第3話 シナリオと小説の違いについて




 では、早速シナリオの説明へと参ります。


 シナリオは、三つの要素で構成されます。


 第一に、「柱」

 第二に、「ト書き」

 第三に、「台詞」


 これだけです。



 まず「柱」は、舞台を現します。

 それが何処か、いつか、昼か、夜か、晴れか、雨か。そういった情報を説明する一行が、柱です。


 次に、ト書き。ト書きとは、行動や状況の説明を現します。

 

 天は、ティッシュペーパーを三枚取る。それを丸めて小濱に投げつける。

 小濱は避けようとして、足を滑らせて用水路に落ちる。


 みたいな説明を「ト書き」といいます。台詞を補足する文章でもあります。歌舞伎では、○○言って云々。と、説明していた事から、ト書きといういい方をされるようになったようです。また、とがきでは曖昧な表現は一切しません。


『数人の主婦が現れた』

 みたいな表現はしない。と、いう事です。

 何人かの人物が現れる場合は、具体的な人数を表記します。


『三人の主婦、画面奥の曲がり角から来る』

 と、いった表現となります。これは、シナリオが設計図として機能する為です。


 前回でお伝えしたように、見た物を見たままに、ありのまま描写して、しかも、。とは、こういった具体的な表現を指します。それがト書きです。



 最後は「台詞」です。これは深く説明せずとも分かりますよね? 台詞に関しては、小説もシナリオも基本的には同じです。


 ただし、シナリオ文体の台詞には、冒頭に、発言者の名前を表記します。


 ◇


小濱「どうでしょう天さん。少しは参考になりましたか?」


天「はい。でも、小濱作品は下ネタが多すぎる気がします。少し心配になります」


小濱「おやおや。小濱作品は上質にして上品。貴族の読み物ですよ?」


天「あ、なるほど。じゃあ、何か変な薬とかやってるんですね?」


 ◇


 このように、シナリオの台詞には、発言者の名前を表記します。誤読を避ける為ですね。


 で、柱、ト書き、台詞。三つの要素を使ったシナリオは、以下のようになります。⬇️




 ◇◇◇◇◇◇◇



〇代々木公園の広場。昼。晴れ。


  山田新太郎(24)が、大柄の警察官をジャイアントスイングで振り回している。周囲には、人はいない。


 警察官「や、やめろおおお!」


 新太郎「あはは。あははは!」


 警察官「やめろと言ってるのが聞こえないのか。逮捕するぞ!」


 新太郎「あはは。本当にやめて良いの?」


 警察官「やめろと言ってるんだあああ!」


  新太郎、手を離す。


  警察官は画面左へすっ飛んでいって、ベンチに激突。ベンチは破壊される。



〇同、代々木公園の広場。警察官のアップ。


  警察官は白目を剥いて泡を吹いている。


  パーンして、画面は新太郎のバストショットへ。


 新太郎「だから言ったのに。本当にやめていいの? って」


  と言って、新太郎は高笑いをする。


  SEイン パトカーのサイレンが近づいて来る。



〇同、代々木公園の入り口。昼、晴れ。


  公園前に、二台のパトカーが現れて、停車する。パトカーから、四人の警察官が降りて来る。

  四人の警察官、公園内へと駆け込む。



〇同、代々木公園の広場。


  新太郎、四人の警察官に囲まれる。


 警察官A「これは……お前がやったのか!」


 警察官Aは、気絶している警察官を見てから、新太郎に言う。


 新太郎「そうだけど?」


 警察官B「そうだけど。じゃねえ! お前は何なんだ。なんでこんな事をするんだ?」


 新太郎「なんでって、趣味? あ、お兄さんもちょっと強そうだよね。俺と戦ってみない?」


 警察官B「ふざけるな! どうであれ、言質は取ったぞ。即刻逮捕だ!」


 新太郎「ヒャッハー! そう来なくちゃ」


  新太郎、警察官に尻を向け、お尻ぺんぺんで馬鹿にする。

  四人の警察官、一斉に拳銃を抜いて、新太郎に銃口を向ける。


 警察官A「動くな。逮捕する」


 新太郎「嫌だね。戦おうぜ。ビビり君なのか?」


 警察官B「マジで撃つぞクソガキ!」


  警察官Bが言った直後、新太郎は警察官Bに飛び蹴りを入れる。

  警察官Bは倒れて気絶する。

  一斉に、乱闘が始まる。

  新太郎、乱闘を制して警察官を全員やっつけてしまう。



 ◇◇◇◇◇


 ━━━━━━━


 上記が、シナリオ文体を使ったシナリオです。


〇代々木公園の広場。昼。晴れ。 ←これが柱です。


 で、柱と台詞以外の文章がト書き。台詞は、説明しなくても分かりますね?


 読んでみてどうでしょうか?


 小説とは全く違う? 確かに、シナリオは小説と違う点も多いですね。

 ですが、小説を書く者がシナリオから学ぶ点は多くあります。特に、曖昧な表現を一切許さないト書きの厳しさは異常ともいえます。具体的なことしか書けないのです。ト書きとは、文章的な無駄を切り捨てた究極の表現なのです。


 だからこそ、参考になります。


 もし、貴方や貴女が、


「自分の文章は無駄な事が多い気がするな。どうしても有体な書き方が出来ないなあ」


 そんな風に悩んでいたら、一度、シナリオを描いてみる事をお勧めします。物書きとして得る物は極めて大きいと思います。


 こんな物で果たして、人は感動するのか?

 そんな疑問を持つ人もいるかもですね。ですが、優れたシナリオはちゃんと読者の心を打ちます。無駄のない有体な文章の小説と、本質が同じだからです。


 起承転結と視点、キャラクター、台詞と説明力と、

 シナリオで試されるのは、これらの要素です。

 小説的表現や技術や観念という「武装」を取っ払った状態で戦う事になるのです。誤魔化しが効かないのです。これがどんなに厳しく大変な事なのかを、未経験の人はあまり理解していません。

 つまり、シナリオはが試されるカテゴリーなのです。それを理解していない人は、書き手にも結構います。読みやすい、研ぎ澄まされた有り体な文章の作品を見下して、


『子供が書いたみたいな、読みやすいだけの稚拙なシナリオみたいなのではなく、深みのある文章表現を多用した、、味わい深い作品を募集します〜』


 的な、嫌味たらったらの主張を自主企画の募集条件に掲げていたり、創作論で書いている〝書き手〟をたまーに見かけますから。まあ、ある程度文学を理解してる人は、

 「は?」(゚Д゚)?

 ってなると思いますけどね。

 その一方で、作家性やジャンルを問わず、本当に必要なことを誠実に教えてくれる、ハイレベルな創作論もたまにみかけます。それぐらい、カクヨム創作者の理解度には落差があります。なので、カクヨムで読むなら、なるべく良い創作論に出会って下さい。



 実際のシナリオについても例を挙げたいところなのですが、それは創作論の最後に譲ります。例に挙げようと考えているシナリオが長めだからです。


 で、僕は何度か天さんの文章に関しては、一文一意が出来ていて無駄がない。と、評価しています。それは、天さんの文章がシナリオ文体に近いからでもあります。


 天さんの作品から例を上げましょう⬇️




第14話 主人公は作戦を練る


カズは考えていた。


トラは用心深い。


とても騙せるとは思えない。



一つヒントが浮かんだ。


スパイを送り込めば良いんだ。



スパイを探していた。


凄腕のスパイを見つけた。



パッと見、スパイに見えない。


カズ

「あなたは本当にスパイですか」


スパイ

「はい、そうです」


「本物スパイと言うのは、顔の表情や人相を変えたりできます」


「私の人相は本当は悪いですが、いくらでも変えれます、ただ声だけは変えれないので、それが弱点です」


カズ

「潜入をお願いします」


スパイ

「はい、わかりました」


トラの事務所に着いた。


スパイ

「ここで働かせてください」


警備員

「そこの君帰りなさい」


スパイ

「嫌です、帰りません」


一週間そこに滞在した。


警備員

「わかったから、とりあえず上の人に電話してみます」


警備員

「入りなさい」


スパイ

「良いんですか」


警備員

「君にはあきれたよ、普通一週間滞在するひとなんて君が初めてだよ」


スパイ

「これで潜入できる」




 ━━━━━━━━━━━


 これは、天さんの小説からの抜粋です。


 シナリオ文体によく似ていますね。有体であり、基本的には一文一意も成立しています。


 ですが残念な事に、この作品を読んだ多くの読者は、小説だと思わないかもしれません。


「これは小説なのか? シナリオなのか? どっちつかずだし、柱もト書きもない。謎だ」


 そういった印象が、正直なところではないかと思います。


 つまり、天さんの作品の勿体ない点は、一文一意を使っていて有体な書き方をしているのに、シナリオでも小説でもない、どっちつかずな表現となっている点にあります。


 で、僕としては、小説の書き方を教えると約束していますね。


 なので、次回からは天さんが苦手としているであろう分野、小説的表現について掘り下げようと思います。


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