第五話  実技練習

       五  実技練習


 あれから毎日のように地下の特訓場で何十時間とかけて実技の練習をしている。柊、白飴、永月の三人がかりで十人程の練習を指導している。皆の休憩時間では白飴と永月がタイマンで手合わせをする。それが最近の日課になった。

「すみません、永月さん、この場合はどう対応すれば良いですか?」

「ああ、この場合は相手の脇に爪を立てる。今は指の腹でいいけど爪を立てることでリンパ線が脳に痛いと命令を送らせる。その隙を狙って相手の体勢を崩すもOK、一度距離を離すのもいいかもね」

「成程、分かりました。ありがとうございます」

「いえ、また何かあれば聞いて下さい」

「はい!」

「なぁ、永月さんって優しいよな‥、自身も強いし頼りになるし、それでもって美人さんだし‥クールでカッコいい所もまた良い‥。」

「分かる、何か本当に未成年ですか?っていうぐらい落ち着いててさ」

ロンスは男女の比率が九対一のような割合の為男が恋愛心情みたいなものが芽生えてしまうのも仕方がない。だからと言って自分がそのような恋愛心情に目覚めるかといわれるとそうでもない。別に恋愛なんざなくたって生きていける。任務に支障が出なければそれでいいと考えていた。




 ある日永月は一人のメンバーに呼び出された。

「あ、あの、永月さん‥、俺、君の事が好きなんだ。だから‥俺と付き合ってください」

ああ‥これが世に言う告白というモノか。別に悪い気はしないが興味はない。

「ごめんなさい、はっきり言って貴方には興味はないの、そんな事している暇があるなら任務に貢献できるように特訓しなさいな」

「…はは、流石はアンダーボスさんだ。だけど男三人相手じゃ無理だろ?」

他にもいたのか物陰からぞろぞろとその姿を現してくる。そして同時に永月に襲い掛かる。永月は無表情のまま男共に押し倒される。

「何だ、抵抗しないのか、まぁそのほうが有難い。そのまま俺たちに食われてろ」

そう言えば一人が永月の服に手をかける。その時誰かが男に掴みかかり殴り飛ばした。

「っ、てめぇ誰だ!」

声を荒げる。殴り飛ばしたのは白飴だった。

「誰って‥同じ医療班の白飴だが‥この事をボスに知られたらどうなるのかな‥?」

白飴は先程隠れて撮ったであろう動画を奴らに見せた。男たちは青い顔になってごめんなさい!とその場を走り去った。

「大丈夫ですか?」

白飴が永月に手を差し伸べる。永月は大丈夫です、と言いながら起き上がり服のシワと汚れを払い落としながら白飴に言う。

「何故助けたんですか?」

「何故って‥無抵抗な女の子にあんな事をする男は最低だ。それを見て見ぬふりなんかできなかったから。それに何だか無性に腹が立ったから」

白飴は吐き捨てるように答える。

「そうですか‥それでは私はこれで失礼します。…あ、助けてくれてありがとうございました。‥では‥。」

そう言うと永月はその場を後にした。


 次の日の練習から昨日の男達は来なかった。恐らく柊に怒られ此処を辞めていったのだろう。何故ならあの後の夜、白飴と柊が二人で話しているのを見たからだ。それに柊から何かあればすぐに言ってね、と注告みたいに言われたので多分あの時の事だろうと思いながら分かりました、と礼を言った。

「‥さん、永月さん」

自分の名前を呼ばれハッとなり声のする方を向いた。

「あ、ごめんなさい、どうかしました?」

「すみません、少し足を挫いてしまって‥今日お休みしてもいいでしょうか」

「ああ、いいですよ。奥の所で座って見学でもしてください、もし痛みとかあるようでしたら白飴さんの所に行ってください」

「分かりました、ありがとうございます」

すると言われた通り奥に行った。奥に丁度白飴がいたので一度白飴に足の状況を説明して奥の段差に座り皆の練習を見ていた。

「‥さて、今回も始めようか。白飴と永月、前においで」

いつもの白飴と永月の一騎打ちが始まる。あの出来事から数日しか経っていないが練習とプライベートでは話が違う。どちらとも本気の目をしている。まるで目の前にある獲物の首に一噛みで殺すような鋭い目つき。これが始まる合図だ。

「始め!」

柊がスタートの合図を出す。それと同時に二人はお互い距離を取る。因みに今まで一騎打ちを行ってきてどちらが勝っているというと結果的には永月だ。人自体の力では白飴の方が勝つが体術、体力の使い方、技術の使い方で言うと永月の方が勝っている。


 取り敢えず距離は取ったが今回はどのようにして攻撃をしてみようか‥あっちから仕掛けてきたらまぁ私にとっては好都合。自分は先に攻撃を仕掛けるより先に相手の攻撃を防ぐ方が好きだ。多分皆相手の攻撃の仕方が分かるので先に防ぐ方が良いだろう。しかし今回も武器は使わず体術だけで勝負する。そろそろ自分が持っている体術のストックはもう底をついている。今回はこちら側から仕掛けてみようか。


 今回はどのように仕掛けようか悩んでいると永月が先に仕掛けてきた。永月の拳が顔面に飛んでくる。咄嗟に避けては彼女の腕を掴み投げ技をする。永月は珍しくバランスを崩すが受け身を取ってすぐに立ち上がった。やはり一筋縄ではいかないという事か。

二人は激しくお互いの身体を傷つけ合った。そして白飴が永月に攻撃を仕掛けると永月はその場を動かず白飴の攻撃を直で受けその場で膝をついた。今回は白飴の勝利となった。周りの連中は歓声を上げているがその中で白飴と柊は何だか引っかかっている顔をしていた。

「…二人ともお疲れ様、今日はこれで終わろう。解散だ」

「「ありがとうございました」」

周りがゾロゾロト帰っていく。全員が出て行ったところで柊が永月の所に行き声をかける。

「大丈夫か?」

「大丈夫です‥」

そうは言っているが、よく見ると永月の顔は真っ青になっていた。

「ごめん、無理させちゃったかな‥俺医療室連れていきます」

「ああ、悪い。よろしく頼む」

そう言うと白飴は永月をそっと抱き上げ地下室を出た。


 永月はマフィアメンバーの前にちゃんとした年頃の女の子。あのような事が起きてもおかしくはない。まぁ周りが全員男で言いにくいのはあるだろう。そう思いながら、顔を顰めながら寝ている永月を医療室のベッドに寝かせ布団をかぶせた。軽く触れてみると永月の手首足首が冷たく感じた。何か温められるモノがないのだろうかと探していると永月が起き上がった。

「あ、もう少し寝ていてもよかったのに。ごめんね、気付かなくて…」

「…気付いていたのですか?」

「いや、ついさっき知った。君の手首とかが冷たかったから」

「そうですか‥」

「何か温かい物でも持ってこようか?」

布団の中に潜っていく永月に白飴が聞いた。

「…カイロとかありますか?」

「カイロだね、分かった。すぐ持ってくる、貼るタイプでもいいかな?」

「大丈夫です」

それだけ言うと永月はまた布団の中に潜っていく。白飴は言われた通り医療室にある戸棚からカイロを何枚か取り出しては永月の所に戻って彼女にカイロを渡した。

「‥ありがとうございます」

「いえ、良ければ貼りましょうか?」

「大丈夫です、自分でやります」

「ですよね、ではまた何かあれば呼んでください」

そう言うと白飴は医療室を出て柊の所に向かった。



柊の部屋の前に着いてはコンコンとノックをした。ドアの向こうからどうぞ、という声がしそれと同時に白飴が部屋に入る。

「失礼します」

「お、どうだった、やっぱり…」

「はい、恐らくあの日かと‥手首や足首がとても冷たくて彼女も温かい物を求めていたので‥顔も真っ青だったですし‥」

「まぁメンバーの前にれっきとした女の子だからな、そんな日もある。今日明日と彼女に休ませるよう伝えといて」

「分かりました」


 二日間程休んでしまった。一様身体の調子はこの前より良くなったが、早く復帰しないと体が鈍ってしまう。そう思いながら重く感じる身体を起こしベッドから降り任務用の服に着替える。身支度を済ませた永月は柊の部屋へと向かった。

「失礼します。今お時間宜しいでしょうか?」

「ああ、どうぞ」

柊の声がドアの奥から聞こえると永月は部屋に入った。

「もう体調は大丈夫なのか?」

「はい、もう大丈夫です。お騒がせしました」

「ならよかった、でも体調悪くなって倒れたりしたら本末転倒だからな、何かあればすぐに言うんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「あ、そうそう、復帰したてで悪いんだけど、三日後白飴と任務に行ってもらうから準備しておいて」

「分かりました、では失礼します」

そう述べると永月は部屋を出て自室に戻ろうとするところを柊に呼び止められた。

「忘れてた、ある程度準備ができたら一度俺のところに来い」

「分かりました、では失礼します」


 柊に向かって礼をするとまた歩き始めた。白飴と初めて共に任務をする。他人と任務を共に熟すのは初めてだった為少し不安を感じていた。だが彼も経験者、手合わせしている感じではよく動いてくれそうな雰囲気はあった。だが油断は禁物。例え彼が戦闘不能になった場合の事も考えて念入りに準備するようにした。


 その日の夜ある程度の準備ができたため言われた通り柊の部屋に行き柊と軽く話した。

「それで‥今回の目標なんだが‥」

「‥どうしたんですか?」

「いや、ちょっとな‥おい、いるんだろう?入ってきていいぞ」

誰かいるのかと少し驚いたが入ってきたのは永月だった。彼女も呼ばれたのかと思いながら此方に向かってくる彼女を見ていた。



 永月は言われた通り柊の部屋に向かうとドア越しで二人の話し声が聞こえそのまま聞いていると柊の声が聞こえた。

「いるんだろう?入ってきていいぞ」

驚いた。まさかバレていたのか?何も音は立てていないはずなのに。取り敢えず中に入って話を聞いた方が良いだろうと思い失礼しますと言いながら部屋に入った。

「すみません、ドア越しから声が聞こえたので」

「いいよ、話す手間が省けたから」

「あのお話って」

白飴が続きの話が気になるのかそう切り出して

「ああ、今回の任務にあたって君たちには武器庫を案内しようと思ってさ」

お前らには必要ないかもだがなと苦笑しながら二人に話す。でも取り敢えずどんな武器があるのかは気になるため教えてくださいと白飴と永月は目を輝かせた。

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