第24話「次の停車駅は夏コミです。」
「諸君!!」
「なんや、みゆ」
「今年の夏コミは行きたいかー!!」
「行きたい!!行きたい!!」
「もちろん。」
「行きたいです!」
「NR東海で東海新高速電車に乗れるなら、行きたい!!」
「アニメイベントに行きたいか!!」
「行く!!」
「うちも!」
「もちろん私もです!!」
「NR東日本の東京環状線に乗りたい!!」
「グッズを買いたいか!」
「買いたい!」
「もちろん!!」
「めっちゃほしいです!」
「車内販売買いたい!」
「おい、さっきから一人だけ趣旨が違うやつがいるぞ。」
「てことで、翔太!お金頂戴!!」
「無理」
「殺されたいようやな…女子4人と男子1人に…」
「あ、透も入ってるんや。」
「どうする?」
「とりあえず、ほんとにお金がない。収益いくらか知ってる?月五千円。こんなん材料だけで消えていくわ。それも今6月…2か月で1万円しかたまらんで。」
「そうか…」
「やっぱり無理なんやな…」
「行きたかった…」
「夏…暇ですね…」
「電車乗りたい…」
「いや、なんやねん!この空気!!俺が悪者みたいじゃね~か!!」
「お金くれないんやもん…」
「だってほんまにないもん…」
「くそ…ちょっとめそめそした振りしてたら、ちょっとはお金出してもらえると思ったのに…」
「やろうな。その魂胆が見え見えやねん。全員で泣き出す時点で怪しいと思ったわ。」
「くそ…」
「でも、ほんまに行きたいなら、一つだけ方法がある。」
「何?」
「短期バイトをすること!!」
「ば、バイト!?」
「そう!バイトをしたら、夏コミ?ってやつも行けるやん。」
「でもどんなのがあるんやろ…」
「ビラ配りとか簡単なのでええんちゃうん?」
「あ~なるほどね…でもあれか、例えばそこでお金を稼ぐと自分たちの作品を出展できるってことか!」
「ま~そうなるな」
「え、じゃあみんなで頑張てバイトして、私たちの作品を出さない?」
「あり!!そしたら、収益も増えるしね!」
「確かに…世に広めるきっかけにもなるな」
「い、いいと思う!」
「東京に行ける!!」
「さっきから趣旨が違うやつがいてるけど、まあそういうことになるな」
「じゃあバイト探してみよ!」
「ほんなら、萱島の西出口のATMの前にバイト探しの冊子が置いてあるから取ってきたらええやん!」
「ち、ち、ち!時代遅れだね~翔太君は~」
「どういうことなん?まき?」
「今の時代はスマホで見つけれるんや!こんなの常識だよ?」
「さすがSNS担当大臣!」
「ま~ね~」
まきの言う通りネットで求人を探してみると、たくさんの一日バイトがヒットした。
その中でも全員ができそうなビラ配り、ティッシュ配りのバイトに応募した。日給1万円朝の9時から夕方の17時までで、間に1時間休憩がありお弁当も支給されるという太っ腹具合。
それを6月の中旬から7月いっぱいまで行うことになった。
16日あるから、一人16万円それが、6人いるので、96万円稼ぐことになる。だが、自分たちが稼いだお金…すべてこれに使ってしまってはなんだか働く意欲が出ない。
なので、6万円は各自のお小遣いにすることにした。
また、全員で行くと費用がもったいないので、俺とみゆの二人だけで行くことになった。
約2か月間ずっと働いた。途中期末テストもあり、一緒にやるのが大変だったが、何とか乗り切り、予定通りの給料はもらうことが出来た。最後の日には、ボーナスとして、一人1万円もらうことができた。
コミケでものを販売するには「スペース」の出店が必要らしい。
その、スペース出展を目的としたチケットを申し込んだ。最初はすごくドキドキしていた。落ちるのではないか…誰もがそう思っていたが…
なんと、当選したのだった。
そこから、急ピッチで作品を作った。もちろんネットで公開している内容のものを、ブック化して、新しい話も作り、特典も作った。
そして、コミケ当日。
「おはよう、みゆ。なんとか行けたんやな。」
「まあね。お父さんが許してくれたから。お母さんは絶対にあかんってゆってたけど、お父さんが昨日の夜に俺が何とか説得したから、東京行ってこい。翔太君によろしくな。ってゆってくれたから。」
「おーそれはよかったな。じゃあまだ始発まで時間あるし、ちょっとコンビニ行くか。」
「うん。てかお前はよかったん?」
「うん?何が?」
「アニメなんて興味ないやん。今から行くのって、どこを見渡してもオタクしかあらんで。それもめっちゃ暑いところを長時間並ばなあかん。大丈夫なん?」
「大丈夫。心配すんな。きちんと調べてどんなんか知ってる。そんなんわかってて、お前と一緒に来てるから大丈夫や。」
「そうか。なら、一日よろしく。」
「うん。てかお前丸くなったな。今までやったら、「お前と一緒の部屋で一日過ごすなんて絶対無理~!」とかいうタイプの人間やったのに。」
「別に、今でもお前と一緒に過ごすの嫌って思ってるし。」
「そうか。まあええわ。」
こうして、俺たちは新大阪に向かった。
27号線にある始発の、のぞみに乗り込んだ。
これから、2時間の移動時間。みゆは隣でとても緊張している様子だった。
俺が思うには、厳しい現実がまっている可能性のほうが高い。
でもそれも経験だと思った。
「まもなく、終点、東京、東京お出口は左側です。」
「もうすぐやな。みゆ。」
「めっちゃ緊張してきた…」
「もう?お前会場着いたらどうなるねん…」
「そんなん言ったてさ~緊張するもんは緊張するんやもん…」
「まあ頑張れ。俺は隣で支えておくけど、基本はお前ひとりで頑張るんやぞ!俺はまだちょっとわからないことも多いからな。」
「せやな。まあ頑張るわ。」
「おう!」
スペースに出店予定の人は事前に準備ができるようになっている。
俺たちも一般参加者より先に、会場入りし、準備に取り掛かった。
大阪から持ってきた大荷物。特大のスーツケース4つ分そのスーツケースに机とパイプ椅子をひもで括り付け、何とか会場まで持ってきた。
着替えなどは、背負っている大きなリュックに無理やり詰め込んで持ってきた。
周りから見ると、自分の荷物を持って家出してきた人間にしか見えない状況だった。
「とりあえず、準備完了やな。」
「いよいよか~みんなで頑張ってきたし、ちょっとでも気に留めてくれる人が多いといいな!」
「せやな。俺はちょっとほかにどんなのがあるか見てくるわ。同業の人がやってたら、何か参考にできるかもやし。」
「あ、うん。せやな。」
こうして夏コミの一日目が始まった。
会場と同時に数えきれないほどの、人が入ってきて、あたりは人、人、人どこを見ても人だらけだった。
企業ブースでは、企業ならではのイベントが行われたりしていた。
「堀溝君…」
「え?」
「やっぱり…堀溝君じゃないか。」
「…久しぶりですね。あの頃はどうも。」
「いや~懐かしいな。あの頃はよく君と話したことだ。」
「東京に来たら…ここに来たら、あなたにお会いすると思いましたよ。みゆにこのことがばれるとあかんから、あえて離れたんですよ。離れてよかった。」
「…好きな人が昔から変わらないね~いい加減本当のこと言えばいいのに。」
「いえるわけないでしょあなたならわかるでしょ。この業界、成功したもん勝ちなんですから。」
「君も思考が大人になったね。さくらとひかるの…」
「ここでは出さないでください。周りにばれたらどうするんですか。だから、大阪に行って大阪弁をしゃべってるんや。」
「…まあそうだな。相変わらず、電車はすきなのか?」
「もちろんです。あれがあったおかげで、生活が楽しくなりました。」
「そら、なれない場所で生活するには好きなものがあるほうがいいよな。」
「まあ、みゆの兄貴と約束したことは忘れてませんから。香川さんも知ってるでしょ?あの人の夢。」
「あ~知ってるさ。あいつの夢はすごかった。才能もあったし、誰もがうまくいくと思ったさ、あいつが現れるまでは…」
「だから、お父さんとお母さんの下で働きだした。ラノベなら、文章も学べるし、絵も描けるようになる。」
「普通は違うんだよな。けど、あれは珍しかった。」
「そうですね。」
「でも、二人の子供であることは間違いない。だから君は、頭もいいし、絵も描ける。初めて書いた絵が電車何だったもんな。それもすっごいうまい。この時に、二人の才能が受け継がれてることが分かったんだよな。それからマンガ好きになるのかと思ったら、電車好きになって、今に至るというわけか。」
「まあそういうわけですね。」
「まあ、ここで話してもあれだし、連絡先交換して、話しようよ。」
「そうですね。」
「でも、本当にあの仕事しないのかい?」
「…私はみゆを支えるという、役目があるので…」
「君も頑固だな。まあこの業界君が言うように成功したもん勝ちだからね。君が好きな電車好きと違って。」
「そうですね。まあ香川さんなら信用できます。」
「そういってもらえると、ありがたいよ。まあ奴が早く見つかるといいな。」
「はい」
「香川さーん」
「呼ばれてるみたいだ、またな」
「はい。」
そういうと、香川さんはどこかに行ってしまった。
「ラブコメの天才…そういわれてたっけ。まああの頃から電車、阪慶にしか興味がなかったもんな。まあ、ばあちゃんが電車好きの俺のために大阪から電車のおもちゃとかよく送ってくれてたっけな。」
この後俺は、いろいろなブースを回った。学ぶことも多かったし俺たちがやってることが正しいということもわかったりした。
この後、俺たちの出店スペースに戻った。
だが、やはりといっていいのだろうか…やっぱりなと思う光景が広がっていた。
「やっぱり誰も来てないんか。」
「…」
「そら、初やもん。仕方ないって。」
「…こんなに頑張って準備したのに、仕方ないって…今まで必死に働いてお金貯めて、この舞台に立てたっていうのに…こんなんじゃみんなに合わせる顔があらへん。」
「じゃあ聞くけど、みんなはこのまま大阪に帰って、怒ると思うか?」
「そら、怒ると思う」
「なんで?」
「何してんねんってなるやろ。」
「じゃあ、逆にみゆは例えば、真奈とかまきに東京行かせて、帰ってきてなにも売れなかったって悲しい気持ちで帰ってきたとき怒ったりするか?」
「…しやん。だってかわいそうやん頑張ってきてくれたのに。」
「じゃあほかのみんなも同じや。別にみゆなんかに怒ったりなんかせーへん。」
「でもみんなで働いたあの日常は水の泡やん…」
「そんなことないよ。みんな最初っからこうなることくらいわかってるよ。やけど、みんなはみゆの情熱に押されたんや。絶対に無理なのはわかってる。けどそれに気づかずに、前しか見てない情熱的なみゆにみんな勇気づけられたんや。一番のリーダーが前を見てる。なら、私たちも前をむかないとなって。電車のレールって何本あるか知ってるよな?」
「当たり前やん。2本やろ?」
「そう。2本や。そのどっちかが欠けたら電車は運転することが出来ない。つまり、走れない。スタジオ・クスノキっていう電車があったとしよう。みゆが一本のレールや。そして俺たちがも一本のレール。みゆがどんなにしっかりしたレールでも俺たちがきちんとしていないと、この電車は走ることが出来ない。だから俺たちは無理やとわかってても、みゆというもう一本のレールを支えるために、俺たちも力を貸したんや。だから誰も怒ったりせんて。大丈夫。大丈夫。」
「…うん…私ってきちんとしたレールなんやろうか。きっとほかのレールに比べて、ゆうこと聞かないひねくれたレールなんじゃないかな…」
「そんなことないよ。電車をしっかり支える、丈夫なレールや。丈夫でどんな困難でも、折れたりしない強い強いレールや。」
「翔太…私まだやっていけるんかな?もう無理な気がしてきた…」
「なーにめそめそしてんねん!大丈夫やって言うてるやん!心配すんな!全てがトントン拍子に進むわけではないやろ?大丈夫やって」
「うん!けどお前に大丈夫って言われたらなんか不安になるねんな~!」
「なんでやねん!おかしいやろ!」
「だって~!なんか頼りないし!」
「くそ…否定できひんのはなんでや…」
「いつも遅刻してくるから!」
「はい。気を付けます。」
こうして、夏コミ一日目が終了した。
明日一日残っているが、結果はどうなるかわからない。けど、彼女の午後からの笑顔を見ると、こっちも頑張らなければなと思った。
俺ができるのは、「みゆに協力する。」
ただ、これだけなんだから。そう約束した人がいるから。
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