第3話 修復と住み込み

 ちょうど朝日が昇り始めたころ。昨日のお化け退治から時間が経ち、日付が変わった。俺は中学校でのお化け退治の後、神社に戻ってカエデに今回の事を報告していたのだ。


「それで、みしろの戦いぶりはどうじゃった?」

「いや……もう、凄すぎて言葉が出ないって言うか……」


 俺は昨日のみしろの戦いを思い出し、感想を述べる。


「なんか……こう、縦横無尽にあっちこっちを駆け回って、あっという間に大きな悪霊をズタボロにしちゃって……」


 結局、みしろが駆除した悪霊はその後、霧散してしまった。悪霊を駆除すると、基本的に霧散するらしい。


「でも、瀬奈はみしろよりもっと強いぞ。瀬奈とみしろは同年代の退魔師という事もあって、良い意味でライバル意識を抱いていたからの。まぁ、その瀬奈が弥尋と入れ替わって、内心荒れておるようじゃがの」

「だからあんな風に終始冷たい態度なのか……」


 なんだか申し訳なさが込み上げてくる。


「まぁ、それでも普段からみしろは結構ツンケンした態度を取り気味じゃし、気にすることないぞ」

「ってことは……みしろはツンデレ?」

「まぁ、そうじゃな。つんでれという奴じゃ。その内……『か、勘違いしないでよね! べ、別にアンタのためじゃないんだから……』とか言い出すぞ」

「何それスゲェ見てみたい、そして煽りまくりたい」

「全部聞こえてんのよアンタ達!!」


 大きな音を立てて部屋の扉が開かれ、切れたみしろが進撃してくる。


「誰がツンデレだって? もう一回言ってみなさい?」

「「いだだだだだだ!?」」


 みしろは俺とカエデの頭を掴み、渾身のアイアンクローをお見舞いしてくる。余りの握力にメキメキと頭蓋骨が音をたて、俺とカエデは悲鳴を上げてしまう。


「と、というかなんでお前がまだ神社にいるんだよ!」

「え、言ってなかったっけ? 私今日からここ神社に住むのよ」

「はぁっ!?」


 突然の言葉に、俺はまたもや悲鳴に近い声を上げる。


「昨日会った時に言ったでしょ? スマホと家がなくなったって」

「あ、ワシがホームレスだと馬鹿にしたやつか」

「…………」


 カエデの発言を無視しながら、みしろは言葉を続ける。


「だから私、瀬奈の家にしばらくの間泊めてもらおうかと思ってたの。でも、ぶっちゃけ今のここの家主って、貴方でしょ?」

「ま、まぁそうなるのか?」


 瀬奈は現在封印状態。だが、今の俺は文字通り見た目だけなら瀬奈である。だからこそ、俺が瀬奈の代わりとして動くべきなのだが……


「だから、私をここに泊めてほしいんだけど」

「えぇ……」


 どうしよう、この暴力女を泊めてもいいのだろうか。


「大丈夫、せいぜい3週間よ。そしたら連合側が戦闘で壊れた家の代わりを用意してくれると思うから」

「そ、そんなもんなのか……というか、爆発って言ってたけど何があったのさ」


 普通に考えて民家が爆発するなんてただ事ではない。


「……私の家さ、キッチンがガスコンロ式なのよ」

「お、おう?」

「私は自炊してるときにね、家の中にそこそこ強い悪霊の気配を感じたの……」


 気まずそうに眼を反らしながら語るみしろ。何故だろう、次の言葉が手に取る様にわかる。


「それで、慌てて追いかけて行って……追いかけて倒すまでは良かったんだけど……帰った時にはもう……」

「燃えてたと……」


 火元の確認は大事だってことが良く分かる例だな。


「そ、それにちょっと前に通り魔事件とかあったでしょ?」

「あぁ、あの事件か」


 恐らくみしろは、隣町で起こった通り魔事件の事を言っているのだろう。なんでも、登下校中の学生に話しかけては包丁で顔を切りつけ、逃亡をする悪質な事件だったらしい。ちなみに、犯人は既に逮捕されている。なんでも、イジメによって娘を亡くした母親が精神的に病んでしまい、娘の学校の生徒を襲っていたらしい。


「こんな物騒な世の中で女の子一人に路上生活をさせる気?」

「……その事件はもう解決したんでしょ? だったらその通り魔事件は言い訳にならなくない?」

「…………」


 しまった、といった顔をしているみしろ。


「まぁ、良いけどさ……」

「よ、よかったぁ……流石に3週間も無一文宿無しは死ぬ自信しかないし」


 心底安堵したような態度をとるみしろ。ん? 待てよ……?


「というか、わざわざ俺の所に頼みに来るか? 先輩とやらに頼み込めばよかったんじゃないの?」

「……あの人……大学生でバイトをしながら生活しながらしてるんだけど……家を持ってないの」

「退魔師ってのはみんな家がないものなのか!?」

「違うわよ!」


 顔を真っ赤にして講義をするみしろ。


「私は家を失っただけで、あの人は自分から家を持たないで生活してるだけ! 野生のゴリラそのものなんだから!」

「野生のゴリラそのもので悪かったな」

「「っ!?」」


 突然、背後から聞き覚えのない男の声が聞こえたことで、俺とみしろが声にならない叫び声をあげる。


「ちょっ、先輩! 音も無くいきなり出てこないでくださいよ!」

「人の悪口を言ってる奴に言われたくはねぇよ」


 額に青筋を浮かべながら男はため息を吐く。


「おぉ、瀬奈……じゃなくてお前、八雲弥尋だっけか?」

「は、はい……」


 俺の方を見て何かを思い出したような声を出す男に、俺は固まってしまう。それもそのはず、俺の目の前に立つ男の身長は180㎝を超えており、体格も元の俺の肉体よりも遥かにがっしりとして、血からず良い印象を与える。ただ気になる点があるとすれば……


「あ、あの……なんでコンビニの制服なんですか?」

「あぁ、夜勤明けなんだ。コンビニバイトのな」


 なるほど。だから某有名コンビニストアの制服の上からパーカーを着た特殊な服装をしていたわけか。


「あ、見た目は瀬奈ですけど俺、八雲弥尋ていいます」

「おう、ご紹介に預かった野生ゴリラこと大山おおやま栄地えいじだ。話しは後ろのちんちくりんから全部聞いたぞ」

「誰がちんちくりんじゃ!」


 栄地さんの後ろからカエデがひょっこりと顔を出す。先ほどから会話に参加してないと思ったら栄地さんを呼びに行っていたらしい。


「っと、そういえば境内が大分ボロボロだったな。もうお前は転生体の力を引き出せるのか?」

「い、いえ……アレはカエデがやったやつで……」

「……ホントか?」

「うむ、わしが修行を付けたんじゃ! 弥尋の回避術はなかなかのモノじゃぞ!」

「へぇ……まぁ、身体が瀬奈だからな」


 どこか納得したような表情を浮かべると栄地さんは、その場から離れようとする。


「あ、あの……どこに行くんですか?」

「修行した跡の修復だ。一応、ここにも人が来るかもしれないからな」


 栄地さんはそのまま境内に向けて歩き始め、俺もその後を追う。


「だいぶ派手にやったな」

「矢をひたすら撃って避ける訓練じゃったし、仕方ないじゃろ」


 修行をした後の境内はそこら中にクレーターが出来ており、無事な部分の方が少ないくらいだ。


「あ、あの……どうやってこれを直すんですか?」

「まぁ、見てろ」


 そういうと栄地さんは腰を屈め、手のひらを地面に付ける。


「なっ!?」

「ははっ、随分と初々しい反応するな」


 俺の反応に愉快そうな声を出す栄地さんだが、俺にとって驚くなと言う方が無理だ。境内に散らばった岩や石、さらには地面までもがまるで時間を逆再生したかのように動き出し、壊れる前の元の形へと戻っていく。


「俺の転生体はさ、大地に対して強い干渉力を持ってるんだ。土と木、それに石や葉」


 終わったぞ、と一言だけ言って立ち上がる。


って聞いたことあるか?」

「まさか……」


 栄地さんはコクリと頷き、答える。


「俺はダイダラボッチの転生者てんしょうしゃだ」


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