第八話鈍の刀すら持たない理由

 姫様を片手に抱えて陛下の方へ全力ダッシュ。護衛対象を一つにまとめることで、守りやすくするためだ。しかし、そうはさせじと下手人が行手を阻もうとしてくる。なのでそいつの剣を走りの勢いをそのままに片手を用いて防ぐ。太めの特殊合金製のワイヤーを仕込んである執事服は表面が破れながらも、魔道剣を受け流す、と同時に下手人の剣が輝きはじめようとするが、下腹部に蹴りをかまして弾き飛ばす。そして近衛の絶対防衛圏内に飛び込む。後ろを振り向くと近衛と下手人が鍔迫り合いや魔法で弾幕ごっこをしていた。そして近衛隊のなかの腕利きが陛下と姫様の周りを固める。


「フリッツ!」

 姫様の鋭い声が響く。

 振り向くと、陛下が鞘に仕舞ったままの刀を持って投擲の姿勢になっていた。


「つかえ!」

「ありがとうございます」


 そして陛下の持っているその刀を投げ渡される。その刀は、俺の打った刀で、はっきり言って前世で持っていた刀と比べるとまだまだ鈍らと言えるが、西洋剣よりかは自分の戦闘スタイルに合っている。刀を俺が持っていない理由だが、ある時、宣戦布告と同時に両親が蒸発。後々分かったのだが、俺の両親は2人とも帝国のスパイであった。そして俺は敵国のスパイの子供として、非常に強いスパイ疑惑がかけられ、元々軍に志願していたとはいえ疑わしい兵として特攻隊にブチ込まれた。そしてその時にはリンゲル砦おり、刀とか即席の手榴弾とか爆弾とか作っていたらいきなり牢屋にブチ込まれて精神鑑定を受けてその他諸々を受けたのだが、結局特攻隊で使い捨てられる・・・はずだったのだろう。そして停戦に最も大きな貢献をしたのだが、俺の存在は秘匿され、また雑に扱って帝国に亡命されたら敵わない、しかし英雄として祭り上げるほどには信用もできない。しかしこいつの親は帝国の中でもかなりのエース諜報員であったことが発覚して、少なくとも一般人としては扱いたくないと言う貴族達の考えによって、宙ぶらりんとなった。そこに国王陛下が王女の執事として使うという鶴の一声で、今に至る。のだが、それでも貴族や宮廷内部の反発などによっていろいろあった過程で今の俺の体には制約がついているのだが、それはまた今度・・・まぁ、そんなこんなで宮廷という国家の重鎮が集まる場所で武装させるのは嫌だと駄々を捏ねる貴族どもの圧力に押されてしまったのが今代の陛下なのだ。




作者メモ

 一応ここで補足しておくと、貴族側の思惑としては王家の血筋は利用したい。でもいまの王は邪魔だから消したいだから戦時中に活躍したフリッツを遠ざけたい。でも表向かって反対すると問題があるので、陛下や殿下の身の安全のためという建前を建てて、フリッツの力を極力弱体化して襲撃を極力やりやすくしておくのが目的です。

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