第14話 何も輝かない世界だけど

俺自身はそんなつもりは無いのだが。

昔、俺は大切な親友と大切な初恋をいっぺんに失った。

何故かと言えば簡単だ。

片方の親友を失ったのは全てを黙っていたせいで失った。


野犬に襲われた話をしたと思う。

その話には実は続きがある。


野犬を飼っていた奴は捕まったのだが、俺がいーちゃんを俺の代わりに野犬に突き出した、という噂が蔓延してしまったのだ。

傷を負っていたのはいーちゃんだけだったから。

それから俺は悪いもの扱いにされてしまった。

これが後の.....初恋のガタガタにもつながるが、だ。


『良い加減にしてよ!!!!!お父さん!!!!!そんな事はない!!!!!違うから!!!!!絶対に違う!!!!!』


いーちゃんは絶叫したが。

俺は本当の事を口に出来なかった。

そのせいで。

パチンコ代に注ぎ込む為か俺達や保険会社から散々金を巻き上げてからいーちゃんといーちゃんの親父といーちゃんの母親は夜逃げで去って行ったのだ。


これが真実。

俺は黙っていたから全てを失ってしまったのだ。

全てを思い出しながら.....俺は。


夕日の額を撫でていた。

信じられない。

もしかしたら余命があるかも知れないという事に。

この世界には救いもクソもないのか。


「.....夕日。俺はどうしたら良いと思う。この先.....」


「.....スースー」


夕日の顔を見ながら俺は.....考える。

問うてみる。

だけど優しげな寝顔はそれに反して.....心地良い感じだった。

俺は.....そんな姿に、絶対に死なせない、という覚悟を持ってから夕日の頬をゆっくりと撫でてやる。

そして涙を浮かべた。


「.....くそう。.....何でこんな目に遭うのが.....夕日なんだ.....?」


「.....お兄ちゃん?」


涙を浮かべていると夕日が起きた。

その涙を直ぐに拭ったが.....バレてしまい。

だけど夕日はハッとした。

それから少しだけ悲しげな顔をする。

そして、読んだんだね手紙、と苦笑する。


「.....ゴメンね。伝えるのがあんな形で」


「.....いや。.....仕方が無いだろ。お前は疲れやすいしな。.....告白してくれて有難うな」


「.....ううん。.....ゴメンね。本当に」


「.....俺が.....何も知らないから」


「.....そんな事無い。お兄ちゃん。.....お兄ちゃんは頑張ってる。絶対に頑張ってるから.....」


そうしていると。

呼び鈴が鳴る。

それから.....ドアがノックされる。


俺は直ぐにドアを覗くとそこに.....大家さんが立っていた。

ハッとして直ぐにドアを開けると.....若い女性が立っている。

泣き黒子のある.....胸の大きい方だ。

そして笑顔を浮かべる女性。


「大谷さん。どうしたんですか?」


「いいえ。何だかお部屋が賑やかだったから.....来たのよ」


「.....あ。すいません.....」


「まあでもそれは冗談だけどね。.....これお菓子。.....いっぱい食べてね」


とんでもないお菓子の量を持って来た大谷鶴(おおたにつる)さん。

グラマナスな感じの女性の方だ。

34歳。

長い髪の毛に.....薄化粧。


さっきも言ったが泣き黒子がある。

この大谷さんだが.....俺達の親代わりでもある。

有難いよな.....って思うけど。

だけど迷惑掛けているよなこれ。


「大谷さん。3日に1回は必ず持って来てますけど.....良いんですか?そんなに俺達にお菓子.....持ってきてもらって.....」


「良いのよ。これは貰い物でもあるわ。.....私は.....貴方達の親代わりなのよ。いっぱい頼ってほしいわ。.....英子のね」


「.....すいません」


「.....だな。夕日」


俺達は思いながら頭を下げる。

すると大谷さんは.....眉を顰める。

そして、これ1回だけで少ないけど.....治療費にして、と言ってくる。

俺はビックリしながら見ると。

そこには10万円入っている.....嘘だろ!?


「いやいや!?こんなの貰えません!」


「.....良いの。今は受け取って。.....夕日ちゃんの.....状態.....良くないんでしょ?」


「.....良くは無いですが.....でも!」


「.....少ないならまだ言って。私は.....夕日ちゃんを死なせる訳にはいかないから.....。夕日ちゃんが心配だから」


「.....大谷さん.....」


どれだけあってもね。

英子には本当にお世話になったのよ。

十分過ぎるぐらいにね。

だから貴方達を守る為に私は居るの。

頼って良いの。


守らせてね。

お願い。

と言いながら俺達を柔かに涙目で見てくる。


何か.....本当に優しいよなこの人。

家賃とかも.....3ヶ月に1回で良いとか。

有り得ないんだよな。


俺は思いながら.....唇を噛み震えながら10万円を受け取る。

絶対にお返ししなくてはならない。

これは.....大切に使おう。

思いながら、だ。

貯まったら返すんだ。


「.....俺.....高校卒業したら.....絶対に.....」


考えながら夕日を見る。

するといきなり抱きしめられた。

大谷さんに、だ。

その暖かな手に俺は涙を流す。

そして、夕日ちゃんもいらっしゃい、と言ってくる。


昔は幸せじゃなかった。

今はとても幸せな感じがする。

でも。

いーちゃんにも再会出来たし。


他にはこんな幸せは無いだろう。

思いながら俺は.....母性を感じつつ。

新たに決意を.....した。


「.....でもそれはそうと。.....女の子ばかりだったわ。.....もしかして付き合っている子が居るのかしら?」


「あ。そうなんですよ!実はですねぇ」


「夕日!コラ!」


俺は慌てながら夕日を止める。

夕日と大谷さんは笑いながら俺を見る。

その2人を見ながら苦笑する。

取り敢えずは.....今はこの全てを守りたいもんだな。

思いながら俺は.....笑みを浮かべた。

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