3話 異世界生活では不自由が無いそうです。
皆を見送ってから1ヶ月程経った。
この世界に馴染み、今では普通にクエストを受けて生計を立てている程に。
まぁ、この1ヶ月何があっただけでも話そうかと思う。
まず、帰還せず残った俺等、河野君と俺は王から軍資金を貰い、その後、ギルドへ登録して貰った。
後は、「呼んでしまって大変申し訳ない。だからこそ、思うまま生きて欲しい。もしお金に困ったり、寝床がないなら、最初に使っていた部屋を使っても構わない」と王に言われたが、今のところ、その部屋もお金も貰いに行った事がない。
最初こそ大変であったが、俺でも出来るクエストを受けて、達成しお金を貰う生活を続けていた。
そんなこんなで大きな出来事は無く、1ヶ月そんな風に過ごしてきた。
因みに俺は採取クエストと配達クエスト、清掃クエストが好きで個人的に良く受けている。
そして今では、清掃クエストと言ったら俺、みたいな風潮ができ、尚且つリピーターも増えて週1で清掃をしていた。
因みに今、ちょうどそのリピーターのお客の所を清掃している。
「いや、すまない。いかんせん、ここに帰ってくる事が少なくてな」
「ああ、いえお気になさらずに。こういうのもあれですが、こうやって仕事に繋がってますので」
「フハハハ!そうか!面白い男よ、貴殿は」
貴族の様な笑いかたをする女性。
女性は物珍しそうにこちらをジッと見つめていた。
「週1で頼んでいて、こう会うのも滅多にない。それに聞きそびれていた、貴殿は何と申す?」
「私は高瀬湊人と言います」
「タカセミナト……ふむ、珍しい名だな」
「えぇ、まぁ」
「ふむ、タカセよ。私の名はソイレーン・クルト・シオンと言う」
「なら、ソイレーンさんと呼んだ方が宜しいでしょうか?」
「フハハハ!好きにするがいい」
「では、そうさせて頂きます」
「うむ。それにしても、初めて来てくれた時など本当に驚いたのだ。余りにも綺麗に仕上がっていたからな。思わずウチの者が来たのかと思った程な」
「そうですか?」
言った瞬間、ソイレーンは顔をグイッと近づけながら言う。
「何を言うか!今までの奴らなど……埃は残ってるわ、荷物をある程度の位置に戻さないわ、まだ汚いわで……!はぁ……思い出すだけ疲れる」
「は、はぁ……それは災難ですね」
「それに比べてタカセはどうだ!埃は無いし、荷物もまさかのほぼ元にあった場所に、綺麗に仕上げてあるじゃないか!」
「仕事ですからね」
「そこが凄いところだ、タカセ」
優しく微笑む彼女。そんな笑顔をみた俺は清掃して良かったと心から思った。
それから少し経ち、休憩時間にする。
「タカセよ、これから私は少し外に出る。戸締まりを頼んでも良いか?」
「構いませんが、どちらに?」
「ん?何、近くの山にな。何やら変な気配を最近感じてな、少し調査してくる」
「なるほど……夜にはお戻りに?」
「そうだな、夜までには帰ると思うぞ?どうしたのだ?」
「お節介かもしれませんが、お夕飯でも用意しておこうかと思いまして。ああ、これは週1でご指名して頂いているお礼見たいな物なので、お気になさらず」
「……」
きょとんとこちらを見てからフフと笑うソイレーンさん。
「会うのはこれで2回目だが、タカセは本当に面白い男だ!では、お願いする。だが、料理をするのも仕事だ、きっちりと報酬は受けて貰うからな」
では、言ってくる。と言い家を出ていくソイレーンさん。
そんな事を言ってくれる何てな……なら、早めに色々しなくては!
俺は超特急で掃除を終わらせて、夕飯の支度へ掛かった。
それから日が落ちて、夕飯が出来てから19時ほど。奥の厨房に居た俺でも分かる。
扉の開閉音が聞こえた俺はシチューとパンにサラダをリビングへ持っていく。
「おお、良い匂いだなタカセ」
「お帰りなさい、ソイレーンさん」
「ああ、ただいまだ。タカセ」
「はい、では私はこれで」
「何を言うか!こんな美味しそうな料理を1人で食せと!皆で食べた方が旨かろう!」
「しかし、それでは食糧を分けて貰うことになります」
「構わない、減ったなら買ってくれば良い。それともあれか……私と食べるのが、そんなに嫌……か?」
何処か儚げで、今にも泣きそうな彼女の顔をみた俺は既に負けていた。
「……ご馳走になります」
頭を軽く下げ、感謝を伝える。
「構わない。さ、夕飯にしよう」
「はい、では……頂きます」
椅子に座り、いつも通りに食材への感謝の言葉を述べ、夕飯を頂いた。
夕飯を頂いた後、俺はクエスト完了のサインを貰いギルドへ戻る。
「クエストお疲れさまでした。報酬なのですが、増額されています」
受付のお姉さんがお金の入った布袋を渡してくる。が、明らかに量が多い。
定期で入っているソイレーンさんの所は10000ギルで更に増額で30000ギルになっていた。
清掃にご飯作っただけでここまで行くとは……。
でも、まあありがたく頂戴しておこう。
それから俺は寝泊まりしている宿屋に足を運び、ベッドに潜り込んでから直ぐに明日のために寝ることにした。
そして次の日、午前中に簡単な薬草の採取クエストを受けてから完了させて、直ぐに街の通りへ出る。
通りへ出てから俺は食糧を買い、近くの山のふもとへ足を運ばせた。
そうそう、そういえば俺の能力『干渉』だが、色々この1ヶ月で分かった事がある。
この能力、かなり強い。てか、ヤバいんじゃね?ッてくらい強い。
例えば育ちの悪い土地へこの干渉能力を使うと、『土地への育ちを干渉して、育ち自体を変え、促進させる』など、『周囲の音がうるさければ、その周囲へ干渉してうるさい部分だけを取り除く』など、本当に何でも干渉出来る。
けど、1度干渉した対象へはもう1度別の干渉は行えない。
だから、うるさかった所の1部だけ妙に静かな変な空間があったり、その場所以外の育ちが悪いなどがある。
しかし、自分自身へは何度でも使える。
でも、まあ自分自身へ使うことなど殆ど無い。
基本的に出てくるモンスターはスライムや知能の低いゴブリンだけだから。
それに山道を歩けばモンスターに襲われる確率はグンッと下がるからだ。
説明をしていると山のふもとへ到着した。
俺は山を敢えて迂回して、辺りに誰か居ないか確認する。
まぁ、使うとしたらここだな。
『干渉ー周囲の存在ー』
周囲の存在確認を自身へ使う。索敵だな、索敵には……誰も居ないか、よし。
索敵を解除し、俺は何もない壁に手を付けてから強く押す。
すると、壁が後ろに下がると横に通路が出てくる。
出てきた通路を歩き、徐々に坂道なっていくが登っていく。
光が差し込み、ゴールが近い。少しペースを上げ登りきる。
登りきるとそこにはドラゴンの巣があるのだ。
巣には親と子が一匹ずついて、今はおやすみ中。
起こさない様にとゆっくり歩くが、たまたま小石を踏んだときに割れて音が鳴り響く。
ドラゴンが目を覚まし、こちらを見る。
『なんだ、ミナトか』
「ごめん、起こすつもりは無くて」
『構わないさって……何だ、食糧を持ってきてくれたのか?』
「ああ、ハートは今食べ盛りだし、ここら辺じゃ獲れる物も今の時期少ないし、小物が多いからな。どうせ、レイラは食べてないんだろ?」
『アッハッハッハ!その通りだ、ミナト!うーむ、それにしてもミナト、主は良い男よ。どれ』
レイラと言うドラゴンの体が光だし、ゆっくりと小さくなっていく。
見慣れた形に光が形成され、
「うむ、これならその量も丁度良い筈じゃ!」
人の姿に変身したレイラ。もちろん服は着ているよ。
騒いでいると寝ていた子供ドラゴンが目を覚ます。
『んー?何ぃー?って、あー!ミナトだー!』
子供ドラゴンが勢いよく俺に走って近づいてくる。
しかし、子供ドラゴンとは言え俺よりも大きく、重量も違うので正直、怖い。
『ミーナートー!』
「うおああああああああああッ!!ハァァァァァァァァァァァトォォォォォォォォォォォォォォ!」
子供ドラゴンのハートは嬉しいのか俺の襟を噛み、一気に持ち上げ上下左右に振る。
因みに破れないのは俺が干渉能力で破れない様にしているだけです。
『こら、ハート!ミナトを下ろしなさい!』
「はぁーい……」
レイラに言われたハートはしょんぼりとしながら俺を下ろす。
そんなハートに俺は、
「後で遊ぼうな」
『うん!』
尻尾を左右に振るハート。
『……なあ、ミナト』
「ん?どうした?」
『ここに住まんか?そうすればハートも喜ぶ』
「ごめん、俺は……」
『分かっておる。お主はお主の好きに生きよ。だが、ここはいつでも変わらぬ。ミナト、いつでも帰ってくると良い』
「ありがとう……レイラ」
『フフ、さてハートご飯にしよう!』
『うん!』
ハートも人の姿になり、俺が持ってきたご飯にありつける。
見た目は俺より下ぐらいの女の子。
ぶっちゃけ、もとの世界に来たら間違いなくアイドルになれるだろう。
器用にナイフとフォークを使い、ご飯を食べていく二人を見て口元が緩んだ。
それからご飯を食べ終え、ハートと少し遊ぶ。
遊ぶと言ってもドラゴンの姿では殆ど遊べないので人の姿で遊んだ。
「し、しんどい……」
『あー!楽しかった!』
『フフ、そうかい。ほれ、ミナトにハート冷たい水だ』
「ありがとう」
『ありがとう!お母さん!』
フフと笑うレイラ。水を飲み終え、少し休憩するとハートが眠る。
そのタイミングでレイラに聞きたいことがあった。
「レイラ」
『どうした、ミナト』
「この世界に10匹しか居ない竜……いや、
『何じゃ?』
「この世界は本当に平和なのか?」
『……何故そう思う?』
「奇妙なんだ」
『……』
「厄災王が倒され全世界が喜んでいる筈だ。なのに、何故……俺のいるこの国は、警戒?をしているんだ?」
『……なるほど』
他の国は喜んでいる筈だ。さっき言った通り。
しかし、何故か厄災王が倒された筈なのにこの国喜んだ事はなく、備えている様な警戒しているような気がした。
現に倒されてから、皆が帰る間喜んでいる兵士はいなかったからだ。
『平和かもな、ミナト。しかし、厄災王は完全に死んではおらん』
「待て、なら何故平和なんだ?厄災王は完全に死んでないなら何故?」
『厄災王の欠片だ』
「厄災王の欠片?」
なんだ、それ?
『本体の一部が分裂した物よ。それが世界各地に飛んでいく、事もある』
「お、おい!それマズイんじゃ!?」
『いや、安心せい。欠片自身がとても弱いのだ。それも野生のモンスターに負けるもしくは、環境に馴染めず死ぬ程な』
「なら、何でこの国は警戒しているように感じるんだ?」
『分からぬ、確かにミナトの言うとおりどこかピリピリしておる。何に怯えとる?』
「もしかしてーーいや、やめとく」
『何じゃー!はぐらかすな~!気になるじゃろー!』
「いやいや、本当に良からぬ考えというか、発言と言うかなんと言うか、うん」
いや、本当に変なことを思った。これがフラグになりそうでヤダ。
もしかして、今回はどうなるか粗方予想が着いて、最悪な形で欠片になった?とか、思った。
いや、マジでそれだったらマジで最悪。
「本当に気にしないで」
『そうかーん、なら辞めとこう』
「ごめん」
『気にせんでええ。さて、寝るかの』
「ああ、なら俺は帰るよ」
『送っていこうか?』
「別に大丈夫。帰りに薬草とか獲りながら帰るから」
『そうか、なら気をつけてな』
「またな」
レイラと別れの言葉を告げ、その場を去り、1日を終えた。
後日、俺は思いもよらぬ事が起きるとは知らず。
3話 終
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