前輪マニアの彼



 どうしよう。写真フォルダ、見ちゃった。

 サカキくんを含めて六人でファミレスでだべっていたときの出来事だ。ケータイを席に置いたままトイレに行った隙に写真フォルダの中身を開いたのだ。もちろん私は何もしていない。男子たちがはしゃいで、何かやばいものが出てこないかと勝手にケータイを操作したのだ。

「でも、止めなかったんでしょ」

「そうだけど」

 学校からの帰り道、その日のことを親友のアケミに相談すると、冷たい目でそう言われてしまった。

「でも、どう思う?」

 問題は写真フォルダの中身だ。男子たちはえっちな画像でもでてきたら面白いと思ったのだろうけど、残念ながらその類いのものは一切なかった。

 代わりにでてきたのは、何十枚という自転車の写真だ。

 駐輪場に駐めてある自転車の前輪がアップになっていて、ほぼ毎日撮っているせいでスクロールしても延々と似たような写真が続いていた。拡大してよく見ると、自転車は毎日違うものだとわかったけれど、だからといって何故そんな写真ばかり撮ったのはわからなかった。

 サカキくんがトイレから戻ってきても、何となく気味が悪くて、誰も写真のことは聞けないまま、話題は別のものに移り、そのまま解散となった。

「ねえ、何でだと思う?」

 アケミはこういうときに頼りになる。ちょっと変だと思ったことがあれば、彼女に聞けば何でも解決してくれるのだ。

「忘れるからだろ」

「何を?」

「機械式駐輪場の番号。清算するときに覚えてないと、いちいち自分が駐めた場所に戻って番号確認しなきゃいけないじゃん。撮っておけば一発」

「うっわー、よかったー」

 安心した勢いで、大きな声が出てしまう。変わった趣味だったらどうしようと心配していたのだ。せっかく付き合っても、デートが駐輪場巡りだとすると、また一週間で別れることになるのだ。

 疑問を解消したお礼としてアイスを要求されたのでコンビニに寄った。

「でもさ」

 私がおごったアイスを頬張りながら、アケミは言う。

「あいつは、ない。やめとけ」

「は? なんで?」

 アケミの忠告は怖い。私がいいかもって思った男子のことを相談すると、大抵色んな理由で止められて、毎回無視して付き合って、痛い目を見るんだけど。

「毎日違う自転車に乗ってるって、つまりギってるってことじゃん」

 ギる――つまり、盗んでいる。

「まあ、ひとのスマホ、勝手に見る女もどうかと思うけどねー」

 いつも通り冷たい目で、アケミは私のことを見る。

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