三本の足跡

「カップルかな」

 ふたつ並んだ足跡を見て、俺は呟いた。

 今日は冷え込んで、少しだけ雪が降って地面がうっすらと覆われている。

「いやあ、どうだろう」

 堀井は足跡をしげしげと眺めて、顎をさすった。

「男物の靴と、女物の靴なんだから、カップルじゃないのか」

 つい口調が荒くなってしまう。こうしてよく推理遊びをするが、堀井にはいつも敵わないからだ。

「見ろよ、足跡のほとんどは並行だけど、いくつかは女物の靴が男物の靴跡の上にあるだろ。二人仲良く手をつないで歩いたわけじゃなさそうだ」

「なんだ。じゃあただ偶然行き先が同じってだけか」

 足跡を辿りながら歩いて行く。俺と堀井のものが加わって、四列になって続く。

「いや、待て、斎藤。もうすでに三回角を曲がってるのに、ずっと続いてるのはさすがに不自然じゃないか?」

 商店街や駅からの道ならわかるけれど、下校途中の住宅街で、この先に何か特別なものがあるとも思えない。

「ほら、こっちにあるバス亭に向かってるとか」

 どうにか堀井に反論しようと粘ってみるが、足跡はバス亭を通り過ぎて延々と続いていった。

「これはちょっと穏やかじゃないな」

「つまり――」

「尾行だ!」

 堀井とふたり、顔を見合わせる。この足跡は、男を、女が追っている痕跡だ。

 それから五分ほど足跡を追っていくと、堀井が飽きたようで帰りたがった。

「結論は出たろ、もう帰ろうぜ」

「えっ」

「だってさ、このまま辿っていって、それでどうするんだよ?」

 堀井は馬鹿なことを言わせるなと呆れ気味だ。

「男の人に追いついて、尾行されていることを教えてあげるとか」

「それで?」

「それでって言われても」

「女が男のストーカーなら、警告に意味があるかもしれないけど、男が何らかの犯罪者で女が刑事だったらどうするんだよ。余計なことをして、取り逃すかもしれないじゃないか」

 堀井はある程度確信の持てた推理ができた時点で満足なのだ。彼らの人生がどうなろうと、俺たちには関係ない。それは正しい判断なのだけど、どうしてもこの先まで見届けたかった。

「じゃあ、俺はもう帰るから」

「おう」

 堀井と別れて一人で足跡を辿る。日も暮れかけて、ずいぶんと冷える。路上に伸びる影もやがて見えなくなった。だけど俺は、歩くのをやめなかった。

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