第5話

翌日

「はぁ……」

坂牧美鶴はため息をつく

「いつものヤツね…ほんと毎日毎日欠かさず仕掛けてくるなんて、余程の暇人か馬鹿ね」

彼女は今いじめられている、それは

私立八重桜高校に通う生徒なら皆知っていることだ。

そのため悲惨な下駄箱を見て今更驚く生徒もいなければ、彼女の表向きの冷たい性格から、心配そうに声をかけてくる生徒もまたいなかった。


理由はあります、最初は声掛けてくる人いたんですよ?


「またやられてるわ彼女」

「いい気味ね、偉そうにするから悪いのよ」

「ほんとほんと、お高くとまってるのがウザイ死ね」

「あっは、今の上手くない?wしね、と死ねがかかっていいカンジーwww」


むしろ笑われ、バカにされるまであった

この学校に彼女の味方はいないとみていいだろう。

正確に言えば「いない」という表現ではないのだが、日本人の特徴たる同調圧力という摩訶不思議な呪いによって多数派に属し、自らの安全を確保することを最優先とする。

そうしてボス格の前ではそれらに協力するかのような行動をとり、いない所で

「私はあなたの味方だからね?」

「困ったことがあったらなんでも相談してね!絶対に味方するから!」

「いじめってほんと良くないよね〜」と

平気で腕の関節の柔軟性をアピールしてくる。


これに対するanswerとしてはオーソドックスなのは2通り


「うん、ありがとう。私もあなた達のこと信じてるから。」

といったその偽善をありがたく受け取るanswer


「そういう同情が1番されて嬉しくないのよね、あなた達の手首の関節は取り外し式なのかしら?分からないようだから教えてあげるけどあなた達のやってることは決して誰かの味方をしているわけではないのよ、自分が被害者にも加害者にもなりたくないから必死に安全な場所を確保しようとしているだけなのよ。いい?間違っても自分を善人だとは思わない事ね、反吐が出るっつーの。偽善者風情が何を偉そうに。」

というanswer


ちなみに彼女は後者を選んだ。

実際に言い放ったからね、仕方ないね、だって本音はこれだからね。

故に味方がいません、いや初めからいないのだけどね?

「初めからは言い過ぎよ、ナレーションのくせにうるさいわね!最初はいたわよ、私が消したけど」

性格悪っ


「ナニカイッタカシラ???」

いえ何も。


「はぁ…まあいいわ。今はそれどころじゃないのよ、この下駄箱と来たら……」

いつもの(ねっとり)

いじめられっ子の下駄箱といえば、皆様もうご存知、ここで説明するまでもありませんよね?

どんな悲惨なことになっているかなんて、なので書きません(猛烈手抜き)。


しかし、さすがに毎日毎日そうなると精神がそれを平常だと錯覚するほどに慣れてしまい、そのうち呆れがでるくらいまで麻痺してしまうのだ。

悲しい気持ちにはならなくなっていたが、

問題はめちゃくちゃにされた下駄箱と上履きをまた彼ら彼女らのせいで新しいものにしなければならないのか、という金銭面と面倒臭い、といった感情からため息は止まらなかった。

(いや説明書くんかい)

「おはy…」

ふと横から声が飛んでくる、反射的にまたなにかされるのかと思った彼女は言葉が終わる前に音の出処を睨みつける。

しかしそこには鶴城航介が立っていた

「あら、いたの、おはよう鶴城…君?だったかしら」

長い黒髪を払い

人を小馬鹿にする見下した口調と笑顔でそう言った


「チッ、朝から胸くそ悪い…」


「気にしないで、いつもの事よ

そんなことよりここでグダグダしてると遅刻するわよ?早く行きなさい」


「そんなこと言わなくてもいいだろ?それに遅刻するような時間じゃない、手伝うよ」


「なっ、やめなさい、あなたの手助けなんて必要ないの、これは私が受けてるものよ、あなたには関係ないのいい?分かったらそのまま教室に行きなさい」


「残念だがその命令は聞けないね、もう始めちゃったし」

すこし話している間に酷く汚れきっていた下駄箱が

綺麗になっていた。

およそ人間業ではない、彼も慣れているのだろうか。


「あなたって本当に馬鹿ね、手を出さないでって言ったのよ、お礼は言わないわよ」


「へいへい、いいよ俺が勝手にやったことだ、

そんなもん貰わなくても何も思わないよ」


息があっているのか偶然なのかはさておき、

2人揃って上履きに足を突っ込み一方踏み出す


そうして教室へと歩みを進めていく。


「どうして私についてくるのよ、何?ストーカーなの?」


「どうでもこうしてもあるか、同じクラスだって言っただろ、だいたい真横にいるんだからストーカーではないだろ、嫌なら俺より先に行くか後に行くか好きな方を選べばいい」


「うるさいバカ、お黙りなさいバカ、そんなこと聞いてないわ」


「なんだコイツ」


ギャアギャアと言い合いながら1歩、また1歩と

下駄箱をあとにした


そんな光景を見て面白くないと思う人がそこにいた

どこに?といえぼ下駄箱のまわりである

「チッ、すかしやがって…だいたいなんだアイツ

あんな男いたか?今まで」

「知らねー、あれじゃね?あいつら付き合ってんじゃね?」

「え、ウケるww」

「マジそれなw」

「あれじゃね?あの男の方「いじめられている彼女守ってる俺かっけー!」とか思って調子乗ってんじゃね?」

「もうそれしか考えられんだろw女の方は「守ってくれる彼氏かっこいい!」とか言ってんだろなw」


いじめたのに反応が薄いという怒りから笑いのネタを考えるのがとても早いすごく早いまじ早い


だが、こういった事はいじめをしている側のみがするに限らず、安全圏から見下せる人達も当たり前にする

それは大きな嘘という尾びれとなり

アイツはこういうやつだ、とついてまわり

挙句の果てにはその嘘が当人の知らない間で語られ、真実となる大多数が作り上げる嘘やウワサは

正しいものを隠し、嘘でその人間を1から作り替えることが出来る、そうして嘘とウワサで作り変えられた人間は都合のいいように攻撃の的となる

一人に対して超ロングレンジでの集中砲火

これが今のいじめである。
















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不正解だって大正解 一条 遼 @DAIFK

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