第四話  手合わせ

      四  手合わせ


 今日から本格的にボスからの特訓が受けられる。昨日教えてくれた白飴っていう人も分かりやすかったけどボスはもっと分かりやすく教えてくれるんだろうな‥。

昨日の夜の集まりで明日から本格的な特訓を行う、とボスが言っておりまもなくその時刻が近づいてくる。特訓を受ける者たちは今か今かと楽しみそうにその時を待ち受けている。すると地下へと続くであろう重そうな鉄のドアが開いた。中からは柊が出てきた。

「やぁ、皆おはよう。取り敢えずこっちについておいで」

「「ボス、おはようございます!はい、分かりました」」

意気投合してるかのような元気な返事が返ってきた。皆の目がキラキラと輝いている。そんなに楽しみなのか、と内心嬉しそうに笑いながら皆を地下の特訓場へと案内する。

 地下は少し冷えて静かで室内で暴れるには最適な場所だと言える。

「さぁ、ここが皆がこれから特訓する場所だ。やる時はいつも全力でやる事。あと此処には危険なモノがたくさんある。無暗に触らないように、いいな?」

「「はい‼」」

危険なモノがある、この事を伝えられるとき柊から物凄い威圧を感じた。もしそのモノに触れてしまったら最後、命はないだろう。

「じゃあまず、アップをしてそこから体術の方をやっていこうか」

そう言うと皆体操をしたり軽く走ったりしてそれぞれアップを始めた。最初なので怪我をしたらこれからの任務などにも悪影響が出てしまうと考え最初が肝心だと皆に伝えた。そしてアップが一通り終了し、体術の授業に入っていった。

「じゃあ、まず皆には基本的な体術をいくつか教える。最初だから見様見真似で軽くやってくれれば問題ない。取り敢えず、知るより見たほうが早い。おい、入っていいよ」




 ‥いつの間にか寝てしまったのか、目が覚めると先程まで寝ていた男が起きていた。様子を見る限り問題なさそうだ。

「ごめんなさい、私が寝てしまっていました。身体の調子はどうですか?」

白髪の男は答える。

「ボスから聞いた、その‥ありがとう。助かった、身体はもう大丈夫」

「そう、それならよかったです。では私はこれで失礼します」

「あ、あの…どこに行くんですか?」

「何処って‥ボスのところです。頼まれ事があるので」

「それ‥俺も行っていい?」

「別に構いませんが、何もないと思いますよ」

「…特訓」

「‥知っているのであれば好きになさい」

そう言って永月は部屋を出る。そのあとを追いかけるように白飴も部屋を出た。

つい勢いでついてきてしまったが大丈夫だろうか。相手はアンダーボス。ボスの次に強いってことだよね?…でも普通の一般人から見ればただの女の子。そんな子が何で此処に‥何かしら事情があると言え、普通の生活を送ったほうが良い気がするが…。そんなこんな思っているうちに永月が地下へと続く扉の前で止まった。そして軽くだが、柊の声が聞こえる。

「入っていいよ」

そんな声が聞こえると同時に永月が鉄の扉を開けて中に入っていった。




 何故アンダーボスがここに?体術を見るとしても男であるボスと一見ただの女の子にしか見えないアンダーボスとじゃ話が違う。

「準備は大丈夫?」

「いつでもどうぞです」

永月が軽くストレッチをしている中柊は言う。

だが普段とは何か違う威圧を永月から感じた。少しでも力を抜くとその場で気絶してしまうようなそんな威圧が‥。それに目つきも普段と違う。鋭く獲物をこれから狩ってしまうのではないかと思ってしまう。そんなことを思っていたら

「来い」

と大きな声が聞こえて慌てて二人の方を向いた。

最初に仕掛けたのは永月だった。近付いて柊の腕を掴むと後ろに回し彼の膝を落として跪く様な姿勢を取らせると彼の首元に中指を当て一旦終了。

「よし、お疲れ、永月ありがとう」

「いえ、それよりもボス大丈夫でしたか?少しは手加減したつもりでしたが‥」

永月は慌てて手を離すと心配そうに聞いた。

「ああ、大丈夫だよ。それよりも皆にも良い影響を与えられたんじゃないか?」

そう言えば皆の方を見る。皆唖然としているがそれなりに理解した人もいそうだ。



柊の膝を落として跪く様な姿勢を取らせると彼の首元に中指を当て終了した。あれがアンダーボスの実力なの?これで初級当たりなら本当はもっと強いと仮定した方が良いのだろうか。俺は彼女の姿を見て少々感激してしまった。あんなに綺麗ではっきりしている動きをあまり見たことがない。それに先程まで出ていた異様な威圧感もいつの間にかなくなっていた。恐らくやる時はやる、やらないときはやらないとメリハリをつけているのだろう。すると柊が俺の方を見て近付いてきた。

「やっぱり来たか、待っていたぞ、白飴。もう動いて大丈夫なのか?」

柊は嬉しそうにそう言う。

「はい、もう大丈夫です」

「それならよかった。…あ、折角だし二人にやってもらうか」

名案だ、と満面の笑みを浮かべながら永月と白飴の方を交互に見る。永月と白飴は目をパチクリしながらお互いの顔を見る。何故自分らがやらないといけないのか、と‥。どうせやるなら他の人たちがやればいいのにと思っていた。すると霧雲が口を開いた。

「あの‥今日は特訓するのでは‥?」

「ああ、変更。今日は二人の体術を見て学ぶだけ、実践は次回からにする」

ドヤ顔をして述べる柊に対し皆ぐうの音も出なかった。柊は白飴の背中を押しては自分が元いた場所まで連れて行った。ああ‥これはやるしかなさそうだ‥。永月と初めてちゃんと面と向かうかもしれない。よく見れば可愛らしい女の子の顔をしている。これ‥まだ成人していないんだよな?と疑う程大人の様な顔つきだ。

「あの‥何か?」

「‥あ、いや、何でもないです」

見過ぎてしまったか‥つい見惚れてしまった。そう恥ずかしそうに顔をそらした。

「‥さっきと同じ事をすればよいですか?」

「いや‥それはつまらないから普通にやっていいよ、ただし、武器は使うな、飴もダメだ」

「分かりました」

そう言えば改めてお互い向き合う。皆の前だからなのかボスの前だからなのかわからないがいつも行っている任務の時よりも緊張感が増す。

「じゃあ‥始め!」

柊の合図でお互い一度距離を取る。



相手は経験者と聞く。いつもの様にやれば良いのに何故か足が身体が動かない。いつもはこんなんじゃないのに。頭の中が真っ白になりかかっていた。どう攻撃すればよいのか、どう攻撃を防げばよいのか、そんな事を考えていると目の前に拳が飛んできた。


 相手は経験者といえども一人の女の子だ。傷をつけてはダメだ。だけど手加減をしたらボスに何て言われるか‥。でも相手側から攻撃が来ない。ボスとやっていた時は進んで行っていたのに何故動かない?こちら側から攻撃を仕掛けてよいという事なのか?少し不安になるが彼女に向かって拳を突き出してみた。



 最初に仕掛けたのは永月ではなく白飴の方だった。白飴が永月に向かって拳を突き出す。だがその拳は素人でも避けられるような速さの拳だった。恐らく手加減しているのだ。確かに女の子を傷つけるのはあまりよろしくない。永月は当然の様にその攻撃を避け白飴の腹を蹴り飛ばそうとする。だが白飴は自分の手でそれを制した。その勢いのまま永月は後ろに回転しながら白飴から足をどかした。二人は攻撃しては相手の攻撃を防いでの繰り返し。はっきり言って僅差に近かった。そして永月が白飴の隙をついて後ろに回り彼の膝を落とし首元に中指を当てる。終わりの合図だ。

「二人ともお疲れ様、とてもよかったよ、見てるこっちも楽しかった」

そう柊は満足そうな顔をしながら言う。

「傷とかは大丈夫?もしあれば手当するけど」

「大丈夫です、そんなに怪我してないですし、あったとしてもこのくらい気にすることありません、そちらも大丈夫でしたか?」

「ああ、大丈夫。そっちも大丈夫そうで良かった」

「ふふ、じゃあ今日はこれにて終了しよう。他の皆は二人がどんな攻撃をしていたのかどんな風に仕掛けていたのか防いでいたのかを軽くでいいからまとめておくように」

「「はい!」」

返事をしてはバラバラと地下から自室に戻って行った。永月達はまとめるものでもあるのかと不安そうに帰っている皆の事を思って見ていた。

「あー、お二人さんさ…」

柊が二人に声をかけた。

「何でしょう?」

「君たち、相性良さそうだから次からの任務は二人ペアで行ってきてね」

「「…え?」」

思わず二人同時にハモってしまった。柊は同時に驚く姿を見てケラケラと笑う。

「あ、あの何故アンダーボスさんと一緒に…俺は医療班ですよね?医療班の人間が任務に行ってしまったら誰が治療をするんですか」

白飴が慌てたる様子で柊に問いかける。

「なんだ、永月と一緒じゃ嫌か?それに医療班なんざ雇えばいくらでも集まる。今は経験者が君たちしかいない。お前らが任務に行っている間あいつらの面倒は俺が見る。それなら文句ないだろ?」

「別にアンダーボスさんが嫌っていうわけではないですが‥‥分かりました。承ります」

柊の提案に納得したのか諦めたのか分からないが了承して

「よし、じゃあ取り敢えず戻ろうか…ん、夜紅?」

戻ろうとする柊が何かに引っかかっている様な表情をしている夜紅に問いかけて

「…あの、別にアンダーボスさんじゃなくていいです。いちいち言うのもめんどくさいでしょ?夜紅でいいです」

「え‥分かりました、ありがとうございます」

「敬語じゃなくてもいいです」

「ん、分かった」

それを聞くとスタスタと地下室から出て行って

「まぁ、少し難しいお年頃だが頑張ってね」

ポンポンと白飴の肩を軽く叩いては柊も地下室から部屋に戻ろうと。そのあとを追って白飴も地下室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る