を伸ばした。
此処は自分の運試しの場所。その運試しの代償として自分のお金を賭ける。此処には様々なゲームがある。カジノゲームの王道ともいえる『バカラ』『ブラックジャック』『ルーレット』『シックボー』など。またその他にも日本発祥の『麻雀』『花札』『丁半』もある。そして此処では国籍関係なくカジノという一つの娯楽に人々は時間を預けている。
ドアを開け中に入った永月は周りを見ながらこのカジノを仕切っている人物を探した。すると後ろから黒ずくめの男から声をかけられた。
「おい、貴様何処から迷い込んできた。此処は未成年禁止だぞ?」
「いえ、私は成人しているので‥法律的には大丈夫ですよ」
「じゃあ此処の会員証は持っているだろうな?」
「ごめんなさい、今日は初回で‥なので持っていないです。因みにその会員証というのは何処で手に入るのですか?」
永月は淡々とした口調のまま嘘を男に伝える。だが男も男だ。永月が先程のマスターと話したように成人済みというのが書かれている証明書を男に見せるとまんまと彼女が成人済みだと認識してしまったのだから。裏社会の人間ならそのくらい日常のようにして行ったっておかしくはない。続けて男は永月に問う。
「通常此処は初回の方でも此処の会員の人に招待状を貰わないと入れない所なんだ。そのような招待状ももらっていないのか?」
「はい、貰っていません。昔此処で遊んでいた友人に教えてもらったので‥」
「じゃあそいつの名前を教えてくれないか?ここで遊んでいたという事は会員だったんだろう?」
「…いえ、その子もどっかの誰かさんに教えてもらったとか。それにあの子はもう亡くなっているので連絡は取れません。それにその子がもう教えてもらった人の連絡先も分からないので」
「そいつの名前は‥?」
永月は申し訳なさそうに横に首を振る。
「そうか‥分かった。今回はこのまま遊んで良い。ただ今から俺と一緒にボスに事情を説明してボスからお前に招待状を渡せないか話してみよう」
「本当ですか?ありがとうございます!」
永月は満面の笑みを浮かべながら男に礼を言った。まさかここでボスとご対面するとは思わなかった。こんなに早くも殺す対象に近付ける。絶対にこのチャンスを逃さないようにしたい。そう思いながら永月は男の後ろからついていく。奥の方に進むとカーテンがあった。カーテンを抜けると黒スーツを着ており少し腹の出ている四十代後半あたりの男が優雅な椅子に座っていた。こいつがこのカジノを仕切っているボスなのだろうか。
「…なんだ」
「今回初回のお客様なのですが招待状も会員証も無い為ボスからの許可を頂こうと…」
「ふーん…」
ボスは立ち上がり永月の周りをまわりながらじろじろ見てくる。正直言うと気持ち悪い。絶対下心あるパターンだ。一通りみたボスはまた椅子に座ると口を開いた。
「‥分かった。今回は俺の許可を出してやる。だがその代償として今夜俺と共に一夜を過ごせ。分かったな?」
ボスはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながらそう述べるとその場にいた他の輩もニヤニヤと笑っていた。
「‥‥分かりました。その条件で受けましょう」
「良い子だ…じゃあ‥十五分後にまた此処に来い。それまで奥のシャワー室を使ってこい逃げ出すんじゃないぞ?見張としてこいつを待たせるからな」
先程の男の肩をポンポンと叩きながらそう言って
「‥それ条件が違うと思うのですが…?」
「いや違わないよ?君は勘違いしているようだから伝えておこう。今夜とは今の事だ。今は夜。そのままの意味さ…」
永月は思わずため息をつく。
「はあ…分かりました。浴びてきます‥…」
永月はそう述べると男にシャワー室まで案内された。シャワー室に入ると服を一旦脱ぎ、シャワーを流しながら盗聴器を通して男に聞こえないように小声で白飴に連絡する。
「…此方永月。白飴さん、聞こえますか?」
『此方白飴、聞こえるよ、夜紅ちゃん。もう出動していいの?』
「良いんだけど、少し待ってほしい。今さっきボスと対面できた。カジノに続くドアを直線状に行くと奥にカーテンが見えるの。そこにボスはいる。そしてそこに私もいる。大丈夫、まだ何もされていないのでご安心ください。今から十五分後白飴さんは警察の真似をしながら入ってきて下さい。恐らく警察と聞いたら奴らは諦めるか攻撃しに来るから。その前に私はカジノバーの全ての電源を落とします。それと同時に私が合図をするから突入してきて下さい。その後の事は白飴さんに任せますので…」
『…夜紅ちゃんが無事でよかった。分かった。じゃあ合図まで近くで待ちます』
「宜しくお願いします。‥ではご武運を…」
連絡を閉めては折角なのでシャワーを浴びた。
夜紅ちゃんの合図が来るまで残り五分…。胸ポケットには偽の警察証。勿論名前も変わっている。そして腰に巻いてあるショルダーの中にはリボルバー式の拳銃が入っている。勿論本物の弾入り。弾などが入っている事を確認すれば木陰からカジノバーの様子をうかがっている。暫くするとキラキラと輝いていたカジノバーがふっと真っ暗になった。その瞬間盗聴器から夜紅ちゃんの声がした
『今です…!』
それを聞いたと同時に白飴は拳銃を片手に警察証を片手にとり、カジノバーのドアを蹴り飛ばすと声を変えながら
「‥警察だ!手を挙げろ‼!‥此処に麻薬などの売買をしているとの連絡が来た。そこのボスに会わせろ!」
シャワー室から戻ろうとする手前でブレーカーを見つけた。男が進んでいる隙を着いては静かに後ろから男の急所を叩き気絶させた。その後にブレーカー及びカジノバー全ての電源を落とした。少し経つと白飴とは違う声がドアの奥から聞こえた。
『‥警察だ!手を挙げろ‼!‥此処に麻薬などの売買をしているとの連絡が来た。そこのボスに会わせろ!』
ボスの所に戻ると会場全体が悲鳴を上げていた。そして皆バタバタしながら客が裏口から出て行っていた。ボスも何が起きたのか理解していないようでワタワタしながら麻薬らしき白い粉の入った袋を懐中電灯を口にくわえながらアタッシュケースに詰めていた。
永月はコツコツとボスに近付いては太腿に着けていたショルダーの中から拳銃を取り出し、ボスの頭に突き付けた。
「…貴様がやったのか‥嵌めやがったな⁉」
顔をタコの様に真っ赤にしながら怒り狂っているとボスも拳銃を持って永月に突き付けた。
「別に嵌めてはいない。お前らが法律で禁止されている麻薬の売買を行っているからだ」
「それ…どこから…」
ボスは驚いた顔をしながら永月に問いかける。永月はそれに答えるように淡々と言う。
「あんたらが麻薬の売買を行っている事を裏社会のお偉いさんから聞いたの。それでうちのボスからアンタを殺すように命令されたの‥‥残念だったわね‥‥私と最後の夜を共に過ごせなくて」
永月は先程のボスのニヤニヤを返すように不気味な笑いを浮かべた。暫く沈黙が続くと白飴がカーテンを開けて此方に入ってきた。
「夜紅ちゃん!大丈…夫?」
「‥ええ、大丈夫ですよ」
白飴の存在に気付いた永月が彼の方を向くとニコッと微笑んだ。その隙を着いたのかボスが永月の胸元向かって銃の引き金を引いた。
「夜紅ちゃん、危ない…!」
そう慌てて言いながら白飴が永月に向かっていこうとするがそれを永月が制する。しかし次の瞬間瞬きする間もなく弾丸が永月の胸元に直撃する。空いた穴から赤い液体が噴き出すと思っていたがそれらしきものは全く出てこなかった。白飴は恐る恐る永月の胸元を覗くとそこに刺さっていたのは弾丸ではなく、小さい注射筒が刺さっていた。白飴が思わずその注射筒を抜こうと手を伸ばすが永月はその手を抑え黙って首を横に振った。
「でも…」
白飴は心配そうに述べる。
「大丈夫です。単なる麻酔銃なので…。それにこの銃を仕込んだのは私なのですから」
「え…?」
白飴も撃ったボス本人もポカンと不思議そうに驚愕した。
「自分が仕込んだものって‥どういう事?だってこれはこいつの銃だろ?」
「そいつの銃は私が持っている。あの時の暗闇を利用して私のとボスのを入れ替えたんだ」
「…そんな‥全く気が付かなかった…」
ボスが青ざめた顔をしながら言った。
「ホントに無防備なんだから…じゃあ取り敢えず白飴さん、後の処理お願いしても宜しいですか?」
「勿論、ゆっくり休んで」
「ありがとうございます…」
永月が礼を述べると瞼を閉じて静かに眠りに落ちその場に崩れ落ちるがそれを白飴が受け止めた。白飴はそれを確認すると近くにあるソファーに永月を寝かせては逃げ出さないようにボスを縄で拘束した。周りはまだ暗い状態だったため小さい明りを点けながらブレーカーを探し電源をオンにしボスと永月を裏口に止めてあった黒塗りのセダンに乗せアジトに帰っていった。
任務を無事に終わらせアジトに戻ると残っていたメンバーが迎えに来た。
「お疲れ様です、白飴さん。…あれ、永月さんは?」
「お疲れ‥ああ、今車の中で眠っている。君たち車のトランクの中に今回のターゲットが入っている。そいつを地下の拷問部屋まで案内してやってくれ」
横にある車のトランクを横目で見ながら言って
「分かりました」
「ありがとう」
そう述べるとメンバーがトランクを開け、拘束されているボスの両腕を持ちながら地下にある拷問部屋へと誘導していった。誘導しているのを確認すると車の後ろのドアを開け眠っている永月を抱き上げ彼女の寝室へと向かった。
暫くして薬の効果が切れたのか永月が目を覚ました為任務時に着ていたドレスから普通の服に着替え白飴と共に柊の部屋を訪れた。
「無事に任務は終わったようだな、お疲れ様」
任務が終わったという事を柊に話すと彼はにこやかにそう言う。
「今、他のメンバーに今回のターゲットを見張ってくれています」
「そうか、分かった。後で俺が話をしに行こう。お前たちは来るか?」
「攻撃されては心配なのでついていきます」
一様見張はいますが見張だけでは少し心配な面もあるのでと白飴が言う。一方永月はというと興味ないのでと行かない様子だった。柊は分かったと頷けばもう一度お疲れ様と言い白飴と一緒に部屋を出た。
地下へと続く長い階段を下りながら柊と白飴はメンバーについて話していた。
「あの、最近他のメンバーとかってどうなっているのですか?」
最近白飴は永月と共に行動しているため、他のメンバーとの交流が少なくなっているのが事実であり、珍しくメンバーについて問いかけてきた。
「他のメンバーも地道にだけど確実に成長しているよ、お前らもいつか抜かされないように精進しておけよ」
白飴の肩を軽く叩きながら階段を下りていく。暫く歩くと霧雲が牢の前に立っていた。二人を見るとお疲れ様です、と敬礼をする。牢の中には先程白飴たちが捕えてきたボスの姿があった。
「気分はどうかな?」
ボスは機嫌悪そうな顔をしながら柊に向かって述べる。
「フン、別に…悪いったらありゃしない…」
「それはそれは…気分悪くしたのはどっちだ?貴様の自業自得だろうが…」
柊は低い声でボスを威圧するかのように述べた。
「早速本題に入るが、何処からブツを手に入れた?入手方法は、そのルートは?」
「一度に質問するな…答える気を無くす」
「それは失礼‥じゃあまず何処からブツは手に入れた?国内か、国外か‥」
「…国外だ」
「国は?」
「…アメリカ‥」
柊の質問に対し淡々と答えていくボスの姿を見て白飴は少し不思議そうに首を傾げた。白飴の経験上、情報を吐かせるには結構な時間と労力がいる。なのに柊の場合、対象者にすぐに吐かせていた。これがボスという者なのか、と改めて思わされた。
数時間が経ち、ボスから情報を聞き出す作業が終わると柊と白飴は地下から出た。
同時刻、自室にて武器の手入れをしていると開いていた窓から1羽の鴉が飛んできた。カアカアと鳴きながら永月の傍に寄って来る。永月は寄ってきた鴉の頭を優しく撫でた。
「お帰り、鴇」
鴉は永月の唯一の存在といっても過言ではないだろう。永月がまだ幼い頃、怪我をした鴉が道端に落ちていたのを拾い怪我の手当をしたことがきっかけでその後ずっと共に過ごしていた。鴇という名前は永月の月から取ったそう。人の言葉が分かるのか永月だからわかるのかは不明だが永月が頼んだ仕事を完璧に熟してくれる。頼まれた仕事の関係上殆ど外にいるのでたまに帰ってくるとこのように永月に甘えてきて少し可愛い。
永月は武器の手入れを一旦止め、鴇を膝の上に乗せると毛繕いするかのように撫でる。鴇はそれを気持ちよさそうにしてはされるがまま永月に身を委ねた。
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