第21話 夕日の気持ちと夕の気持ちと

流星作戦。

それは馬鹿の発想だった。

俺はその作戦に関して、どうなっても知らんぞ、とは山根に言った。


しかし山根はマジにやるつもりの様だ。

知らないぞどうなっても本気で.....。

考えながら包丁で野菜を切る。


「でも山根さんも面白いね。そんな事するんだね」


「.....俺は止めたけどな。.....勝手に突っ走って行きやがった。もう知らん」


「.....あはは。.....お兄ちゃんも心配なんだ」


「.....いや。誰がだ?俺は心配してないぞ」


「.....いいや。お兄ちゃんは心配してる。.....それがお兄ちゃんだから」


夕日は布団の中で言いながら俺を見てくる。

そして柔和に俺に接してきた。

俺はその姿に溜息を吐きながら、まあそうかもな、と返事をする。

それから野菜を鍋に入れた。

今日は野菜スープを作るつもりだ。


「そういえば今日は本当に色々あったぞ。.....小説家に会ったりとかしてな。そして.....クラスメイトに再会したりな」


「え。そんなに面白い事があったの?.....うーん。私も一緒に行きたかったな。でも.....お兄ちゃんは苺さんが好きだからね。邪魔しちゃ悪いか」


「.....いーちゃんとは付き合っている訳じゃ無いぞ。.....まだ付き合える状況じゃ無いからな」


「.....お兄ちゃんも大変だからね」


「.....ずっとな」


そしてコンソメのブイヨンのキューブを入れて煮込む。

それからニコニコしている夕日の側に腰掛けた。

夕日は俺を見ながら笑みをまた増やす。

相変わらず可愛いな、と思う様な笑顔だ。

絵本に出てくるキャラクターの様な。


「それにしても.....お兄ちゃんってモテモテだね」


「.....今だけだろうしな。だから耐えれば良いんだ」


「耐える.....それっておかしくない?」


「.....俺は恋愛とか.....多分出来無いしな」


「.....」


顎に手を添えながら。

やっぱり無理?、と心配げに聞いてくる。

俺は、うん、と答えた。


何故無理かというと.....理由は簡単だ。

ズキズキと胸が痛いのだ.....。

この傷は深い。

本当に、だ。


「PTSDとは言わないけど.....何か嫌だからな」


「お兄ちゃん.....」


「手から汗も出る。.....それは拒絶反応だと思う」


「.....そう。.....うん。.....ゆっくりで良いから歩み出せたら良いね。お兄ちゃん」


私は恋とかした事ないから。

良く分からないけど.....この先も恋はしないと思うし。

誰も貰ってはくれないだろうからね、と複雑な笑顔を浮かべる。

俺はその言葉に複雑な思いになる。

そして夕日の頭を撫でる。


「.....お前も必ず幸せにするからな。.....だから絶対に大丈夫だ。今のこの状況を.....打開して.....そして健康にしてやるんだ。お前を」


「.....うん」


「.....死なせない。.....俺は絶対にお前を」


「.....うん」


涙を浮かべる夕日。

それから涙を流し始めた。

死にたくはないけど.....死ぬかもしれないって恐怖があるから、と呟きながら、だ。

でも絶対に死にたくは無い。

だってお兄ちゃんが不安だから、と言いながら嗚咽を漏らした。


「.....ごめん。.....でも涙が止まらない。不安で.....」


「.....泣きたい時は泣けば良いさ。俺は.....何時でも側に居るからな」


「.....どう言い表したら良いんだろう。この感情。.....恐怖と悲しみが入り混じってるから.....もう.....グチャグチャだから」


「.....そうか」


そして夕日を抱き締める。

それから俺も涙を浮かべた。

こんなに小さな子が.....何故こんな目に遭わなくてはならないのだろう。

そう考えながら.....居ると。

とにかく泣きたくなる。


「.....でもな。夕日」


「.....?」


「.....お前は生きる道を選んだ。.....だからそれには勝つ。絶対に」


「.....お兄ちゃん.....」


「生きる希望を見ている神様は.....絶対に負けない様に配慮してくれる筈だ。.....だからお前は大丈夫。親父が見ているしな」


「.....だよね。.....お父さんが.....だよね」


夕日は胸に手を添える。

そういえば夕日の胸にはネックレスがある。

それは.....親父の結婚指輪だ。


母親との、だ。

お守りの様に胸にあるのである。

母さんが夕日に託したものだった。


「.....この胸にお父さんが居るから」


「.....そうだな。.....負けはしないさ」


「.....だよね!.....あはは。.....お兄ちゃん有難う」


「それはこっちの台詞だよ。生きていてくれて.....有難うな」


「.....お父さんも.....見ていてくれるかな」


「.....生きろ。夕日」


うん。生きる。

と言ってから満面の笑顔で.....俺を見てくる夕日。

それから.....夕日は仏壇を見る。

仏壇には親父が笑みを浮かべて居た。

幼い俺達の頭を添えて、だ。


「.....お父さんの代わり。もう十分に出来てるね。お兄ちゃんは」


「.....十分かな。.....良く分からないけど」


「お父さんを超えたよ。.....お兄ちゃんは」


「.....だと良いけどな」


そんな感じで居ると。

いきなり電話が鳴った。

俺も夕日もビックリする。


この場面で何だってんだよオイ、と思いながら電話の主を見る。

その主は.....山根だった。

何だコイツは?


「山根。どうした」


『すまないけど機器設置を手伝ってくれないか。今度放課後に』


「いやもう止めとけって.....」


『やる気満々だぜ!』


「話を聞けよお前.....」


山根はすっかりやる気だ。

俺は顔を引き攣らせながら居ると。

そういや自宅か?それだったらすまないけどもし調子良かったら夕日ちゃんに変わってくれるか、と話してくる。


何だ?と思いながら、別に構わないが、と言いつつ夕日にスマホを渡した。

お前に、と言いながら。

夕日は?を浮かべながらスマホを受け取る。

それから話し出した。


「もしもし?.....山根さんですか?どうしたんですか?」


『もしもし?ヒーローの山根です』


「アハハ。.....もー。相変わらず山根さんらしいですね」


『そうだろ?ハハハ』


何の話をするのだろうか。

思いつつ俺は.....山根と通話している夕日を見る。

それから野菜スープの鍋を見た。

時間だな、と思いつつ、だ。

味見をしつつ.....様子を伺ってみる。

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