第14話 C純の結論

C純の結論




 あれが良くて、これがダメで


 そんな人生良くないはずで


 私はレールを歩いてた


 このレールは誰のもの




 「悪いことしたら地獄に落とされちゃうからねー」




 昔、よく聞かされた言葉だ。幼稚園の先生や親、小学校の低学年でも聞いたことがある気がする。すると、僕は悪いことをしたのだろうか。闇サイトに闇医術。なるほど、確かに悪いことしたのかもしれない。




 これも昔だが、蜘蛛の糸という作品を聞いたことがある。最近、リメイク版が出たらしくてちょっと話題になった。






 殺しを始め、たくさんの悪いことをした大悪党が、ある日蜘蛛の命を助けます。その後、その大悪党は復讐者に殺されてしまいます。あの世の裁判ではもちろん地獄行きになりました。大悪党はそれに見合った罪を受けることになります。




 地獄での生活は壮絶でした。自分のやったことを体験させられるだけではない。悶え、苦しみ、痛がり、絶望し、全ての苦痛という苦痛を何度も体験させられました。いつしか大悪党は自分の罪を反省し始めます。




 そんな頃、その様子を見ていた一人の神様が地獄に糸を垂らしました。その糸は蜘蛛の糸です。大悪党が助けたあの蜘蛛は天国に行き、神様にお願いしたのです。




「あの時私の命を助けてくれた恩人を、いつか助けてあげて下さい」




 と。




 神様は蜘蛛の願いを聞き入れて、一度だけ大悪党にチャンスを与えることにしたのです。神様は糸を垂らした後、大悪党に言いました。




「大悪党なる地獄の咎人よ。この糸を伝うがいい。天国へと続いている」


「ありがとうございます。ありがとうございます」




 大悪党はお礼を言います。神様は続けました。




「これは貴方が死ぬ前に助けた蜘蛛の願いによるものです。あなたの行った善行はその一度きり。故にチャンスは一度とします」




 大悪党は応えます。




「とんでもねぇチャンスがあるだけでも万々歳ですわ」




 そして、最後に神様が言います。




「では糸を伝いなさい。ただし、糸は見ての通りとても細いです。この糸は悪の心に重さを感じます。お前が地獄でしっかり反省し、天国の住民として問題無ければここまで登り切れますが、ふさわしくなければまた地獄に落ちます。さあ、糸を伝い昇ってみなさい」




 大悪党は大きく頷いて糸を握りました。




 大悪党はしばらくして不思議に思います。昇っても昇ってもなかなか天国へ近づけないのです。昇っても昇っても昇っても、天に空いた穴は遠いままでした。しかし大悪党は自信がありました。自分はしっかり反省した。だから糸は切れていない。だから糸は切れないのだと。どんなに天国が遠くても、必ず辿り着くことは出来る。辿り着いてみせる。何より、あんなに苦しい思いはもうしたくない。大悪党はめげずに昇っていきます。




 すると、ある所から変な呻き声のようなものが聞こえて来ました。




「うえー、うおーうわー。痛いよー、助けて―、死んじゃうよー」




 それはいつか自分が地獄で言っていた言葉でした。地獄にいる日々を思い出します。それは辛く辛く言いようもない苦しみと絶望の日々でした。手に力が入ります。大悪党はまだまだ昇っていきました。




 しかし、声はずっと消えませんでした。でもそれはそれで良いと大悪党は思っていました。力が湧き出るからです。しかし、良く聞くと、どうやらその声は自分の声ではないようでした。一緒に苦しみを味わってきた者達の声だと分かったのです。おかしいなと思って下を見ると、たくさんの悪党達が昇って来ていることに気付きます。




「この糸はとても細い糸です。この糸は悪い心に重さを感じます」




 神様の言葉を思い出しました。大悪党はようやくわかりました。どうして穴に近づけないのかを。他の悪党が糸を掴むから重さで糸が伸びていたのです。




 大悪党は身震いします。このままでは糸は切れてしまう。そしたらまた地獄に逆戻りだ。大悪党は必死で下の悪党を蹴り落とし始めました。蹴り落とし、蹴り落としますが、悪党がいなくなることはありませんでした。むしろどんどん増えていきます。




 ずん。




 その時、糸がガクッと伸びたような感じがしました。大悪党は悪寒が止まりません。嫌だ嫌だ。もう地獄になんか戻りたくない。今までよりも早く蹴り落とすように努力します。


ずーん。




 するとまた糸が大きく伸びるのでした。いや、それだけではありませんでした。天に空いた穴も小さくなっているのに気付きます。大悪党は放心します。




「もうダメだ。地獄に戻ってしまう」




 その瞬間、がしっと真下の悪党に足首を掴まれます。大悪党は覚悟しました。と、真下の悪党の顔が見えました。悲痛な面持ちでした。少し可哀そうだなと感じます。その悪党が今度は身体を這いずって来て、今度は瞳が良く見えました。瞳には自分の顔が映っています。同じ顔でした。這いずってきた悪党と自分は同じ顔をしていました。それが見えた瞬間、手に力が戻ってきました。




(俺がお前を連れて行くからな。俺がお前を連れてってやる)




 なんと大悪党はその悪党を連れていくことにしたのです。




「うえー、うおーうわー、痛いよー助けて―、死んじゃうよー」




(わかった。わかった。お前ら全員俺が連れてって行ってやる俺について来い)




 大悪党は糸を何人が掴んでも気にしないことにしたのです。ぐいぐいぐいと力強く昇って行きます。




「俺が連れてってやるからな」




 そう言って、ぐいと糸を思いっきり引っ張った時、目の前が真っ暗になりました。




(ああ終わった。糸が切れたんだ。ごめんよ)




 そう思って、目を閉じました。




「神よ、神。新しい神よ。目を開けなさい」




 何やら自分を呼ぶ声がします。しかし、その声はおかしなことを言っていました。自分のことを神と呼ぶのです。首を傾げる気持ちのまま目を開けてみます。スーッと光が入ってきました。真っ白な世界です。空が白く、周りには緑があふれ、地面には花が咲いています。天国だ。一目でそれがわかりました。




「新しい神よ。目を覚ましましたか。いらっしゃい。あなたは新しい神に任命されました」




 声に聞き覚えがあります。あの時自分に糸を垂らしてくれた神です。これで確証出来ました。自分は天国に来たのだとわかり安心します。しかし、神は変なことを言っています。




「新しい神。何のことです」




 聞いてみました。




「貴方の事です貴方は天国の住民として認められると同時に神様になったのです」




 自分が神様……。驚きを隠せません。何故だろうと不思議に思います。




 ふと、自分が連れてきた悪党たちがいないことに気付きます。




「あいつらは」




 神様に聞きました。




「あれは貴方の心の影です。気にしなくても大丈夫ですよ。さあ、天国で楽しく過ごしましょう」




 少し釈然としませんでした。何か心に引っ掛かるのです。




「なあ、俺は神様になったんだよな」




 神様に確認してみます。




「ええ、そうです」




 神様はにこやかに応えました。




「なら人を救えるんだよな」




 神様が自分にしてくれたことを思い出します。




「貴方が望むのならそれも出来ますよ」




 神様は応えました。




「なら、俺地獄に戻るよ」




 そう言うと、神様はびっくりしました。




「せっかく天国に来れたの、また辛い場所に戻るのですか」




 神様が聞いてきます。




「ああ、俺の影だか何だか知らねえが、俺は確かにあの時あいつらを救いてぇって思ったんだ。俺に救えるのなら救ってやりてぇ」




 神様はひどく感心します。




「そうですか、それが貴方の役目ですか……。わかりました。いってらっしゃい、新しい神よ」


神様はそう言って、地面に穴を開けました。中を見ると。地獄が見えます。




「すまねえな。せっかく助けてくれたのに」




 一先ずお礼を言います。




「ええ、貴方の望みのままに」




 神様はにこやかに言いました。




 もう一度中を覗きます。苦しみの日々が思い出されます。恐ろしい罰が目に映ります。しかし、躊躇はありませんでした。新しい神は穴の中へと入っていくのでした。






 そういう話だ。




 僕は少し自分の状況に重ねてみた。僕は最後に一人助けたと思う。地獄に落ちる前に一人。だからチャンスはあって良い気がする。そう思うのは傲慢だろうか。




 いや、やめよう。そんなものに縋るのは。




 言霊という概念がある。 言葉にした想いが、現実のものとなるという考えだ。僕はいつの間にやら言葉に出していたのかもしれない。




 いや、そんなはずはない。




 ただ、言葉にするなんかよりもよっぽど強い気持ちで、いつの間にか花との再会を求めていたのかもしれない。今の花を知りたかったのかもしれない。だからまた、出会ったのかもしれない。




 神様の贈り物ってことで良いのかな。これはきっとプレゼント。そう考えることにしよう。






ジュン:こんちゃ


花鳥風月:ジュンちゃんこんちゃ♪


ジュン:花さん今仕事ないの?


花鳥風月:うん、今日は休みだよー


ジュン:ね、聞いていいかな?


花鳥風月:いいよー、何?


ジュン:花さんって、今彼氏いるの?


花鳥風月:いるよー






 いるんだ。……良かった。






ジュン:そうなんだ!!どれくらい付き合ってるの!?


花鳥風月:一年かな


ジュン:一年かぁー。幸せ?


花鳥風月:うん、まあww






 ふふっ。良かった。






ジュン:じゃあとりあえずの旦那さん候補だね!!


花鳥風月:うん、まあww






 って相手からしたらいきなり過ぎるか。






ジュン:ごめんね、いきなり


花鳥風月:いや、別にいいけどww






 なんとなくで始めたゲーム。なんとなくハマったこのゲーム。惹きつける何かはなんとなくわかった。きっと、それは君だよ、花。




 回る回る貴女は回る


 僕の周りを笑顔が回る


 あまりに踊って回り疲れて


 僕は貴方を立たせて消えた


 繰り返される旋律が


 この耳には心地よく


 貴女の選んだこの踊り


 頭の中で反芻す


 回りに回って


 世界が回る


 くるくる、ぐるぐる


 るるるるるーー






 この踊りを踊る時だけ、僕も君との幸せ思い出せるから。




 それでいい。




 ありがとうと言おう、この再会に。






ジュン:それ、たまに進捗聞かせてね☆


花鳥風月:ああ、うんww






 ただ一つ、ちょっとだけ差し障りの無い範囲で、君の状況教えてね。






ジュン:じゃあね






 赤の他人のジュンより。






花鳥風月:はーい、じゃあね

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