ここからは映像劇シナリオ(例)です。
第8話 映像劇シナリオ「36.5°」前編
〇夏の公園。(晴れ)
強い日光に照らされて、公園の土は乾燥している。
大地には、長い列を作って行進する小さくて黒い生き物。
(ズーム)
蟻。
突然、その隊列を踏みつぶして行く小さな足。
少年 (泰十郎)、公園の水飲み場へと走ってゆく。
無残な蟻の死骸、点々と続いている。
公園の傍らに道路を挟み、団地がある。
団地の二階、窓が開いている。
レースのカーテンが風になびく。
風鈴、揺れる。
〇三秋家、寝室。
風鈴が揺れて、鳴る。
優海は布団に横たわっている。風鈴を眺めている。
窓辺には金魚鉢。それを突き抜けた光が、部屋の床に半透明な影を映し出している。
優海、手を伸ばして影に触ろうとしている。
美空「眠れんとね」(目を開ける)
優海「ん~……」
美空、暫くして目を閉じる。
優海「お母さん」
美空「……なんね」
優海「……外に行ってもいい?」
美空「…………」
優海「外行っていい?」
美空「お姉ちゃんが帰るまで待ちなっせ」
優海「お姉ちゃんとじゃつまらんもん」
美空「よかけん。黙って寝ときなっせ」
優海、タオルケットを被る。
窓の外には青空と流れる雲。
空を背景に赤字でタイトルイン。
〇同、ベランダ。
美空、洗濯物を取り込んでいる。
〇同、居間。
美空、洗濯物を抱えて入って来る。
ふと、優海の寝顔を見る。
優海の寝顔。
美空、穏やかに微笑を浮かべる。
〇同、玄関。
ドアが開き、
照子「ただいまあ」(買い物袋を下ろす)
優海、走って来る。
優海「遅いいい。お姉ちゃん、早く帰るって言ったとに」
照子「なんね。良いたい。もう」
美空、来る。
美空「照子、悪いけど優海ば遊びに連れて行ってやって」
照子「ええ~~」
美空「お願い。優海が怒るけん」
優海、ふくれっ面で照子を見ている。
〇公園。(夕)
優海、砂場で遊んでいる。
照子、ベンチから優海を眺めている。
照子「優ちゃん」
優海「何~?」
照子「そろそろ帰ろうか」
優海、無視して砂山を作っている。
照子、溜息を吐く。
間。
照子「帰ろうよお~」
優海「嫌あああ!」
〇道路 (夕)
ふくれっ面の優海、照子に手を引かれて歩いている。
泰十郎の声「優海……」
優海「?」(振り向く)
優海「たいちゃん」
照子「泰十郎君……」
泰十郎「どこ行くと?」
優海「帰ると」
泰十郎「もう帰ると?」
優海「うん。たいちゃんは?」
泰十郎「遊びに行くと」
優海「一人で? どこ行くと?」
泰十郎「秘密基地」(耳打ちで)
優海「本当ね!」
泰十郎「うん。じゃあ、バイバイ」
泰十郎、走り去る。
優海、羨ましそうに後ろ姿を見ている。
〇三秋家、居間。(夜)
優海、
陸男「優海。また好き嫌いしよる。ちゃんとタコ食え!」(刺身)
優海、いやいやをする。
陸男「ほら!」(タコを差し出す)
優海「タコ食べたら一人で遊んでもいい?」
陸男「なんでか?」
優海「だって、たいちゃんは一人で遊びよるもん」
陸男「お前はぼさっとしとるけん、まだ一人じゃいかん」
優海「だって、お姉ちゃんとじゃつまらんもん」
照子「じゃあ、一人で遊ぶたい」
優海、ふくれっ面になる。
美空「優海。お父さんのいう事は聞きなさい」
優海「嫌だあああ」
美空「優海!」(声を荒げる)
優海、驚いて黙る。
〇団地全景。(昼)
狂おしく鳴く蝉の声。
〇三秋家寝室。(昼)
優海、眠っている。
美空、優海に添い寝して、団扇で優海を扇いでいる。
美空、やがて眼を閉じて、眠りに落ちる。
団扇、美空の手を離れる。
間。
優海、ゆっくりと目を開ける。
優海「……」
優海、団扇をぼんやりと見つめる。
団扇には「大入」の文字。
美空の寝顔。
風鈴の音。
優海、そっと起き上がり、居間へ。
振り向く。
美空の後ろ姿。
気にする優海。
優海、振り切って行く。
〇同、玄関先。
扉開き、優海、こっそり出て来る。
振り返る。
優海「……」
優海、振り切って階段を下りる。
〇公園からの光景。(昼)
公園から道路を挟んで団地の光景。
優海、走って来る。
レンズ変更。
優海の背後には団地。
優海、振り向いて団地を見上げる。
優海越しの団地。(煽り)(要、威圧感)
優海、走り出す。
〇公園
優海、来る。立ち止まり、公園を見渡す。
優海、公園を走り回る。
滑り台へ駆けあがる。
滑り台の上から街を見渡す。
快晴の空。彼方には入道雲。
優海、駆け下りて公園の外へ。
〇空地の草むら。
優海、草むらの虫を追い回している。
優海、虫を捕まえる。
優海、捕まえた虫に大きめの石を振り下ろす。
逃げ回る他の虫に、石を振り下ろす。
優海、夢中で虫を追い回す。
蝉の声、狂おしさを増す。
★ ★ ★ (暗転、時間経過)
夕焼けの草むらには、虫の死骸が散らばっている。
〇団地の階段。(夕)
泥だらけの優海、階段を上ってゆく。
〇三秋家、玄関。
静かに扉が開き、優海が入って来る。
玄関の灯りは消えている。
灯が点く。
美空、居る。
美空の目には涙が浮かんでいる。
優海「……」
美空「……馬鹿だけん」
優海「……」
美空「馬鹿だけん!」
美空、優海の頬を引っ叩く。
優海「……だって――」
美空、優海を抱きしめる。
優海、少しもがいて美空の顔を見る。
美空の目から、涙が落ちる。
涙、優海の頬へ。
優海「……」
優海も、じわりと涙を浮かべる。
〇同、居間。(夜)
三秋一家、夕食を食べている。
重い沈黙がある。
黙々と食事をする四人。
優海、泣き腫らした顔をしている。
照子「……テレビ、点けて良い?」
陸男「…………ああ」
照子、テレビは点けづに食事を急ぐ。
〇同、寝室。
優海と照子、眠っている。
〇同、居間。
美空、陸男のグラスにビールを注ぐ。
美空「……」(下を向く)
陸男「……気にせんでもよか」
美空「優海は、もっと自由にさせた方が――」
陸男「いかん。まだ小さすぎる」
美空「でも、優海も息が詰まるでしょう」
陸男「照子がおる。一緒に遊べばいい」
美空「そうだけど、優海の友達はもう一人で遊びに行きよらすとよ。優海ばっかりだと、なんか鎖でつないでるみたい。なんか可哀そうになると」
陸男「……」
美空「心配になると。優海が人と仲良くできんかったら? 仲間外れになったら? あの子の友達はあの子が作らないと。私達は何もしてやれんでしょう」
陸男「あいつは身体が弱いだろう。家におるだけで性格が悪くなるとも限らんだろう」
美空「でも、今の内から人との付き合い方を覚えんと、後々どうなるか……」
陸男「家にいても外にいても性格は変わらん。優海を信じてやらんと」
美空「……」
美空、襖を開ける。
寝室には優海と照子。二人は眠っている。
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