第4話 C破滅1

C破滅




 回る回る貴女は回る


 僕の周りを笑顔が回る


 あまりに踊って回り疲れて


 僕は貴方を立たせて消えた






 女はやはり一糸纏わぬ姿が美しい。その女の一番は肌が露わになっている瞬間だ。これはもちろん当たり前だが、顔も良くてスタイルも良いならそれ以上美しいものはない。故に人はそれを絵に描き石に掘るのだ。個人が特定されないように大事なところを隠して。




 「次は八十八番だ、花」


「はい、マスター」




 ふっふっふっふっ、はっはっはっはっ。遂に手に入った。遂にあの花が手に入った。もうあの花は俺の操り人形だ。




 花が来てからもう一週間か。すっかり馴染んでしまってよー。くっくっく、はっはっはっ。元あった花びらが散って新しい花びらを埋えるまではもうすぐだ。立派な奴隷娼婦になるんだぞ、


花。俺が散々弄んでから高値で売り飛ばしてやるから安心しろ。




 ふっふっふっふっ、はっはっはっはっは。




「兄貴ぃー。外でうろうろしてたんで簡単に捕まりましたぜ」


「よくやった。別室で待機させておけ。ああ、遊ぶのはまだほどほどにな」




 言っておくが、俺だってこんな卑劣なやり方を最初からしようなんて思ってない。花が俺の好意を受け取らなかったのがいけないんだ。ああ、懐かしき思い出。その話をしようか。




 俺がこの大学に入ったのは約半年前。他の学生に埋もれていくように俺はサークルを探していた。自分が輝けるようなサークルを。そこで見つけたのが軽スポーツサークルだった。表向きは色々なスポーツを楽しむサークルだが、裏を返せば毎回ある飲みや男女の品定めをするようなサークルだった。ここでなら輝ける。俺は確信した。自慢じゃないが、スポーツ万能、美形な顔立ちには自信がある方だ。




 俺はすぐに頭角を現した。とはいえ、面倒臭い場所だ。仮にも体育会のノリがあるスポーツ系のサークルだ。上下関係にも気を付けなければいけない。ま、外面にも自信はあったから基本的には問題なかったが……。




 それでも看破する奴ってのはいるものだ。それが年齢によるものなのか、母数によるものなのかはわからないが、さすが、と言うべきか。






 「単刀直入に聞く。ここに何しに来たんだ」




 名前なんて覚えてないから、暫定的にプー太郎と呼ぼう。




「何って、先輩に呼ばれたからここに来たんでしょ」


「変な問答はやめろ。俺の前ではてめぇの素顔で話していい」




 はぁ……。熱血系は嫌いなんだよな俺。




「はい……、そうですね……、別に何も。自分の好きな場所で活動する。それがサークルですよね。ここだと輝ける。そんな気がしたので」


「はぁ、じゃあ聞くがてめぇの好きってのはなんだ。活動ってのは何をしている」




 おっ、鋭いねぇ、プー太郎。




「スポーツですけど何か」


「ちっ、輝けるってのは何のことだ」


「見たまんまですよ。スポーツにちょっと自信があったので、ちょっとしたスターになれた。先輩を差し置いて申し訳ないですけど。そのこと怒ってます」




 俺の仮面は鉄仮面―。




「……。俺の幼馴染がてめぇに惚れた」




 ああ、そういうこと。




「ぷぷっ、何ですかそれ。先輩がバラしていいことなんですか」




 プー太郎ちゃん、笑いが止まらないよー。




「そしていなくなった」




 その言葉を聞いた瞬間、カッと瞳孔が開かれる。




 そうか、サークル入会してそこそこの頃、そういえばそんなハエいたっけかな。記念にプー子と名付けてやろう。




「そうなんですか。知らなかったです。心配ですね」




 一連の過程を経て、見事三千万で売れたっけっかな。ふふっ。




「しらばっくれてんじゃねえ。てめぇが隠したのはわかってんだ。さっさと返しやがれ」


プー太郎に胸倉を掴まれながらそう言われる。唾が汚いっての。




「そんな。知らないですよそんなの。今どこにいるかなんか知りませんよ」




 そう、「今は」、ね。




「ちょっとそこ何してんの」




 そこに現れたのが我が天使、花である。プー太郎の手が離れる。




「いえ、何も」


「鹿島君とプー太郎君ね。喧嘩、じゃないよね」




 なにぶんプー太郎の名前は憶えていないから勘弁してくれ。




「ええ、全然違います。ね、先輩」


「ああ、ちょっと話してただけだ」


「話してただけで、胸倉掴むんだ」




 花もだいぶ鋭いんだ。そこが良いんだが。




「胸倉ってどうやって掴むのか教えてもらっていたんです。俺経験無かったんで」


「ほんと」


「ああ……」




 花はしばらく二人の表情を交互に見て、一息つく。




「まあいいや。喧嘩はしないでね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る