第6話 A忘れてないもの

A忘れてないもの




 回る回る貴女は回る


 僕の周りを笑顔が回る


 あまりに踊って回り疲れて


 僕は貴方を立たせて消えた






 花、月英、思い出せない大学の三年間、それと一応花鳥風月という名前。確定だ。目の前にいる花さんはあの花だ。まさか、こんなところで出会うなんて思っていなかった。




 とは言っても、正直名乗るつもりはない。




 これは過去の思い出。僕はもう未来を歩いているから。






獣の王様:あー早くコロナ終われー。自粛期間長過ぎー


花鳥風月:長いよねー






 うん。何か見たことある台詞だな。ま、いいや。




 度々コロナ―って出てきていると思うので、コロナについて説明しときますね。もう知っている人も多いと思うし、僕は専門家じゃないから必要そうなところだけ掻い摘んでいきますね。




 コロナとは西暦二〇二〇年に世界で流行った感染症です。ワクチンが中々出来なくて、感染力が高く、身体の弱い人が次々と亡くなるウイルスです。そこで外出制限を政府として敢行する国が多くて、ここ日本でもそれが起きたわけです。なんか肺炎の一種みたいですね。で、外出が制限されると、日本では特に罰則はないんですけど、店を閉めるところも多くて、遊ぶ場所も人と会う場所も無くなってくるんですよね。それで皆グチグチ言うわけです。




 仕事も従来の九時から十八時までの出勤。場合によっては残業ってものが当たり前だったけど、家で仕事していいんじゃないのってなって、テレワークってのが流行ってます。これからだんだんそういう風に世界が変わっていくんだろうな。ま、今はそういうご時世です。




ジュン:長いですねー。カラオケ行きたい。


花鳥風月:カラオケかぁー。ジュンさんカラオケ好きなんだ?


獣の王様:僕も行きたい!!


ジュン:大好きだよ♪






 カラオケはよく花と二人で行った記憶がある。






花鳥風月:獣さんもか。二人は何を歌うの?


獣の王様:僕はねー。ラ・ルークとかベックスとかかな♪


ジュン:僕は一応レゲエっぽい曲とか、有名そうなやつをちょろちょろ


花鳥風月:獣さんはそっち系かww意外だったww


ジュン:ん?待った。ベックス歌えるってことは声高い?


花鳥風月:あっ、確かに。獣さんの声が高いのも意外だww


獣の王様:うん♪何か歌えちゃう♪歌う時は高いかな。


ジュン:ベックス歌えるのはもはや才能なんだけど


花鳥風月:すごく上手そう


獣の王様:九十点とかは良く取るかも


ジュン:やばっ!!


花鳥風月:すごっ!!


獣の王様:ジュンさんのレゲエって何ですか?


花鳥風月:あっ、私も知らない






 知らない、か。








ロビンビン:ボブマリィだよね


ジュン:そうそう!ってこんちゃ


獣の王様:そうなんだ。ロビンさんこんにち   は


花鳥風月:ロビンさんこんにちは


ロビンビン:皆さんこんにちは


ロビンビン:ジュンちゃんの得意曲は純の恋歌と


ロビンビン:そのままのラブソングだよね?


ジュン:ロビンちゃんよく憶えてる(笑)


獣の王様:あっ、水の時間が歌ったやつか


ジュン:そうそう


花鳥風月:純の恋歌はそのままだねww


ジュン:ですです(笑)


花鳥風月:横浜の風のやつだよね?


ジュン:そうだよ


花鳥風月:二つともよく聞いたことある。カラオケで






 まさか。と思った。僕との想い出を憶えているってことなのかなって。でも冷静に考えると有名な曲だし、友達が歌ってただけのを憶えているって可能性も全然ある。それでも僕の心はさわさわとし始めていた。




 あの医者は僕との記憶は全て消えるって言ってたけど……。






獣の王様:花さんは何歌うの?


花鳥風月:私はテキトーだよ。アイドルとか流行っている歌かな






 花も確かにそんな感じだったな。






ジュン:ロビンちゃんはボカロだっけ?


ロビンビン:うん


花鳥風月:結構皆分かれたね


獣の王様:このメンバーでカラオケ行ったら面白そうだね


ロビンビン:だね






 こういうオンライン上で仲良くなった人と、現実世界で出会うことをオフ会って言います。


「オン」ラインと「オフ」ラインってことだと思う。僕らが出会ったのはあくまでオンラインの世界だから、現実世界はオフになるわけですね。あるいはオンラインで忙しく楽しく活動しているから、ちょっと休憩ってことでのオフだったりして。結構面白い言葉だと思ってます。




 オンラインでの再会……か。




 オフ会ね……。




 花はいつもオフ会の話になるとやってみたいねとは言わない。たぶんリーダーだからだと思う。リーダーがやりたいって言うと、本当にやりかねない流れになることが多いから。特にこういうゲームは色々な地方でプレイされていることが多いから、参加出来ない人は寂しい思いしますしね。






ジュン:昔はクラシックとかオペラ聞いていたから


ジュン:高校の時カラオケ歌えなくて困った記憶ある








 話題転換を手伝おうと思って、近い話題で話をずらす。






獣の王様:クラシック、すげー


花鳥風月:クラシック聞いたことない


ロビンビン:中学の時だっけ?


ジュン:そう


獣の王様:僕も聞いたことないかも


ジュン:ベックスの曲の元はクラシックらしいけどね


ロビンビン:そういうよね


獣の王様:えっ!そうなんだ!!


花鳥風月:ねね、社交ダンスの曲ってクラシック?


ロビンビン:ジャズとかもあるけど、普通はそうなんじゃない?






 社交ダンス。その言葉が引っ掛かった。






花鳥風月:じゃあ聞いているんだww


ジュン:えっ、花さん社交ダンス踊れるの?


花鳥風月:うん


獣の王様:スゲー!!






 やっぱりおかしい。まるで僕との記憶があるようだ。少し詮索してみることにする。






ジュン:もしかしてロンドとかが好き?


花鳥風月:うん、そう!よくわかったね!






 やっぱりだ。僕との記憶が残ってる。






獣の王様:ロンドって何?ワルツとかと同じ?


ロビンビン:漢字で書くと輪舞だね


ジュン:違うと言えば違うけど、ただ曲調が違うだけかな


花鳥風月:うん。私も違いはわからない。


獣の輪舞:あっ、本当だ!!輪舞輪舞♪






 憶えてるんだ。さすがに僕のことは憶えていないだろうけど、ちょっとだけ。僕との記憶。プラスと取るべきか、マイナスと取るべきか……。




 しかし、輪舞か。懐かしいな。


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