4話 欲しいクエストが無いそうです。


宿屋で朝起きて、普段着に着替え、顔を洗ってから朝食を取り、ギルドへ向かう。

これが俺のルーティーン。

というか、これしか殆どやることがない。

ギルドへ着いて、俺はクエストボートとにらめっこする。

俺に丁度良いクエスト、クエストー……お?

1枚のクエスト用紙を凝視する。


「何々?ポーションの運搬、馬車による運転……か」


中々面白いクエストだ。募集要項は?


「荷馬車経験2年以上を求む」


はい、アウトー。はぁ……最近こんなのばっかだな。

思っていると、受付近くが何やら騒がしい。


「最近クエスト可笑しくねぇか!?」

「い、いえ……私達はお願いされた物をここに貼っているだけですよ?」

「いや、ふざけんな!ゴブリン退治、スライム退治、薬草採取、清掃、運搬これしかねぇじゃねえか!」

「それは……」

「全部やっすくて割に合わねぇ!」

「しかし、それは皆さんがクエストを一つ一つ片付けて下さったおかげですから……」

「俺らのせいってことかよ!」


冒険者ギネン。この都市ではそこそこに実力があり、多少難しい討伐クエストもこなす冒険者だ。

てか、なんか険悪な雰囲気になってきたな。

そろそろ止めに入らないとマズイ。

俺は1歩踏み出そうとした瞬間、


「良いことじゃないか」

「ああ!?誰だ!」


聞いたことのある声が受付嬢と冒険者の仲裁に入る。

声のする方へ視線を向けると、


「10じゅっけつ……!」


ソイレーンさんがいたって、ん?何?10傑って何?



「すみません」

「な、なんだよ?」


分からないので目の前にいた冒険者に聞こうと思う。

気だるそうにこちらを振り返る男性。


「10傑って何ですか?」

「おま、10傑をしらねーのかよ!とんだ田舎もんだな!」

「すまねぇだ、わがんねぇんだべ」

「んだよ、そのしゃべり方……はぁ、10傑って言うのはな、その道を極めた者の集団でな。それが10人いるんだよ」

「ほうほう」

「その10人はな、この世界で最強何だよ。それに全世界の秩序を管理する。聖停せいていの鎖って言う団とも連携してて、逮捕権限や限定区域進入許可も得ている凄い集団なんだよ!」

「あーなるほど、警察見たいなもんか、フンフン」

「なんだ、そのケーサツってのは?まぁいい、そんな凄い奴のウチの1人がここにいるって言うのが驚き何だよ!」

「へー」


そんな大物とは知らなかった。俺は仲裁に入っているソイレーンさんを見ていると、たまたまこちらの方を向く。

すると俺と目が合い、こちらへ歩いてくる。


「やぁ、タカセ。清掃の依頼か?」

「ええ、まぁそんな所です」

「フハハハ!ああ!君ならそう言ってくれると思ったよ!」


そう言ってからソイレーンさんは文句を言っていたギネンの方へ振り返る。


「良いか?凶悪なモンスターがいない、と言う事はここら辺は平和だと言うことだ。もし、そんなに強いモンスターと戦いたいなら、ここから離れた場所、中央都市アストンへ行くが良い」

「ギルドが取ってくれば良いだろ‥‥!」

「知らんのか?他の都市からのクエストを貰うさい、仲介手数料が加わりギルド、冒険者双方にうま味が無いのだぞ?だから、基本的にその都市独特のクエストがあったりするんだ」

「だから、俺らに清掃とか雑務をしろと?」

「この街を離れたくないのならな」


どこか引き下がろうとしないギネン。

そして、ぐぬぬ……と言った表情を浮かべている。


「このタカセを見習え。タカセは人が基本的にやらないクエストの配達、採取、清掃、手伝いを嫌とは言わずにやっているのだ」

「それはそいつがランクが低いからだろ?」

「タカセはEランクだ。それも、殆ど配達、採取、清掃に手伝いだけでだ」


ソイレーンさんが言うと、その場にいた全員が驚いた。


「分かるか?モンスターを討伐だけでランクが上がる訳じゃない。むしろ、ギルド的にはタカセみたいな人間が多くいた方が嬉しいのだ。まぁ、欲を言えば……モンスター討伐もやって欲しいが、それは適材適所と言うやつだ」


フッと鼻で笑うソイレーンさんに、勝てないと分かったのかギネンがこちらを見て、ニヤリと笑う。


「良かったなぁ!10傑味方して貰って、尚且つ口利きもして貰ったんだろ??じゃなきゃ、掃除や配達ごときでランクが上がるわけがねーんだよ!」


と言いながらバカにしてくるギネン。

別に俺はそんなに気にする事もないが、


「黙れ」


ソイレーンさんからとてつもない圧を肌で感じた。

それに臆したギネン。


「貴様、タカセをバカにするな。そうだな……この際だ正直言おう」


そう言ってからソイレーンさんは受付嬢の方へ振り返り、頷くと再度ギネン側へ振り返る。


「ギルド的にはタカセは重宝している。特にモンスターばかり選び、雑務をしない冒険者よりはな。個人をひいきする様な形だが、これは事実である。分かるか?特にお前の様な文句ばかり言い、マトモなクエストすら受けないお前らは実に、害悪だ」

「な、俺らはこの街をーー」


言おうとした瞬間だろうか、いつの間にか抜かれていた剣先がギネンの首もとに置かれていた。

いや、マジではっえーな……何も見えんかったわ。


「先程も言った通り、討伐クエストに不満やしたいのなら、中央都市へ行け。まぁ、貴様ら程度など、あの都市では数えきれん程いる。そう言う奴らはいつの間にか消え、別の都市で威張っている……ん?もしや、貴様ら中央都市からの逃亡者か?」

「……ぐ」


図星だったのだろうか、表情を歪ませ冷や汗を流している。


「そうかそうか、逃亡者だったか。いや、それはすまない。アッハッハッハ!」


わざとらしく高らかに笑うソイレーンさん。

それにつられて笑う冒険者多数に、耳打ちをするグループも現れる。


「どうりで」

「何だよ、逃亡者かよ」

「腰抜けの部類だったかー」


顔を赤く染め、


「い、行くぞ!こんな都市、もうどうでもいい!」


半泣きでギルドを早足で出ていった。

そして、勢い良く扉を空けてから閉めると静寂が生まれてから数秒後、ギルド内が大爆笑で包まれた。


「あはははは!!!最後面白!」

「あいつら冒険者じゃなくて大道芸人でも目指せば!?」

「最高だったぜ!」


大爆笑の中、ソイレーンさんはフフフと笑いながら話し掛けてきた。


「すまんな、タカセ」

「いえ、自分は別に」

「アッハッハッハ!そういう謙虚な所は中々に好きだ!だが、謙虚すぎるなよ?タカセ、自分が損してしまう時があるからな」


アッハッハッハ!と笑ってから、ソイレーンさんは受付嬢へ近付き、何かクエストを受けていた。

俺はそれが何のクエストか分からないが、あまり興味は無く。

いつも通り、自身が受けられるクエストでその日を終えた。



ーーーーーー



「クソがッ!!」


山道を抜け、ゴブリンの群れと巣を見つけ討伐をしていた赤っ恥をかいたギネン。

討伐と言うより、もはや惨殺に近い。

逃げ惑う非武装のゴブリンを切り捨て、親子のゴブリンを見つけ、親の前でじわりじわりと子をなぶり殺す。

親は手足を切断せれ、目を閉じる事しか出来ない。

子の断末魔を聞きながら、憎き冒険者ギネンを睨み付ける。


「あはははーは!!!!楽しいなぁ!!雑魚狩りはぁ!!!!」


睨み付けた瞬間に頭をハンマーで叩き割る。

更に虐殺を行う。

子供ゴブリンの手足を折り、ナイフを太ももに当て、親ゴブリンを拘束してどこを切って欲しいかゴブリンに聞く。

ある程度聞いて、何処にも反応が無かったら子の太ももをナイフで刺す。

子は涙を流し、親を見ると親も察したのか頷いた。

ギネンはナイフをゴブリンの目の付近へ寄せて停止。

子は目をつむり、ゆっくりと頷く。そして、親の目にナイフが突き刺さり、目玉をえぐった。

この行為を見ていた連れの2人すら、ギネンの行動に引いていた。


「あぁクソゴブリン共が……何でテメェらはそんなに安いんだよッ!!」


声を上げ、捕まえていた子供ゴブリンを洞窟の広い空間に連れていく。


「おい、この真ん中に少し大きめの穴を開けろ」

「な、何をするつもりだ?」

「あ?良いから開けろっつてんだろ!!」


ギネンの威圧と鋭い目付きに圧され、アールは思わず魔法を使い言われた通りに穴を開けた。

そのあと、ギネンは生き残っている子供ゴブリンを穴に入れていく。

全員入れた後、何かを滴し始めるギネン。


「何を、流している?」

「あ?」


ゆっくりとこちらを見てから、興味の無さそうな表情を浮かべた後、ゴブリンの方へ視線を戻す。


「油」


一言言った後、


「オイルシェード」


魔法のオイルシェードを使う。オイルシェードは粘性が強く、速乾性に長けている。

口と鼻に付いたら窒息もさせる、動きを封じる事も出来る魔法で、一番の効果は、


ギネンはマッチを取り出して、火を付けてから油とオイルシェードが付いているゴブリンのいる穴へ投げ込んだ。

火が一気に燃え上がり、ゴブリンのいた穴から火が上がる。


オイルシェードの魔法の一番効果の高いのは火を使う事で引火が早く、一瞬で対処を燃やすと言う魔法。

ゴブリン達の断末魔が洞窟内を響かせた。

数十秒後、断末魔が消え静寂と焼けた匂いが辺りを包む。


「ギネン……流石にやり過ぎた……!」

「そうだ、何もそこまでしなくても……」


アールとサウスは異常過ぎる行動を言うと、先程と同じぐらいの威圧と鋭い目付きを2人に行う。


「あぁ!?なら、出てけ!!テメェらも同じか!テメェらも俺を見下すのか!あぁ!?」

「分かったよ!じゃあな!」

「……」


ギネンに怒り、その場でギネンから別れた2人。

離れていく2人を見て、自身の中で怒りが込み上げてくる。


「クソが!どいつもコイツも……!!」


ギネンの脳裏に浮かぶ光景、受付嬢、ソイレーン、そしてタカセ。


「クエストを持ってくるのがアイツらの仕事だろうが!それにタカセ……雑務のタカセが……!!雑務の癖に生意気なんだよ!何で雑務だけでランクが上がるんだ、ああ!?」


何よりギネンの中でも許せないのが、


「クソアマのソイレーン……!ちょっと自分が強いからって調子に乗りやがってッ!ああ、アイツの顔を歪ませてぇ……犯してから、ぶっ殺してぇ……!!」


ソイレーンである。ソイレーンがいなければクエストを受けられたかもしれない。

それだけではない、あの場で恥をかかずに済んだのだ。

全ては奴が悪い。


「クソクソクソクソクソクソッ!!!!」

『良い憎悪だ』


突如何処からともなく、声が聞こえた。

それも自身に似た声が。


「誰だぁ?今俺は……!不機嫌何だよ!!」


何処にいるか分からないが近くの壁に剣を振るい、壁の一部を切り離す。


『怒りも良い』

「だから、誰なんだよ!!!!」

『力を与えよう。対価はお前の体だ。ああ、と言っても殺す訳じゃない……共存だ』

「……何言ってやがる?」

『憎いのだろう?なら、お前に力を与えると言っている。俺はお前力を渡す。お前は俺に体を貸し、憎悪や怒り、嫉妬の感情を喰わせろ』

「面白い……!なら、その力……俺に寄越せッ!!」


ギネンが言った瞬間、紫色の光がギネンの体の中に入り込んだ。

一瞬だけ痛みが走ったが、その後に体の中から紫色の光が発光する。


「ぐぅうおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


痛みと共に力が沸き上がるのを感じる。

本能で分かる。これを耐えれば強大な力を得られると。


『汝の望みは?』


ソイツが語りかける。


「ソイレーンを殺し、犯す事だぁああああああああああああああッ!!!!」


光が一段と強く光だす。


「ぬぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


光が一瞬で消え、ギネンはかなりの体力を使い、息が上がる。

しかし、それと同時に沸き上がる力と、紫色のソイツから得たスキルを感じ取った。


「クハハハハッ!そうかそうか……なるほどなるほど……これで奴に勝てる。必ず、必ずだッ!!!!」


目の色が片目が変わり、紫色に変化している。


「待っていろ……ソイレェェェェェェェェェェンッ!!!!」


洞窟内で叫ぶギネンであった。



4話 終

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