第11話 お揃いのキーホルダー
改めて放課後、昨日と同じようにバスに揺られて到着した駅前で、俺と真妃乃は二人でショッピングモールへと足を踏み入れた。
一応昨日の見間違いが頭を過ぎったので注視して車内を見ていたが、元彼ストーカーは同じバスに乗車はしていなかった。やっぱりアレだけは見間違いだったようだ。
足取り軽く、真妃乃は俺と繋いだ手を引いて楽しそうにキョロキョロしている。こうしていると、やっぱり彼女は可愛い。
「アクセサリーって言うと、やっぱ雑貨か? 下の階は高そうな店ばかりだから、三階のところから見て回るか?」
「うん。案内板見ても、お店の名前でターゲット層とか分からないしね」
少し歩いてエスカレーターに乗り、三階に着いたところで時計回りにぐるりと回ることに。やはり考えは当たっていたようで、若者向けメインとした複数の洋服店や雑貨店などが立ち並んでいる。
三店舗ほど見て回ったが中々真妃乃のお眼鏡に適う物は見つからず、とうとう四店舗目に差しかかろうとしていた。
「どんなのをイメージしてるんだ?」
「こう、誰もが見てパッとするようなものがいいの! この人は私のっていう、すっごく分かりやすいもの!」
ちょっと危うい発言だが、昼の時に比べたら可愛いものだったのでよしとする。
「じゃあさっき見た、天然石のブレスレットでも良かったんじゃないか? アクセサリーつけるにしても、校則違反にならないようなものじゃないといけないし」
「だってあれ、どこにでもありそうだったもの。……キーホルダーとかの方がいいのかな」
特別なペアルックに
俺としてはやはり基本目立ちたくないタイプの人間なので、あそこにいるような女子軍団が鞄に付けているような、ドでかい変なキャラクターのぬいぐるみキーホルダーは御免である。
そしてその女子軍団が身に纏っているのは、依然行方不明が続いている神楽坂高校の制服。
確かに昨日もそこの学校の生徒を何人か見掛けたが、同じ学校で起きていても当人以外にとっては変わらぬ日常だということがはっきりと分かる風景だった。
その事に関して、特にそこの生徒に対してマイナスの感情を持ちはしないが、というか持ったら一体お前は何様だと言われそうだが、何だか説明するのが難しい気分になってしまう。
そんなセンチメンタルな気分で女子軍団を見ていたら、その中の一人と視線が合ったような。ヤバい。変な目で見られていたとヒソヒソされる俺の未来予想図が。
しかしそんな予想図は外れ、何故かその女子はあっ、というような表情になった。何だ?
「寿くん?」
繋いでいた手を引かれ、そちらを見ると真妃乃が眉を潜めて俺を見上げている。ヤバい。発言不履行野郎と責められる俺の未来予想図が。
「……あの子達見てたの?」
「いや、違くて! あの制服、神楽坂高校のだから! ほら行方不明って報道されてる! だからそんな事件が同じ学校で起きていても、普通に買い物とかしてるんだなって!」
俺の必死の弁明に、潜められていた眉が柔らかく解けた。
「ああ。そうだよね。寿くん優しいから、そういうの気になっちゃうよね」
「ま、まあな」
「信じられないよね。身近でそんなことが起きてるのに、呑気に買い物してるって」
「え。いやそこまでは……」
二駅しか離れていない俺達もそれを言うとブーメランな気が。取りあえず真妃乃の話が女子軍団に聞こえてはならないため、手を引いてその場を離れる。
「次の店では思うようなもの、見つかるといいな」
「うん!」
そうしてその場から動く俺達の背を目が合った神楽坂高校のその女子が目を見開いて見ていたことなど、俺は知る由もなかった。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
「ねぇ寿くん、これはどうかな!?」
「……いや、大き過ぎる気が」
「じゃあこっち?」
「…………色がショッキング過ぎるナー」
「うーん。難しいね」
本当にな。
毒イモムシみたいなドでかいぬいぐるみキーホルダーと、ショッキングなピンクのふざけた顔したブタのドでかいぬいぐるみキーホルダー。その二つを迷いなく手に取られた時の衝撃は計り知れない。
確かに他の人と被りそうにないけど。特別感あるけど。
俺としてはそのブタの横に存在している無駄に手足の長い、舌をダラリと出して瀕死そうなカエルのキーホルダーの方がまだマシであると思う。
「これは?」
俺はそれに向けて指を差して聞いたが、真妃乃はゆるりと首を横に振った。
「ちょっと、他に付けている人いそう」
俺はいないと思います。ハ虫類マニアとかだったら付けてそうですが。あ、いやカエルは両生類だった。
未だ手に持ったままのとてつもなく回避したいキーホルダーを見つめて悩む真妃乃に危機感を覚えて、必死に他の許容範囲なキーホルダーを棚から探す。彼女の要望に合い且つ、俺の希望ともマッチする救い主たるキーホルダーよ!!
そして目についたそれに数日間のイヤな出来事が過ぎって一瞬
「真妃乃」
手に取ったそれを彼女の目の前へとかざす。その隙に毒イモムシとブタはそっと取り上げ、元あった場所へと撤去した。
「カラス?」
「そう。カラスって不吉なイメージあるけど、神の使いとも言われているんだと。悪いイメージ持っている人多いし、あんま付けている人とかいないんじゃないか? お守りにも最適、みたいな」
ベア知識をここで披露することになるとは思わなかったが、アイツは俺の救いの神である。明日会ったら拝んどこう。
真妃乃も俺の話を聞いて、笑って頷いた。
「いいね! 頭にボサッと毛が生えてるのとか、
「ヨカッタデス」
俺と真妃乃のペアルックの基準、丁度いい不細工さ。
こんなほのぼのもドキドキもしないペアルックが世の中にあっていいものだろうか? まあ最悪は回避できたのでよしとする。
彼氏らしく俺が払うとレジカウンターに持って行き、二羽のカラスが紙袋に入れられていく様を焦がされたサンマのような目で見つめる。
……うん。まぁ、アレだな。ベアもああ言っていたしな。今日も止まっているかどうか知らないが、こっちにも神の使いが手元に転がり込んできたんだ。俺をただジッと見つめる神の使いなぞ、どこを向いているのか分からない俺の神の使いで蹴散らしてくれる。
料金を支払い、別個に入れてもらった紙袋の一つを真妃乃に手渡す。彼女は嬉しそうにそれを受け取って、「ありがとう、寿くん!」と超ご機嫌になった。ヨカッタデス。
「どうする? 結構探し回って時間経ったし、そろそろ帰るか?」
「……うーん、そうだね。あんまり遅くならない内に帰ろっか」
そうして再び手を繋いで歩き、エスカレーターを降りてショッピングモールを出るところ。俺はふとどこからか見られているような気がして、後ろを振り返った。すると、先程目が合った気がする神楽坂高校の女子が一人でその場に立っていた。何故か俺と真妃乃を見つめている。
美少女な真妃乃とどこにでもいる男子高校生な俺のカップルがそんなに珍しいのだろうか? いや、珍しいな。
そんなことを思いながら前へと向き直り、バス停まで歩いて帰りのバスへと乗り込む。
今回は乗る前に酔い止めを飲んだ。バス待ちも前の方だったため二人掛けの座席に座ることができ、窓側に座っている真妃乃から話し掛けられる。
「ねぇねぇ、寿くん。カラスどこに付ける?」
「ん? やっぱり鞄じゃないか? 俺はリュックだし、取っ手部分かな」
「じゃあ私はここの丸いところに付けるね!」
そう真妃乃が指して言ったところとは、ショルダータイプのバッグの本体と肩紐を繋いでいる金属の丸カンのこと。そこにキーホルダーを付けると言う。
「うん。付ける場所は個人の自由だし、良いと思う」
「もー、お揃いなんだから同じ場所に付けたかったに決まってるじゃない」
頬をプクっと膨らませて言われても可愛いだけである。今日はあれ以来元彼ストーカーも見なかったし、これであの道に神の使いどもがいなかったら万々歳だ。
しかし事は簡単にそうは問屋が卸さないことを、この後俺は身を以って知ることになる。
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