第28話 B闇を彷徨う時

B闇を彷徨う時




 あの人一人じゃ重過ぎる


 彼女と二人も重過ぎる


 彼にあいつにいっぱい来た


 いつの間にやら大きな輪だ






 絶対助けるからな。




 ネット上をくまなく探す。ネット診療、医療系の掲示板。見つかる限りの論文。果ての無い旅へと歩いていた。そして時々雑談系の掲示板も覗く。面白いからではない。ああいう所に何か落ちていることがあるからだ。そんな中、それは目論見通りに大型掲示板で見つかる。




「Ptth://闇の住n人」




 Ptthで始まる不思議なアドレス。前後に書かれているのは世の中への妬み、嫉み、愚痴、ブラックな内容の中にポツンとコメントもなく投稿されていた。




 闇サイト




 直観でも、そのアドレスの特徴からもわかる。どうやら現世には花を治療出来る何かはないらしい。だとすれば、闇ならば……。僕は迷わずそのアドレスを入力しようとした。




「上のアドレスを開く際は、専用のパソコンをご用意下さい。パソコンが壊れます」




 と、よく見ると下に同じ人らしき人のコメントがあった。闇の中に入るための専用のパソコン。なるほど、確かにPtthで始まるアドレスは変過ぎる。今あるパソコンのデータが全部吹っ飛ぶのも困るし、新しいパソコンを用意することにした。データは全て移行して、古いパソコンで入力する。




「Ptth://闇の住人」




 Nは抜いておいた。誤入力であった可能性が高いからだ。しかし、




「このアドレスは存在しません」




 そう言われてしまった。そこで今度はnを入れて入力する。




「このアドレスは存在しません」




 ……。もしかしたらパソコンメーカーの罠に引っ掛かったか。腹の底に怒りが沸々と湧いてきた。まあ仮に闇サイトがあったとして、そこに簡単に行けるようなら、警察とかの規制にすぐにかかるだろうし、あんな掲示板にあるのは不自然なのかもしれない。もっと個人的に連絡が来るような、招待性を取るはずだ。




 簡単に行けるようなら、か。




 これが何かしらの暗号になっていたとしたら掲示板に載せても問題ないかもしれない。つまり、暗号になっている……。




 違和感あるのは「人」の前にあるnだ。最初は誤入力だと思ったが、暗号なら間違えなくこれがポイントになっているだろう。




 普通にローマ字で書くと闇の住n人はこうなる。




「yaminojunninn」




 じゅはzyuでもいいはずだ。因みにその違いによるアドレス入力は試してある。nがつくことによってローマ字の読みが「じゅんにん」に変わる。これだと確かに意味が通らない。


ともすれば意味が通るようにする必要がある。Juはそのまま残したいだろうから。nninで一言にならないだろうか。んんいん、んにん、もしかして……。




 Nを二つ重ねてmにするということだろうか。そうすれば「闇の住民」となって意味が通る。


早速入れてみた。




 ピーーーーーーーーーーーーーーーーー。




 パソコンが真っ黒になり壊れた。成功のようだ。住民登録は「眠り姫の王子」にした。




 一日目は「堕天使の館」を巡遊した。表の掲示板とは違う本気の悩みと本気のアドバイスだ。確かに「下」に向かってのものが多いが、かなりの優良サイトを感じさせた。




 二日目、自身の悩みを投稿してみる。すると程なく反応があった。






眠り姫の王子:最愛の彼女が精神をひどく傷つけ、覚醒状態だと発狂して手に負えず、今は昏睡状態を保つことしか出来ません。原因は犯罪グループに拉致されてひどい目に遭ったためです。この状態を治療出来る機関や先生がいたら教えて下さい


闇の狩人:お金の上限わー?無いなら闇医者に頼むとか闇の探偵に頼むとかやるといいよ


眠り姫の王子:お金の上限はありません。その二つはどうやって探せばよいでしょう


闇の狩人:ごめん。それは知らないんだー。他の人に聞いて


沈黙の子羊:闇医者は噂でしか聞いたことないけど。探偵のアドレスなら知ってる。特殊なアドレスで三十秒しか表示出来ないよ。準備良い?


眠り姫の王子:大丈夫です。お願いします。


沈黙の子羊:yamitantanmendozosan-takaiyo@yami.sekai


沈黙の子羊:良き旅を


向かいの隣人:君は蜘蛛の糸という作品を知っているだろうか。大悪人が助け船たる糸を昇るも、その悪行からまた地獄に戻ってしまう話だ。我々のやることは悪行に他ならない。チャンスが欲しくば、人を助け、また地獄に落ちたくなければ、悪行を重ねるな。そういう教訓話のようなものである。私はこの闇の中で敢えて言おう。「君に幸あれ」と


眠り姫の王子:蜘蛛の糸。覚えておきますね。皆さんありがとうございました


僕はすぐに闇の探偵に連絡を取った。闇の探偵に細かい説明は必要なかった。依頼内容だけ教えてくれ。そんな感じだった。




〈依頼内容は以下の通りです。

 月風花を治療出来る機関の発見及び、医師の発見

 宜しくお願いします〉




 簡単な返事がすぐに来てからたった一日後、闇医者のサイトのアドレス、闇医者の本名、住所、電話番号、勤務先、そして探偵料一二〇万という法外な額が記されたメールが届く。


不思議なことに、探偵料以外の情報は一〇秒程度で消えてしまった。きっと支払いが済んだら再送されるのだろう。僕はすぐにお金を用立てて払い、情報を再入手した。




 十秒だけあった中で気になるフレーズ、。田原という医師の名前。間違いなく花の主治医の名前だと分かった。




 二つの感情が沸き起こる。方法を知りながらその処置をしないという田原医師への怒り。そして、方法を知りながらその処置が出来ないというリスクを想像する恐れ。




 田原医師という人物についてはそこそこ知っていた。おそらく後者なのだろう。どんなリスクがあるのかを調べるため、僕は田原先生のサイトを隈なく見ることにした。






一、基本的に通常の医療では扱えない医療を扱います。


→単純に高額な医療を扱うものではありません。


二、オーナーは内科医を専門に通常仕事しています。外科的施術に関する成功率は専門医よりも低くなると思って下さい。


→行わないわけではありませんし、術後のケアも同じ人が行うので、全体のケアという点では通常の医療より優れたものになることもあります。


三、お互い守秘義務を徹底させて頂きます。


→守れない方の施術は行いません。


四、治療方法の一つに安楽死もございます。必要に応じてご依頼下さい。


→患者を苦しみから解放する、絶え間ない痛みを治療するという目的で行います。頼めば良いというものではありません。


五、基本的に保険は降りません。高額の医療費になることを覚悟して下さい。


→返金は一切出来ません。ご了承下さい。


六、基本的に闇医術はお勧めするものではありません。


→乱用は避け、どうしてもという時のみお受けします。基本的には主治医の意見に従いましょう。


 熟読して頂きありがとうございます。


 以上の警告を受け入れてまでも望む、貴方の意志に敬意を表し、私は最善を尽くします。




「始めに(条件・注意点)」という場所に書かれていた内容だった。




 現実医療への敬意、患者への敬意、依頼者への敬意がしっかりしている内容だと思った。今の主治医は田原先生自身だ。この条文を書ける人が選んだ治療は最善なものになっているかもしれない。そんな風に思えてしまう。




 しかし、闇の探偵に依頼した内容と結果を加味すれば、おそらく先生は闇医術を隠し持っている。かなりのリスクがあるのだろうが、その覚悟を踏み越えられれば、花は助かるかもしれない。




 そういうことだろう。




 僕にどれだけの愛情があるか、なのだろう。改めて覚悟を決める。いや、覚悟だけじゃきっとダメだ。先生よりも闇に染まる。たぶんそれが必要とされる。躊躇している先生よりも。




 僕はとことん闇を巡遊するのだった。






闇の狩人:私は醜形恐怖症という病気を持っています。鏡を見るたんびに自分の顔が怖いのです。醜いのです。見ていると死にたくなるほど辛くなります。人がいつも自分の悪口を言っているようで、とても辛いのです。何度か自殺未遂もしました。こんな醜い顔無くなっちゃえって。でも、何故か助かってしまうのです。私に死にきれる勇気を下さい。もう死にたいのです。毎朝毎晩、戦うのは辛いのです。生きるのは一日百回辛いけど、死ぬのは一回辛いだけで済みますから。もう私を休ませて下さい。励みの言葉、お待ちしています。




眠り姫の王子:死ぬことは罪ではありませんよ。世間では罪とされてますが、辛い人を生かし続ける拷問の方がよっぽど罪だと思います。自分の人生です。どうしても救いが無いのなら、死ぬ選択はまた仕方ないように思います。頑張って下さい。最後の一歩の勇気が貴方を救います。






沈黙の子羊:僕は薬物依存症です。違法の薬ではありません。市販の薬を大量に飲むのです。飲み続けるのです。飲まないといられないのです。最初は忘れました。実は薬中になってから記憶が悪くなったようなのです。いつも飲んだ後に自分を罰します。腕はリスカの嵐で、この前は切り過ぎて針を縫う手術しました。いや、僕なんか死んでしまってよいのですが……。世の中の皆が自分とは違う世界線で生きてくれればよいのにと思います。辛過ぎます。僕の周りはみんな優しいです。何が不足しているのかわからないくらい自分の環境は幸せで、だからこそ僕は僕を罰しなければなりません。死にたいです。死ぬのが怖いです。でも、だからこそ死ぬべきです。私に死ぬ勇気を下さい。




眠り姫の王子:あなたは罪深い。本当に罪深い。周りはこんなにも優しいのに、あなたを大事にしてくれるのに。あなたは薬物を止められない。あなたは死ぬべきです。死んでしまうべきです。みんなとは違う世界線に移動しましょう。この期に及んで怖いなんて最低です。だから、死にましょ。

       こんな感じで良いでしょうか。






通り縋る:僕は人を殺したくて殺したくて仕方ありません。今は大丈夫です。だけど、時々そうなるのです。そういう病気だと思ってます。誰かを殺してしまう前に自分を殺そうかとも思いました。だけど、不思議と失敗してしまいました。でも、怖いです。いつか誰かを殺すんじゃないかって。だから早く自分を殺してしまいたいです。僕に死ぬ勇気を下さい。




眠り姫の王子:殺してしまうくらいなら、自分を殺してしまおう。立派な考えだと思います。貴方は元来とても優しい人なのですね。損な病気を患ったものです。怖いですよね。人を殺す衝動が起こるのって。もし、治す方法があるのだとしたら、そこに賭けてみませんか。


通り縋る:そんな方法があるのであれば是非。


眠り姫の王子:僕がどうこう出来るわけではありませんが、今から個人宛に教えるサイトに行って考えてみて下さい。きっと、良い方法がありますよ。そう願います。


通り縋る:ありがとうございます。お願いします。


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