5話 簡単に勝てる相手では無いそうです。

ギネンがギルドを出てから一週間が経とうとしていた。


「あ、タカセ。ここの汚れが落ちないんだけど」

「ん?どこ?」

「ここ」


床の汚れに指をさす、ギネンの元パーティーメンバーの1人アール。

確かに少し黒ずんでいるし、引っ付き感……ペタつきがある。


「あーこれか」

「落ちるか?てか、何の汚れ?」

「んー?あー……皮脂と埃とかかなぁ」

「え?」


少し引いた表情を浮かべるアール。


「俺がやろうか?」


アールの表情を見てから伺うと、


「いや、俺がやる。落とし方だけ教えてくれ」

「意外」

「何がだ?」

「俺に任せるかと思ったよ」

「バカにするな、これもクエストだ。それに頼んだはこっちだからな」


俺が思っている事より、別の回答が帰って来る。

少し驚いたが、俺は少し笑いアールに落とし方を教えた。

そもそも何で、ギネンの所を抜けたのか聞くと驚く事しかない。

モンスターの惨殺、それもかなりえげつないとのこと。

内容を少し聞いただけだが、かなりのものだった。


「それは惨い、な……」

「流石にな」


まぁ、腹を立ててモンスター狩りをする。

悪いことじゃないし、何より今回の件ははっきり言えばどちらも悪くはない。

冒険者は依頼を受けなければお金が貰えないし、ギルド側は平和になってモンスターの繁殖も無いからクエストが頻繁に出せない。

ソイレーンさんの意見は最もだ。

無いなら別のところに行けば良い。だが、それはギネン達にも理由があってここに残っている。

でも、まぁ……ギネンがいちゃもん付けなければ問題は無かったのかも知れないな。

そう思ってから俺は作業を進めた。


「はい、お疲れ様」

「いえ、とんでもない」


午前中に仕事が終わり、俺達はギルドへ戻り、報酬を受付嬢から受けとる。

そのタイミングで1つため息を付く受付嬢。


「どうしました?」

「え、ああ……ギネンの事あったじゃないですか」

「あー確かにありましたね」

「はい、それで少し言い過ぎた、かなと思いまして……」

「でも、まぁ仕方ない事ですよ。あの時はギネンも言い過ぎた」

「……ですが、一言謝罪したいものですね」

「何処かで会ったらお伝えしておきます」

「お願いします」


それから俺はレイラの所に向かおうと市場に寄る。

食べ物を買い込んでから、レイラのいる山へ向かった。

山へ向かう山道入り口で妙な気配を感じた。


「何だ?この感じ……」


ぬるい風と言うか、嫌な気配を感じとる。

俺は辺りを警戒しながら、山道を歩いていく。

やはりおかしい……鳥達の鳴き声が一切聞こえない。


「凶悪なモンスターでも出たか?」


干渉でもするか。

俺は自身へ身体能力強化をして、障壁を展開させた。

そしてレイラのいる山、嫌な気配を感じる山へ向かった。

いつもの所に着いてから、レイラ達のいる間へ向かう。

坂道を登りきり、目に映る光景は、


「誰も……いない」


レイラ達の姿は無かった。

もしかしたら、ハートと共に逃げたのか?

いや、レイラは竜帝だ。簡単に逃げるような女性ではない。

それに竜帝のレイラと単騎で戦って勝てる相手なぞ、この世界で考えられるのは、噂程度だが十傑全員。

それに厄災王、他の竜帝に俺と多分河野君くらいだ。


「なら、何故だ?」


何故レイラとハートがいない?

そう思い、俺は壁に背中を預け考える。

すると、どこかスイッチを押した音が聞こえた。


「ん?なんーーだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


壁の一部が隠し通路になっていたのか、そのまま背中から落ち、隠し通路にある滑り台のような物で滑り落ちる。

思わず驚いて叫んでしまった……。

それから数十秒後、明かりが見える。


「あれ、このまま頭からって不味くね?」


言った瞬間、頭から落ちる感覚を感じた時に地面に手を伸ばして、地面に着地させる。

だが、滑り台で得た勢いは失う事はなく、着地と言うよりバク転の様な感覚でいる。

そのため、後方へ飛んで行く。

そして、壁に背中と頭を打ち付けた。


「ーーッ!!いっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


後頭部を手でさする。すると、岩が砕けるような音が近くから聞こえた。


「いてて……何だ?」


音のする方へ向かう。通路は無かったが、壁に穴が空いており、そこから光が差し漏れていた。

その穴から中の様子を覗く。


「あ、その前に『干渉 ― 存在認知 ―』っと」


これで完全に遠くから見ててもバレない。

まぁ、こっちを直接見られたらアウトだけどって……。


「あれは……ソイレーンさん。それに何だ?アイツ?」


ドス黒いオーラを纏い、目が赤く血走っている。


「って、待て待て良く見ると……アイツ、ギネンじゃないか?」


でも、少し遠いし顔も良く見えーー


「ギネン、何の真似だ?」


ーーないけど、ギネンでしたね。


「テメェを殺す」

「何?私を殺す?」

「ああ、テメェがいなければ今頃俺は丁度良いクエストで稼いでいたんだ」

「だから、私を殺す、と?」

「ああ、そうだ」


何か会話が始まってる。んー……まぁソイレーンさんなら大丈夫か。


「フフフ……フハハハ!」


突然大笑いするソイレーンさん。

なんだ? どうした?


「何がおかしい!」

「お前が、私を殺す?フハハハ!!」

「そうだ、殺してやる!」

「お前は実力の差って言うのを知らないのか?」


言った瞬間、ソイレーンさんからとてつもない程の圧を感じる。

肌がビリビリと感じ、地面が揺れ、空気が途端に重くなり、冷や汗が出る。

す、凄い……本当の強者って奴か、これが……。

ギネンも圧を当てられたのか、体が震えている。

完全に萎縮して動けなくなっているな。


「これでも私を殺そうとでも?」


睨み付けると、一歩引くギネン。

しかし、何を考えたのか一気にソイレーンさんへ突っ込む。

大きく腕を振り上げるギネン。


「ガッ……あ……」


だが、突っ込んだ瞬間にいつの間にか腹部へ一撃放っていたソイレーンさん。

え、はや……マジで見えなかった。

鋭い一撃を受けたギネンは堪えられず、地面に膝を着く。

ソイレーンさんはギネンに背を向け、何処かへ立ち去ろうとしている。


「何処に……行こう……としている」

「この辺に嫌なオーラを感じたからな、それの確認だ」

「まだ……勝負……は終わってねぇぞ!」

「……これ以上何をするつもりだ?私は一撃。そうだな、拳を置いておいただけだ。その威力はお前が私に突っ込もうとした力だ」

「だから……どうした!」

「分からんのか?私は一切自身の力で殴ってないのだ。貴様の様な奴に本気を出すつもりは今のところない。強くなってから出直せ」


腹を抱えているギネンだが、突如ドス黒いオーラが体から滲み出る。

何だあれ……気持ち悪いな、生ぬるい空気が肌を舐める様な感じだ。

良く見るとソイレーンさんが驚愕していた。


「……この感じ、まさか……お前が?」


ソイレーンさんの一言に歪んだ笑みを浮かべるギネン。


「正解だ」


その一言にソイレーンさんは腰に下げている剣を抜いた。

そして、先程とは目付きが変わり、真剣そのものである。


「事情が変わった。お前をここで始末しなければならない」


言ってからだろうか、鳥肌と冷や汗が止まらない。

目が乾く、瞳を潤わす為に瞬きをした。


「……は?」


目に映る光景に出た言葉であった。

本当に1回瞬きをしただけだ。

僅か1秒にも満たない筈。それなのに、ソイレーンさんはギネンの背後に立っており、ギネンが倒れている。

それも血を流して。


「嫌な気配は間違いではなかった。なら、他の者に伝えなければならない」


剣を収め、その場を去ろうとした。

だが、又も目を疑う光景が映る。


「どこに行くって?」

「ーーッ!?貴様、何故!?」


倒された筈のギネンが、何事も無かったかの様に立ち上がる。


「死んだ筈じゃあ?か?」

「……」


流石にコイツは厄介か?


とりあえず、ソイレーンさんを見守る事にしよう。不安はあるけどな。



ーーーー



「死んだ筈じゃあ?か?」

「……」


私は確かにコイツを切り伏せた筈。

それも確実に、だ。

何故コイツは何事も無かったかの様に立っている。

私は奴の倒れていた地面を確認した。

血は……ある、ならコイツは何かしらの能力によって回復している。


「どうした?倒さないのか?」

「……」


完全に隙だらけだ。


「来ないなら……こっちから行くぞ!」


もしかしたら、カウンター型のものかもしれない。

足を踏み込んだ、来るッ!

身構え、剣を抜き渾身の一撃と思われる攻撃に備える。


「しゃらぁッ!!」

「……」


距離を詰める為に飛び込んで来たのは分かるが……。


「死ねッ!!!!」

「遅い」


少しだけ踏み込んで突っ込んできたバカを切り捨てた。

今度は胴体と下半身が離れるのを目視をしている。

これでどうなるか。

瞬きをせずに見ていると、目を疑う光景を目の当たりにする。

切られた筈の胴体と下半身から肉の様な黒い物が飛び出て体をくっつけた。


そして、何事も無かったかのように攻撃を仕掛けてくる。

これは骨が折れそうだ。


5話 終

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