第7話 駅前カフェでなに食べる?
ベアのオカルト話を一緒に聞いていた真妃乃は余程その内容が怖かったようで、バスから降りても彼女の顔色は青かった。
オカルト話の影響で乗り物酔いまでしてしまったのかと今日はやめるかと聞いたら、「大丈夫」と言う。マジでベアは後でシメる。
学校終わりの時間帯ということもあり、駅前には色々な制服を着た学校の生徒達の姿がチラホラと見えた。俺達以外にもバスに乗っていた同じ学校の生徒もいるので、皆考えることは同じだなと思う。
時間としては十五時四十五分くらいで、まぁカフェで数十分過ごす程度だったら部活をして帰宅する生徒とそう帰宅時間は変わらないだろう。
駅前の風景は俺達の向かうカフェ以外にも近くに噴水があったり本屋があったり、ショッピングモールといった建物などがあったりしてバリエーションに富んでいる。学生が寄り道をするのに、打ってつけの場所と言えよう。
バス停から徒歩五分も掛からないお目当てのカフェの外観は
「カフェとファミレスで何が違う。食べて飲む行為は同じだ」
「なにブツブツ言ってんの寿? ほらほら、早く入るよー」
オマケの筈のベアが何故か先導してカフェの扉を開けたら上の方にベルが付いているらしく、チリンと可愛らしい音が鳴った。「何名様ですか?」と訊ねてくる店員にこれまたベアが、「三名様!」と答えるのを耳にしながら、俺達は店員に店の真ん中の位置にある席へと案内されて座った。
真ん中とか人が通りやすい場所な上に、店内に入ってすぐに視界に入る席だ。真妃乃が美少女だから客とは言え、客引きを狙っているのか? 俺は本来あまり目立ちたくないタイプの人間だと何度言ったら分かるのだ!
「めっちゃ雰囲気ある~」
店内をキョロキョロ物珍しそうに見回すベアにお前はおのぼりさんかと感想を抱いていたら、すぐにガタリと真妃乃が席を立ったので、やはり具合がと心配になった。
「本当に大丈夫か?」
「うん。ちょっとお手洗いに行ってくるだけだから」
「そうか? 気をつけてな」
「ありがと。あ、注文先にしてくれていいからね!」
今まで見ていたような自然な笑顔と違ってどこか貼りつけたようなその笑みに、相当無理をしているんじゃないかと感じる。
ヒョコヒョコとお手洗いの案内プレートが掛かっている方向に歩いて行く背を見送って、メニュー表を見ているベアを睨みつける。
「おいベア。バスの中でのオカルト、もっと軽いやつでも良かっただろ。例の事件に絡んだ話がお前の中でブームになっているのかもしれないけど、ちゃんと人を選んで話せよ」
聞いたベアはパタリとメニュー表をスクエア型のテーブルの上に置き、頬杖をついて俺を見た。
「ブームって言うか何て言うか? たまたまじゃん。似たような話、前にも寿にしたことあったじゃん」
「そりゃそうだけど。というか、本当にたまたまなのか?」
「たまたまたまたま。ていうか京帝さんもさぁ、本当はオカルト苦手ならそう言えば良かったのに。話して俺が怒られるの、めっちゃ理不尽なんだけどぉ」
そう言われると、確かにベアの言うことも一理あるような。いやだけど、あんな怖い話をされるとは彼女も思わなかったんじゃないだろうか?
俺らの席に店員が人数分のお冷とおしぼりを運んできたタイミングでベアだけ注文し、俺はああは言われたが真妃乃の戻りを待って注文することにした。男だけ先にっていうの、何か変な感じだし。
注文してウキウキなベアを横目に見つつ、チリンと音が鳴るのを聞いて何気なくカフェの入り口へと視線を向けた。そして違う学校の制服を着た女子らが扉を開けて入店してくる、その隙間――……。
「っ!?」
ガタッと思わず椅子を鳴らして立った俺に、ベアが目を丸くして訊ねてくる。
「寿? どうかした?」
「……いや。何でも、ない」
ノロノロと再度座り、メニュー表を取って見る振りをする。
……見間違い、か? 一瞬だったし、しかも遠目で一度しか目撃したことはない。遠目だったら似たような容姿の他の生徒と見間違ったって、おかしくない。
「……寿? そんなに苺パフェ食べたいのぉ?」
「うん」
「これ結構量多めみたいだけど。食べれんの?」
「うん」
「そっかぁ。俺のが来たら注文しといてあげるね」
「うん」
いやしかし、相手はストーカーだ。同じ学校である以上、俺達の後をつけて来ていてもおかしくない。
けど同じバスに乗車してはいなかった筈。違う同じ行き先のバスに乗ったとしても、それだと俺達がどこで降りるのかは向こうには分からないと思うのに。
既に閉じられている扉を再度見ながら、その向こうで見たものに頭を悩ませる俺の耳に、
「お待たせしました。限定モカプリンスペシャルでございます」
「ありがとぉございます。あ、あとこの苺パフェもお願いしまぁす」
という店員とベアのやり取りが入って来る。
ベアお前、苺パフェも食べるのか? どんな胃袋だ。ブラックホールか。
友人の食い意地のがめつさに呆れていたところで、お手洗いに行っていた真妃乃も戻ってきた。顔色は当初よりも戻っており、先程と違って自然な笑みを浮かべている。
「お帰り。具合良くなったか?」
「うん! あ、ベアくんの来たんだね。クリームたっぷりで美味しそう!」
「うん、めっちゃ美味しい~」
空気も読まず、一人で待望の限定メニューをパクついているベア。俺は未だにコイツ以上にマイペースなヤツを見たことがない。
「私、何にしよっかな」
「あ、さっき見たらモンブランあったぞ」
「本当? 良かった、じゃあそれにする! 寿くんのは?」
「真妃乃が戻って来たら一緒に頼もうと思っていたから、まだ頼んでない。俺はこれだな、コーヒーゼr「なに言ってんの寿、俺がさっき頼んだでしょ」……は?」
人が話している途中で会話に割り込んできたベアの言葉に何言ってんだコイツと見れば、頬にクリームをつけながら呆れたような目で俺を見ている。男のお前がほっぺにクリームつけていてもな。
「苺パフェ食べたいの?って聞いたら、うんって言ったじゃん。だから俺頼んであげたじゃん」
「いつ俺がそんなことを言った!?」
「えー、男子高校生にして物忘れ激しくなったの? 寿どんだけー」
なに勝手にそんなことしてやがる! お前が言っていたアレ俺のかよ!? 俺は基本的に甘い系の食べ物はブロッコリー並みに苦手なんだぞ!?
マイペース過ぎるベアに額に青筋を立てた(二回目)ところで、シルバーの丸型トレイに何かを乗せた店員が俺達のテーブル席で止まり、ベアのところにそれを置く。
ここのそれはグラス容器のものではなく、某喫茶チェーン店のような透明カップ型容器(サイズ:ベンティ)の中に、何層にもピンクやら白やらクリーム色の何かやら苺やらがぎっしりと詰まっており、トップなんか今にも苺がコロリと落ちてきそうである。それをベアは俺の目の前へとスライドさせてきた。
……勝手に頼まれた俺のやつか、これ。なぁこれ本当に俺の? お前間違って頼んでない? 苺パフェじゃなくて、限定苺クリーム特大パフェとかさ。
俺の目が確実に干からびたフグになっているのに対し、真妃乃は瞳をキラキラと輝かせている。
「すごいね! インスタとかに上げたら映えそう!」
「ソウダナ」
しかしスマホを取り出して撮影をし始めないあたり、俺の彼女はちゃんとマナーが徹底されている。素晴らしい。ハハ。
そうして彼女は予定通りモンブランとレモンティーを注文し、ベアの限定メニューも残り半分となって、俺も重い腰を上げてスプーンを握った。
真妃乃には悪いが、先に手を着けさせてもらうことにする。俺は自分の能力を過信しない。この中の誰よりも食べ進めるのに時間が掛かると確信しているので。
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