第5話 絵的表現の重要度について




 今回は、有体な文章と、小説的表現の共存について話します。


 まずは、天さんの作品から例を挙げましょう。


 今回は、二話連続で例を上げます。⬇️





第17話 隼人は22歳になった


入社して四年がたっていた。



無事に昇進試験も受かり係長になっていた。


普通は27歳で係長になるけど、特別に許可された。



あれから、仕事が終わると祐介さんとまりと一緒に勉強会をやることにした。



まりも主任になっていた。


祐介は課長になっていた。



三年間ほぼ毎日勉強をした。



祐介は要領が良い。


隼人は不器用だが継続力がある。


まりは努力家。





第20話 まりを遊びに誘った


隼人

「まり、一緒に遊びにいかないか?」


まり

「いいわよ」


隼人

「来週、10時集合で」



当日


 緊張するな、二人きりで遊ぶのは緊張するな。



まり

「お待たせ」


隼人

「行こうか」


映画館に行った。流行りの映画を見た。


昼になり、パスタの店に入った。


隼人はキノコと明太子のパスタを注文した。


まりも一緒のを注文した。


「旨いね」


声が揃った。


思わず二人とも笑ってしまった。


次は、遊園地に来た。


観覧車に乗った。


隼人

「今日はありがとう楽しかったよ」


まり

「うちも楽しかったわ」


隼人

「良かった楽しんで貰えて」


観覧車を降りた。


まり

「ジェットコースター乗ろうよ」


隼人はジェットコースターに乗るのが苦手だ。


隼人

「ごめん、無理」


まりは笑った。


私も無理だから思わずわらっちゃった。


家に帰ることにした。





 ━━━━━━━


 以上が天さんの作品の抜粋です。徹底した一文一意で、無駄のない文章となっております。


 ただ、小濱的には勿体ないな。と、感じている点もあります。


 では、上に挙げた天さんの小説二話に、小濱が手を加えてみます。⬇️





 第17話。


 隼人は22歳になった。隼人の入社以来、会社前の銀杏並木いちょうなみきは、四回も衣替えをした。


 隼人は無事に昇進試験も受かり、係長になっていた。


 普通は27歳で係長になる。隼人の場合は特別に許可された。


 まりも主任になっていた。祐介はなんと、課長になっていた。


 四年という歳月は長い。


 隼人とまりとの間にも、ささやかな変化があった。


 まりは、隼人の事を親しみを込めて「はあくん」と、呼ぶようになった。隼人もまた、まりを呼び捨てにするようになった。


 仕事が終わると、隼人は、祐介とまりと、三人で勉強会をやるのが日課だった。


 三人は、ほぼ毎日勉強をした。その期間は三年に及ぼうとしている。


 学習に関しては、祐介は要領が良い。


 隼人は不器用だが継続力がある。


 まりはとにかく努力家だ。





 第20話 


 隼人は、まりを遊びに誘った


「まり、今度、一緒に遊びにいかないか?」


「いいわよ。何処に連れて行ってくれるの? 隼君」


「まだ秘密、かな。兎に角、来週。10時集合で」



 あっという間にデート当日になった。

 待ち合わせの場所には、隼人が先に着いた。


(緊張するな、二人きりで遊ぶのは緊張するな)


 隼人は心中、繰り返す。胸の高鳴りを押し殺し、額の汗を拭う。手にも、手汗を掻いていた。


「お待たせ。隼君」


 突然、まりが背後から声をかける。


「ま、まり。行こうか」


 悪戯めいたまりの眼を、隼人は直視できない。

 二人は映画館に行った。見たのは、流行りの洋画だった。


 暗がりの中、隼人は、まりの横顔に目をやった。まりの瞳が、スクリーンの灯りに煌めいていた。

 隼人は何もできなかった。


 昼になり、二人はパスタの店に入った。


 隼人はキノコと明太子のパスタを注文した。まりも、同じ物を注文した。


「美味しい」


 声が揃った。

 思わず二人とも笑ってしまった。


 二人は間もなく食事を終えた。

 デートを終えるには、まだ早い時間だった。なので、二人は遊園地を訪れた。

 隼人は、まりと観覧車に乗った。


「今日はありがとう。楽しかったよ」


「うちも楽しかったわ。隼君」


「良かった。楽しんで貰えて」


 まりの瞳は、真っすぐ隼人に向けられていた。うっすらと涙が滲んでいる。そこには、切ない程の意図があった。


 隼人は選択を迫られていることを悟った。だが、勇気が出ない。

 葛藤する内に、時間は過ぎていった。赤みを帯びた、まりの頬に触れる事さえできないでいる。隼人は、まりを信じることができなかった。


 二人は観覧車を降りた。



「ねえ隼君。ジェットコースター乗ろうよ」

「ごめん、無理」


 隼人はジェットコースターが苦手だったのだ。

 くすりと、まりが笑う。


「実はね、私も無理なの。だから思わず笑っちゃった」


 そんなやり取りをして、二人は家に帰ることにした。


 今はまだ、これで良いのかもしれない。隼人は、そう考えていた……。




 ━━━━━━━


 以上が、小濱が手を加えてみた物となります。


 やった事は大まかに四つです。





 一つ。説明不足と思われる点を補足した。


 天さんには、もう一つ苦手な事があります。それは「説明」です。もっといえば体感と描写です。

 具体的な表情、距離感、色彩、関係やアクション、五感、等々。これらの具体的描写により、人の心を映し出す。ここら辺のテクニックに関しては、意識しないと身に付かないので意識してみてください。本当に意識しないと身につきません。何度も推敲を繰り返して挑戦して下さい。


 もしかしたら、天さんは説明の為の説明を避けているのかもしれませんね。

 ですが、やはり最低限の事は説明する必要があります。

 これに関しては、不必要と切り捨ててあった説明を、小説的表現を使う事によって必要な物に昇華させています。




 隼人は22歳になった

 入社して四年がたっていた。

 無事に昇進試験も受かり係長になっていた。

 普通は27歳で係長になるけど、特別に許可された。




 天さんがこのように描いている場面を……




 隼人は22歳になった。隼人の入社以来、会社前の銀杏並木いちょうなみきは、四回も衣替えをした。


 無事に昇進試験も受かり、係長になっていた。

 普通は27歳で係長になる。隼人の場合は特別に許可された。


 四年という歳月は長い。

 隼人とまりとの間にも、ささやかな変化があった。

 まりは隼人の事を親しみを込めて「はあくん」と、呼ぶようになった。隼人もまた、まりを呼び捨てにするようになった。




 小濱の場合はここまで描いています。

 これには、説明すべき事を補足する。という狙いがあります。微妙な関係の変化や、環境の変化をする事で、四年という時間を説明しているのですね。

 また、キャラクターを補強する狙いもあります。

 この捕捉部分は、四年という時間を表現する為の物ですから、全体的に小説的表現と言えます。これを、一文一意の形で行っているだけなのです。





 二つ。ちょっとだけキャラクターを強めに描いた。


 キャラクターの心的描写(※心理描写ではない)に関しては、天さんが苦手な分野だと思われます。

 なので、キャラクターに関しては、わざとらしい描き方をしてみました。これによって、少しだけ小説らしい人間ドラマの雰囲気を演出できたかと思います。





 三つ。台詞頭にあった、発言者の名前を取り払った。


 天さんが台詞に名前を付加していたのは、誤読を避ける為ですね? 

 ですが、キャラクターの性格や言葉遣い、キャラクター同士の立場が明確であれば、台詞頭に名前を付加する必要はありません。読者は誰の発言であったかを察してくれます。

 その為にも、キャラクターをはっきり描く必要があるのですね。


 勿論、どんなにキャラクターや立場がはっきりしていても、どっちの台詞か分からなくなる場合はあります。


 そんな時は台詞の後に(○○は言った)と、表記しましょう。これに関しては、大御所のプロの作家も行っている事です。恥じる事はありません。


「ウゼエな小濱。ちょっと黙ってろよ」

 天さんは言った。

 ↑

 こんな感じのやつです。





 四つ。視点を統一した。


 今回は三人称に統一してみました。


 視点については天さんの文章から例を上げましょう。



 当日

 緊張するな、二人きりで遊ぶのは緊張するな。  ←これは隼人の主観。このままだと一人称の表現となります。



 遊園地に来た。  ←これも。主語がないので一人称の表現となります。



 このように、ちょくちょく一人称の表現が挟まる一方で、基本的な視点は三人称で描かれています。



 隼人は22歳になった   ←こんな感じの語り方です。これが、三人称です。



 一人称と三人称がごっちゃになっていると、読者は混乱してしまいます。

 なので、手を加えた文章は、三人称で統一されています。

 読み比べてみたら、読みやすさとか分かりやすさが実感できるかと思います。


 今回は、多めに小説的表現を付加しました。小濱は基本、小説的表現を好みません。それでも小説的表現を多用したのは、有り体な文章(引き算の文章)と、小説的表現の共存を理解してほしかったからです。

 どの程度の小説的表現であれば文章がくどくならず、深みのある物に仕上がるか。

 そのバランスを考えて欲しかったのです。



 勿論、小濱が手を加えた文章は、あくまでも「例」です。この通りに書きなおす必要はありません。


 創作論を読んだ事によって手を入れてみたくなった場合は、天さん自身の作家性を発揮して、天さんがやりたいように書いてみるべきです。


 どうであれ、小説的表現は作品を豊かにします。これを一文一意の形で適切に行えるようになったら、一流といえるかも? しれません。少しでも伝わったら、嬉しく思います。



 ★



 また、ここで天さんの最大の強みを説明します。それによって、まだ伝えていない重要な切り札を伝授します。



 天さんの作品の最大の強みは、有り体な表現を貫いている事です。


 何故、有り体である事がそんなにも重要なのか?


 それは、です。

 天さんは、基本的には観念的な表現をしません。

 観念的な表現の代表といえば、脳内独白ですね。


 例を挙げてみます⬇️





 は、恥ずかしい! どうしようどうしよう! 私、恋の仕方なんてわからないよ。どうしてそんなに見るの? パニックになっちゃう!



 ━━━━━━━

 ⬆️みたいな脳内独白があったとします。これを、絵的表現に置き換えてみます。⬇️




 ちょっと見つめられただけなのに、私は思わず目を逸らし、下を向いてしまった。顔が熱い。胸が高なっている……。

 この気持ちは、何?──。




 ━━━━━━━


 最初のやつは、頭で考えてる事を説明しただけの文章です。

 対して、二つ目の文章は、主人公の動作と体感を、具体的に語っています。脳内独白は一行にまで削ってます。


 読んでいて、どちらの方が情景をイメージしやすいでしょうか?

 当然、二つ目の文章ですよね。


 同じ場面を描いているのに、これだけの違いが出るのです。


 絵としてイメージしやすくて、理解しやすい。だからこそ、のです。

 有り体な表現は単純に胸を打つし、深みも勝る。と、いう事です。



 少し難しかったかもしれないけど、おいおい理解してくれればと思います。


 あ、天さんはたまに作品を消しちゃうことがあるけど、今回は消さないように。せっかく頑張って書いて積み上げたんですから。もし、上手くいかなかったと思っても、編集機能でいくらでも修正は出来ますから。


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