第3話
ある日、鶴城航介はそれを目撃する
同じクラスの坂牧美鶴(さかまきみつる)が下駄箱で自分の靴を隠され、代わりにペットボトルや学校で配られるプリント、バナナの皮、ダイレクト水、画鋲などを片付けているところだ。
それを見て彼は激しい不快感と嫌悪感が胸の中でドロドロと溢れた。
「それ、片付けるの手伝おうか」
そんなドロドロとした嫌なものをどうにかしたくて
弾かれるように喉から声が出る
「いいよ、別に
そんなことしたらあなたも同じ目にあうよ」
「別にいいよ、それよりその状況を見逃す方が胸が気持ち悪くなる」
「そう、じゃあせめてこれっきりにしてね
あなたが余計なことをされなくて済むし
私もこれ以上悪化すると困るのよ」
「やたら冷たいな、棘が痛い」
「仕方ないじゃない、そうしないと酷い目にあうのはお互いなのだから。こんな目に遭うのは私だけでいいのよ」
「お前が何をしたって言うんだ、何も悪いことしてないだろ?」
「気に食わないんですって、言われたわよ、ちょっと可愛いからって調子に乗るなって
可愛いのも罪よね…」
「えぇ…最後のそれ自分で言うの…」
「しょうがないじゃない、ここまで来たらもう開き直ってしまった方が気が楽でいいのよ」
「そうなんだ…」
お互い会話はしつつ片付けはしっかりと進む
口と手をしっかり同じくらい動かせるので仕事は早かった
あっという間に下駄箱は綺麗になった
「ありがとう、えっと……あなた、誰?」
「あ、今の今まで知らなかったのね、知らずにマルチタスクしてたのね…俺は鶴城航介、お前と同じクラスだ、一応な」
「鶴城君ね覚えたわ、私は坂牧美鶴、同じクラスと、あなたが言うのだからそういうことで、今後私に関わるとろくな目に遭わないから気をつけなさい」
「なんでちょっと上からなの?女王様なの?」
「仕方ないじゃないこういう性格なのよ、生まれつきね、あとこっちの方が人がよってこなくていいのよ」
「それ絶対声掛けてきたやつを敵に回すやつじゃねぇか、「今頃声掛けてあげたのに偉そうにしちゃって!何様のつもりなのあの人!」って悪口祭りだぞ絶対、ここテストに出るレベルで」
ハクシュッ
なんか聞こえた気がせる、これは気のせいだろう
考えすぎなのかもしれない
「だとしたら、上からなのお互い様じゃない
そんなの向こうも「可哀想な子に声をかけてあげた偉くて可愛い私っ」と、そう思っているに違いないわ、ここ模試に出るレベルよ?絶対」
「変なところでマウントを取ろうとするな…
だがお前が受けていることは絶対に間違っているからな、尻尾を見たら俺は口を挟むからな」
「変なところで強情ね、面倒臭い人なのかしら」
「あぁ、よく言われるよ、面倒臭いとか考えが偏っているとか、頭がおかしいとか、な」
「そう、好きにすればいいわ、と言いたいところだけどやっぱりこれ以上被害が酷くなるのは嫌なのだけど」
「知らん、そんなもの知らない、知らないったら知らない」
「……はぁ…そう…」
「ま、いい、今はそれで」
「じゃあ好きにして、あ、でも好きにしてと言っても私の被害が増えない範疇で好きにして」
「なんだその難しい注文…まあ善処するよ、後ろ向きにな」
「なにそれ最悪」
「口悪ぅ……」
「ふん、知らない、知らないったら知らない
もう帰るわ、」
そう言った坂牧美鶴は何故か少し頬を赤らめていた
?「?」?
「ま、またね…?今日は…その……ありがとう」
はにかんだ笑顔と赤らめた頬
やはり顔が整っているだけあって普通に可愛かった
特に照れながらそういったところが可愛い
「お、おう…またな…」
そのまま走って去っていく。
その姿見を背にし自分の下駄箱から靴を出し履こうとすると、ふと足音が止まった
気になったので足音の方に顔を上げるとこちらを見てあっかんべー をしている坂牧美鶴がそこにいた
「…古くない?それ」
「うるさい、バカ!」
そう言って走り去っていった
走る姿、揺れる髪、そこから覗く彼女の耳
その耳は夕日に照らされてか、かなり赤かった。
「なんだあいつ」
そう思った頃には、最初に胸に流れ込んだ
ドロドロとした嫌なものはスっと消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます