腕時計と掛け時計

 ある家で腕時計が掛け時計に言った。

「主人が外で仕事している間ずっと、彼の左手首に私は巻いてもらえている。なのに君は主人の家に居座るだけでほとんど顧みられないじゃないか」

 掛け時計はその通りだと思ったので黙って聞いていた。

 しばらく経ってその家の主人が出世し給料が上がった。

 すると主人は新しくてもっと高い腕時計を買い、そればかり仕事に付けて行くようになった。

 古びた腕時計が嘆息して言うには

「最近主人が仕事に付けて行くのは新しいあいつばかり、私はいずれ質屋に売り払われるんだろうか? こんな運命が待っていると解っていたら、腕時計ではなく掛け時計に生まれて主人のそばにずっと居たかった」


 近くに居るからといって、ずっと側に居られる訳ではない、という事をこの話は解き明かしている。

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