第三話  初めての『お仕事』

     三  初めての『お仕事』


 はぁ…と溜息をつきながらボスである柊と一緒にとある目的地に向かっている。別に一人でもできるのに何故ついてくるのか少し不思議に感じた。

「そんなに溜息付かないでくれ、悲しいぞ」

「‥別に溜息なんてついてませんよ」

「…そういえば永月は幼い頃からこっち側の人間だったって言っていたよな?何か理由とかがあるのか?両親がこういう系の仕事柄だったとか」

「‥いえ、別にそういうわけでは‥」

「そうか、まぁ無理に言わんでもいい」

口数の少ない中話していたらいつの間にか今回の目的地に到着した。

「今回は此処で任務を行う。内容はさっき説明した通り、覚えているか?」

「ボスが連中を引き連れている隙にターゲットを二階の柵の間から撃ち抜く」

「正解、ターゲットが死んだことを確認したら後ろから応戦してくれ」

「了解」

「じゃあ頼むね」

そう言うと永月は二階へ駆けあがりスナイパーライフルの準備をする。その一方柊は敵の陣営をこちら側に引き寄せるために小道具などを準備する。二人の最終チェックが終わったところで柊が目の前の扉を開ける。

「…やぁやぁ皆さんお揃いの用で…」

開けた扉の先には数十人ほどの輩が武装してまるで柊が来るのを待っていたかのように立っている。

「‥フン、最近できたばかりの野郎が正面から一人で来るとは…周りは腰抜けばかりなのか?」

敵陣のボスらしき人物がそう鼻で笑う。それに吊られて周りの部下たちも笑う。そう今回のターゲットはこの敵陣のボス。永月にボスをライフルで撃ち抜いてもらい後から応戦してもらうという計画だ。だが幸いなことにまだ奴らは永月の存在に気づいていない。

「おい、お前ら、やっちまえ」

「「オー‼」」

そう言って部下の奴らが一斉に柊を襲ってきた。だがやはりボスだけの実力はある。襲ってきた奴らの首や目など人間の急所を押えては連撃して相手を次々と仕留める。


 連中が柊に目をつけている隙に…ボスの脳天を一発。永月はスコープからボスを覗き狙いが定まったところで躊躇いなく引き金を引く。勢いよく飛び出した弾丸は座って高みの見物をしていたボスの脳天に命中した。その勢いで頭から血を吹き出しながら倒れた。銃声を聞いた部下たちが周りを見た後後ろを向くと先程まで確かに生きていたボスが頭から血を大量に流しながら倒れ死んでいた。皆唖然としていた。周りを見渡すがそれらしき人物はいない。だがそれに気を取られていても柊の攻撃は止まらない。そして間もなく永月も上から飛び降りて攻撃を仕掛けた。相手の首に飛び込むとそのまま体重をかけ首の骨を折り喉元にナイフを刺した。噴水のように血が噴き出る。返り血が永月の顔に服にとかかる。気づけば二人とも血まみれになりながらも敵陣を殲滅していた。

「‥っと、これで終わりかな?お疲れ様、って永月、返り血がひどいな」

「それはお互い様でしょう」

「フハ、そうだな」

そう苦笑しながら荷物を持ってアジトに戻って行った。


 …何故俺がこんな目に‥はっきり言えばこいつらはホントに初心者中の初心者。一から教えるなんて‥それにボスが教えればいいものの何故自ら危険な目に合おうとするのか理解が出来なかった。ボスなら部下を出させるのではないのか、白飴は周りにいる奴らを見ながらめんどくさいなと思っていた。

「あの、白飴さん、まず何をすればよいですか?」

「‥え、あぁ‥えと取り敢えず拳銃の仕組みをある程度理解してもらおうかな。まず、知って通りに拳銃は引き金を引けば弾丸が出てくる。このリボルバーっていうのが弾丸をしまうところでこれはスナイパーライフルの時に使うんだけどスコープって言って遠くにいるターゲットを見ることができる」

白飴は本物の拳銃を彼らに見せながら拳銃について説明する。皆真剣な眼差しで拳銃を見てメモを取ったりしている。その他人間の急所に当たる目や喉、頭に脇などを事細かく説明していった。

説明が終わった後と同時くらいに柊たちが帰ってきた。

「「お帰りなさい、ボス、永月さん…ってその血どうしたんですか⁉」」

「おう、ただいま。ああ、これはただの返り血だから安心して」

「…ただいまです」

メンバーとの会話に慣れていないのか、少し驚いた表情をしたがちゃんと返事をした。

「白飴もお疲れ様、どうだった?」

「どうだった‥とは?」

はぁと溜息をついている白飴に肩を組みながら柊が聞く。

「他の皆の出来とか」

「別に普通ですよ、メモとか取っていたのでそれなりには理解しているんじゃないんですか?わかりませんけど」

「ほう、じゃあ今度皆に実践してもらおうか」

そんな会話を終えると柊はその場で放った。

「皆お疲れ、今日はもう休め、永月は後で俺の部屋に来るように」

「承知しました」

「じゃあ皆お疲れ、お休み」

「「おやすみなさい、ボス」」

永月は任務服から着替えてボスの部屋の前に来た。一体何を話されるのだろうか、今回の任務に何かミスでもあったのだろうか、もしかしたらあのボスがまだ生きていたのか、そしたら大変なミスになった。どうすればよいのか考えながら目の前のドアをノックした。

「ボス、永月です」

「入れ」

「失礼します」

「悪いな、呼び出して…どうした?そんな怖い顔して」

柊は微笑んでいた。

「いえ、別に…あの今回の任務について何かミスしてしまったのでしょうか?」

そう柊に問いかけると柊はポカンとした顔で永月を見た。

「…アハハ、もしかしてそれについて呼び出されたのかと思ったのか?」

柊は笑って永月に問い返した。

「え‥違うのですか?」

「違うよ、今日の出来具合とかを聞きたかったんだ」

「出来具合ですか?‥まぁ久しぶりの任務だったのであまり思うようには動けなかったですね‥もっと特訓しないと‥」

「そうかそうか、じゃあ次に期待しているよ」

柊はにこやかに言うとお疲れ様もういいよ、と言い永月を部屋に返した。しかし、柊の心の中で一つ不思議が生まれた。それは永月がさっき言った「久しぶりの任務」これは昔から行っていて何かをきっかけに一時そのような事を行っていなかったという事を示している。それに今回の動きを見ていると初心者では到底できない動きをしていた。それを踏まえると永月は確実に上級者。だが異能者とは思えない。今のメンバーで異能者だと分かっている者は迩陰などの幹部の人間たちのみだ。白飴は異能だと思ったが飴の操りは自分の独学だと言っていたので恐らく違うだろう。そんなことを考えていたらドアのノックが聞こえた。また永月が来たのだろうか。柊は言う。

「どうぞ」

ドアを開け中に入ってきたのは永月ではなく白飴だった。

「白飴か‥どうした、眠れないのか?」

「…はい、眠らない飴を間違って食べてしまって‥」

そんな凡ミスみたいな事白飴でもするのか、と少し可愛いと思ってしまった。まぁちょうどいいかと柊は口を開く。

「なら、少し運動しようか。そうすれば体力も使うし少しは眠くなるだろう」

「え、でも‥そしたらボス眠れませんよ?」

「眠れないから俺を頼ったんだろ?なら遠慮はいらねぇ。ほら行くぞ」

柊はパパっと身支度を済ませると白飴にも軽い装備を貸した。二人は地下にある特訓場に向かうため階段を下りて行った。


白飴の実力は一度見たことがある。俺が買い物中路地裏で白髪の男が何十人を相手にしているにも関わらず次々と殺していくのが目に映った。俺は思わず彼を引き留めた。丁度夕暮れ時で白髪がキラキラと一本一本が綺麗に見えた。また血に染まっているかのように引き付けられる紅い目。あの白飴の姿を忘れることではないだろう。

「何でしょう?‥ってか見たんですか?なら‥消さないと‥」

「ああ、違う違う。俺は君の味方。同じ世界で生きている者だよ」

「同じ世界‥?殺し屋?」

「んー、まぁ同じようなモノかな、今俺のところでマフィア組織を立てているんだけど経験者がそんなにいなくてね、君みたいな人材が欲しいと思っていたところなの。もし気になったら是非来てみてよ」

そう言えば白髪の男にアジトの住所を書いたメモを渡した。これが世に渡ったら組織はつぶれる確率が高くなってしまう。なのに何故か彼は大丈夫という意味不明な確信があった。その数日後彼はこのアジトを訪れてきた。つい最近の事だが何だか懐かしく感じる。

「…さて、始めようか。君から来ていいよ」

「‥はい、では遠慮なく行かせていただきます」

白飴は柊に向かって一気に距離を縮め飴のナイフを作り攻撃する。それに対し柊は飴のナイフに驚きながら攻撃を軽く避ける。だが白飴の攻撃は止まらない。飴の武器を生成しては柊に攻撃を仕掛ける。だが柊はそれを全て避けてしまう。

「じゃぁ、俺からの攻撃を始めようか」

そう言うと腰のショルダーバックから数本ナイフを取り出し白飴に向かって投げる。

「こんだけの攻撃ですk‥⁉」

白飴は投げられたナイフを飴で弾き返すと目の前に剣を構えた柊がいて驚いて固まっていると柊は反りの部分で後ろから白飴の腹を切るように押し流した。白飴は意識を無くしその場に倒れる所を柊が抱き止めそのまま部屋に戻った。


 目が覚めると自分の部屋ではないベッドに寝ていた。

あれ‥眠らない飴を食べてしまったのに‥効果が切れたのか?いや、あれは一日中寝れなくしている、それなのに何故‥。そう思いながらふと横を見る。そこには同じベッドの橋の方で伏せ寝している女の子の姿があった。此処に女なんかいたか?だがよくよく思い出すと彼女はアンダーボスの永月だという事を思い出した。何故永月がここにいる?それにここはボスの部屋だ。アンダーボスとはいえ、そんな簡単に入って良いモノだろうか。そうこう考えているとドアが開いた。ボスが入ってきた。

「おぅ、目覚めたのか。良かった」

「あの何故‥あの飴は一日程寝れなくしてあるのに、それに何故ここに永月さんが?」

「嗚呼、それはだな、今回の剣は少々特殊なモノを使わせてもらった。お前が寝れないと言っていたから、その効果を消す薬を剣に注入してお前を気絶させると同時にその作用を働かせたのさ。あとこいつの事については注入したモノの副作用がどう起こるか分からないし少し怪我もさせてしまったからな‥手当を永月に任せたんだ」

「…そうだったんですね。すみません、自分が医療班なのにアンダーボスの方にも迷惑が‥」

「そう自分を責めるな。こいつだってお前の事心配していたんだぞ?それにここはファミリーだ。怪我をしたって周りが助けてくれる。それを忘れるな。」

「…はいボス。ありがとうございました」

柊は部屋を出ようとすると思い出したかのように白飴に告げる。

「‥あ、そうだ、今日は他の皆の実技についてやるから興味があれば見においで、じゃあ、待ってるから」

そう言って柊は部屋を後にした。

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