空白を埋めるもの
「斎藤、見ろよ」
放課後の帰り道、商店街の路上に、ジグソーパズルのピースが落ちていた。
「落としたやつ、探そうぜ」
「いや、いくらなんでも無理だって」
堀井は落とし物の持ち主を当てる特技がある。しかしそれは容疑者が限られる学内での話だ。さびれているとはいえ、不特定多数の人が行き交う町中では不可能に思えた。
「きっと完成させられなくて困ってるよ」
「それはそうかもしれないけれど」
堀井が拾いあげたピースは真っ白で、表裏どちらにも何の絵も描かれていない。
「大丈夫、落とし主を当てるヒントはもう、見えている」
自信ありげに堀井が微笑む。
「ヒントどころか、何の絵も描いてないじゃないか」
仮にここに特徴的な絵が印刷されていれば、商店街の玩具店に行って「最近、恐竜のパズルを買った人はいませんでしたか」と尋ねて解決できるかもしれない。しかし、白いピースひとつでは、とれる手段が何もない。
「違う。それ自体が大きなヒントなんだ。白いジグソーパズルなんて、滅多に売れるものじゃない」
世の中にはおかしな商品もあるもので、絵が一切ない真っ白なジグソーパズルが売られている。普通のジグソーパズルじゃ満足できなくなった上級者や、困難なら困難なほど燃える一部の奇特な人が楽しむものらしい。
「だから、店に行って聞くだけでいい。白いパズルを買った人はいませんでしたかって」
解決方法は僕が考えたのと同じだった。ただ白いピースの意味に気づけたかどうかだけだ。
しかし、珍しく堀井の推理は外れてしまった。商店街の玩具店はもちろん、ジグソーパズルを打っていそうなお店を五件回ったものの、どこも取り扱いはない。
「……マジかよ」
少なくともこの町に、白いジグソーパズルを扱っている店は見つけられなかった。僕たち二人は敗北に打ちひしがれながら、それぞれの家に帰った。
それから二週間、堀井はすっかりパズルのことを忘れていたらしい。
僕が白いピースを取り出すと「捨ててなかったのか」と目を丸くした。
「実はさ、ずっと白いパズルを置いている店がないか探してたんだよ」
「なんで、そこまでやるんだよ」
質問には答えない。
「何度もピースを見ているうちにわかった。これ、白いパズルのピースじゃない」
手の中のピースを堀井に渡す。よく見ると端の部分にわずかに色が残っている。
「退色して絵が消えただけで、元は普通のジグソーパズルだったんだ」
「つまり……」
「そう、絵の消えたピースを渡しても、落とし主は喜ばない」
こうしてピースはただのゴミに化けてしまったけれど、実は捨てずに今も持っている。堀井を出し抜いた、唯一の記念品なのだから。
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