同時接続者数1862の殺人



 俺の推しは最高だ。

 だから、俺だけのものにすることにした。

 ライブ配信中の赤いアイコン、その横に表示されている数字が、今現在推しに夢中になっている人数を表している。だけど、千人以上の人間の誰よりも、俺が彼女の近くにいる。

 背後から忍び寄って、首に手をかける。驚いた彼女はビクリと身体を震わせるが、もう遅い。手の力を緩めることなく、そのままの姿勢でいると、彼女は声すら出せないまま、力が抜けて人から物になった。人は誰にも所有できないけれど、物になった今からは俺だけの所有物だ。

『うそ』『演技下手すぎ』『なにこれ』『放送事故?』『ドッキリ?』『見えた』『話題づくり』『マジハプニング?』『だれか説明して』

 コメント欄が荒れている。

 配信中に突然苦しみだして、倒れてしまったのだ、混乱して当然だろう。配信を視聴している全員が、決定的な瞬間を目撃しているのに、事態を理解できている人は一人もいなかった。

 だから、俺は捕まらない。

 俺が彼女をどうやって殺したか、千八百六十二人のうち、誰一人としてわからない。


   ◆


「なぜ、わかったんですか?」

 僕のトリックは完璧だった。だから、こんなうだつのあがらない中年刑事に見抜かれるはずがなかった。

「あなたは美容になんて興味はないと言っていましたよね」

「それが何か?」

 最近は男性も身だしなみに気を使う、なんて広告代理点と化粧品メーカーが作り出した嘘っぱちだ。化粧水、保湿クリーム、そんなものは全部無駄だ。そんなものを買う金があれば、配信に投げ銭をしてコメントを読まれる光栄に浴した方がずっと肌つやも良くなる。推しは美容に効くんだよ。

「では、あなたの部屋の、そのクリームは、一体何に使ったんですか?」

 刑事が指したのは、アロエクリームだ。

「あなたが教えてくれたじゃないですか、緑色のものは、配信の画面に映らないって」

 好きなものに饒舌になるのは俺たちの性とはいえ、調子に乗って喋りすぎた。

「たとえば、緑色のシャツを着て、緑色のクリームを顔に塗った場合、配信では透明人間のように見えるのではないですか」

 普段から彼女の動画の編集を担当しているから、事情聴取くらいは受ける覚悟をしていた。だけど、まさか突然俺の部屋に現れた、このつるつる頭の中年刑事に、全てを見抜かれるなんて思ってもみなかった。

「完全犯罪を成し遂げるためには、たった一言、こうおっしゃるだけで良かったんです。……最近は肌の乾燥が気になって、と」

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