1話 異世界転移であって転生では無いそうです。


俺は、いや‥‥俺達は異世界から呼ばれたのだ。

思い返せば、もう2年も経っているのか。

その日、俺は会社へ行こうと足を運ばせていた。

いつも通りのルートを通り、向かっていると、


「ん? あ、あれ? 景色が、歪んで‥‥」


景色じゃなく、空間が歪んでいるのだ。

そして地面に魔方陣が光り、その光が強くて思わず腕で目を隠した。

その数秒後、光が収まるのを確認し、腕を下げ目を開ける。


「え、何? ここどこ?」


目を開けるとそこは先程まで居た場所ではなく、別の場所。

何が起きたのか全く理解が及ばない。

それに辺りを見回すと、


「え‥‥私、通学中だったのに」

「お、起きたら‥‥え?」

「え? これってぇーもしかしてー映画の撮影ー?」

「お店の準備をしていたら、こうなるとは‥‥」


上から女子高生、男子高生とギャル、カフェ店の店長‥‥だろうか、4、50代の男性と俺、そして、


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! 異世界転移キタァァァァァァァァァッ!!!!」


大学生だろうか、青年が突然騒ぎだす。

何かと思い、全員でその男子大学生を見ると、


「宜しいかな、皆のもの」


良く辺りを見ると城だろうか、兵士が槍を片手に持ち、俺らを見て驚愕していた。

この状況を考え、声を掛けた主を瞬時に判断する。


「私はこのマクシミリアン国の王のオルガン・リーブン・マクシミリアンと言う」


王の言葉に全員が黙り、その話を聞いた。

まぁ、王だろうと思ったよ。


「お主達はこの世界を救う為に召喚された者‥‥云わば、勇者である」


勇者、ねぇ‥‥。


「どうかこの世界を救って欲しい。もし、この世界が救われた際には、欲しいものを可能な限り、報酬としよう」


その言葉に俺除く全員が少し反応していた様に見えた。


「さて、ここまでで分からない事はあるか?」


王の質問に対し、カフェ店長が手を挙げた。


「申してみよ」

「えー‥‥今すぐには帰れないのでしょうか?」

「それは無理だ」


その言葉に青年意外が驚愕する。

もちろん俺も含まれているぞ。

当たり前だ、突然呼ばれて帰れません。何て通用しないし、ふざけている。


「はぁ? 意味分かんないし、呼んだんだから、帰せるっしょ」

「私も店を開ける準備があるからな」

「私は今日テストなので、テストに受けたいのですが‥‥」

「えぇ‥‥お母さん、お父さんが心配するよ!」


皆、それぞれの事情があり、それを口に出す。

だが、1人だけ。


「では、王よ。何点かお聞きしたい事がございます」


膝を床に付け、頭を少し下げながら話す男子大学生。


「ほう、異界の者がその様な作法を知っているとは。で、何が聞きたい?」

「はッ! 我が召喚されたと申しましたが、私達には何か特別な力が既にあるのでしょうか?」

「なるほど、察しが良くて話しやすいな。名は何と言う?」

「はッ! 私は河野達也こうのたつやと申します!」

「では、コウノよ。その回答は否である。この後、お主達の話を聞いた後に、話そうではないか」

「ありがとうございます。では、もう一点。どうすれば、我らは元の世界へ帰還出来るのでしょうか?」

「この世界に生きている厄災王を消滅、封印し世界に平和が戻れば帰還できるのだ」


‥‥この男子大学生が居てくれて良かったと、本気で思った。

もしこの子が居なかったら俺らは聞きたい事も聞けず、野に放たれていた可能性があるからだ。

少し黙って聞いている事にしよう。

多分、俺意外もそう思っている筈だ。


「‥‥何故、厄災王が消滅または封印されなければ帰還出来ないのでしょうか?」

「障気が濃いのだ。その障気が濃いと、大魔法を使う際に障気が一ヶ所に集まり過ぎて、召喚者が死んでしまうからだ」

「なるほど‥‥では、その厄災王を倒せば、障気の濃度が薄くなるから、帰還出来ると。そういう事で良いですか?」

「ああ、間違いない」


いや、本当に話がスムーズに行ったな。ギャル何て絶対何か言うかも思ったけど、空気読んで黙ってたし。


「では、皆の者よ。叡知の間へ案内する」


王と共に兵士、その他と叡知の間と呼ばれる場所へ向かう最中。

俺は何故、こんなにも詳しいのか男子大学生に聞こうと歩幅を合わせて横に着く。


「えっと、良いかな?」

「はい、何でしょう?」

「君は何であそこまで、対応と言うより慣れているのかな?」

「あー‥‥お恥ずかしい話し何ですけど、ファンタジー小説が好きでして‥‥その時の展開がまさに、こんな感じだったので‥‥つい」

「あーなるほど」


なるほど、良く分かった。

確かに現代だとその様な小説が多いし、それがヒットした際にアニメ化などグッズ化までされているほどに。

だから、それなりのファンタジー小説の知識がある分、慣れていたんだろう。

てか、


「そういえば、名前を名乗って居なかったね。私は高瀬湊人たかせみなとって言うんだ、よろしく。職業は清掃の正社員」

「どうも、先程名乗りましたが、河野達也です。よろしくお願いいたします一応大学生です」


と話していると、


「すまない、ちょうど良いから私も名乗らせてくれ。私は小川優おがわまさる、カフェ店の店長をやっている」

「よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします」


頭を下げると、今度は男子高生と女子高生、ギャルが近づいてきた。


「ついでに、挨拶すみません。自分は有原孝平ありはらこうへいッス。野球部ッス」

水橋薫みずはしかおるです。よろしくお願いします。」

「あ、ドーモ。アタシは因幡未玖いなばみく。ヨロシクねー」

「高瀬さん、小川さんに有原君、水橋さん、因幡さん‥‥はい、よろしくお願いしますね!」


最後に元気良く各員の名前を名乗り、覚えようとする河野君に好感が持てる。

良い子だね、しっかり親に教育されたんだろう。

全員の挨拶が終わった所で、着いたのか前の列が静止した。


「着いたぞ、ここが叡知の間だ」


円形の広い空間が広がっていた。

その真ん中から石の足場が入り口近くまで配置されている。

真ん中からは台座のような噴水があり、そこから水が溢れ出ていた。


「さぁ、勇者よ。あの中心へ向かうのだ。そうすれば、水晶が出る筈だ。水晶が出たら、水晶に手をかざすのだ」


王に言われ、俺達は石の足場を進んでいき、中央へ足を運び到着。

すると、王の言った通り、噴水らしき所からゆっくりと水晶玉が浮き上がってきた。

まずはお先に見本が見たく、河野君を見ると目があった河野君が頷いて、水晶に近づき手をかざす。

すると、水晶が輝き出すと河野君を光が包んで姿を消した。


「‥‥え?」


思わず出た言葉の後にすぐさま後ろ、入り口で待機している王達へ振り返る。

振り返ると王達ですら、驚愕している様に見えた。

嘘だろ、消えるなんて‥‥もし、これで河野君が戻ってこなかったら。

などと、不安が俺意外の中にもあっただろう。

思った瞬間、


「よッと」


先程まで姿を消していた河野君が現れた。


「え!? だ、大丈夫!?」

「え、あ、はい? 大丈夫ですよ? 何でそんなに心配と言うか、驚いているのですか?」

「い、いや‥‥河野君の姿が消えたから‥‥」

「あーなるほど、それでですね」


アハハハと笑う河野君にその場にいた全員が唖然とした。


「でも、まぁ皆さんもこの水晶に触れれば特別な力を貰えますよ」


その言葉に乗り気になる男子高生とギャル。

しかし、俺と女子高校生、店長は躊躇した。

そもそも俺達はほとんど強制で呼ばれた者、それに先程の姿を消し、特別な力を得る。

明らかに怪しい。実は殺されていて、別の誰かになっているとか‥‥ありそう‥‥。


「いや! 本当に大丈夫ですから! 高瀬さん! 小川さん! 水橋さん!」


俺達は互いに顔を合わせ、再度河野君へ視線を向ける。

目を輝かせ、嘘を付いている様には全く見えない。


そんな事をしていると、


「やばー! マジでヤバいんですけどー! ウチって実は最強ナンじゃね?」

「負ける気はしないッスね!」


先行した二人が帰って来た。

そして、目を輝かせている河野君。

俺はそこで根負けした。


「はぁ‥‥小川さん、水橋君。行ってくるよ、俺で判断して下さい」


二人は頷き、


「お気を付けて」

「気をつけて下さい」


心配しながらも見送ってくれる俺へ優しく声をかけてくれた。

俺は水晶へ手を伸ばし、手のひらをかざすと水晶が光だし、その光が強くて思わず目を閉じた。

光が徐々に弱まるのを感じ、目を開けるとそこは先程までいた場所とは全く別の場所。


「「「最初はグーッ!! じゃんけん、ポンッ!!!!」」」


突然じゃんけんの掛け声が聞こえ、声の方へ振り返る。

女性が2人に男性が1人でじゃんけんをしている。


「「「あいこでしょッ!!」」」

「「「あいこでしょッ!!」」」

「「「あいこでしょッ!!」」」


そして3回目にして勝者が決まった。


「うィィィィィィィィィィィィィッ!!!! 俺の勝ちッ!! 何で負けたか、次までに考えておいて下さい。ほな、頂きます。プシュッ!」

「は? うざ、死ね」

「くたばれ、ゴミ」

「いや、勝ったのは オ レ だから」


などと、変なやり取りを行っているのを目撃してしまった。

やり取りの後にオレの方へ振り返り、一つ咳払い。


「どうも、高瀬湊人さん。大変お見苦しい所をお見せしました」

「あ、いえ」

「今回、私があなたへギフトをお渡しする担当のアンセムと申します」

「あ、どうもこれはご丁寧。先程呼んでいましたが、高瀬湊人と申します」

「はい、存じております。ギフトの贈呈の仕方なのですが、やり方は個々によります。私のやり方ははこれ!」


そう言うとアンセムは両手を広げると、背後に見慣れた物が現れた。


「これは‥‥」

「そう!」

「ガチャガチャ?」

「正解ッ!!」


かなり大きいガチャガチャが現れた瞬間、目の前にディスプレイが表示された。


『ガチャを引きますか? YES or はい』

「いや、ハイしか無いじゃないかーい」

「うん、ナイスツッコミ!」


アンセムはこちらに親指を立てて、笑顔を見せる。

そんなアンセムにため息を一つ付いてから、


「ちなみに‥‥何が出るんですか?」

「色んなのだよ、例えば不死鳥の力とか、魔剣に魔力増強とかね」

「ハズレは?」

「無いですよ。基本は」

「本当に?」

「本当です」

「‥‥」

「‥‥いや、本当ですよ?」


多分、嘘を付いてない気がするので、ディスプレイの『はい』のボタンをタッチした。

すると、ガチャガチャが虹色に輝き出す。

これって、もしかして‥‥。


「あたーー」

『ーー大当たりーッ!!』

「あ、大当たりの方ですか」

『デスデス! てか、何でそんなテンション低いんですか?』

「あまりゲームはしないので」

『え? じゃあ何するんですか?』

「釣り、キャンプ、読書、料理、清掃? たまに、ゲームですかね?」

『完全にアウトドア派何ですねーってぇ! それよりも! これは本当に大当たりですよ!』


かなりテンションが上がっているアンセムに思わず引く。

それを察したのか少しだけ距離を置くアンセム。


『良いですか? 貴方が当てたギフトは本来あそこにいる二人ですら、持っていません』

「アンセムさんだけ持っているってこと?」

『平たく言えば、そう。だけど、ボクのはガチャだからさ。あの二人が持つ物全ても含まれているのさ。当たり枠としてはボク達の持つ固有ギフト』

「固有ギフト?」

『まぁ、ボク達の持っているなかで本当に一つしか無い事で、それを他の人が持ったら二度と他者に再度渡す事は不可能となるのが固有』

「ちなみにアンセムさん以外がオレの担当だったらどうなってた?」

『基本はその人の能力、性格を見てからその人に合うギフトの用意をする、だね』


待て待て、その説明だと‥‥。


『お察しの通り。ボクのは全てのギフトがつまっているのさ。その人の能力とか性格を見ないで、ね。だから、何を引くかはその人次第で、引いた物に寄ってはとても強力だが、全く合わないケースもある』

「デスヨネー。じゃあ、俺もその可能が?」

『いや、高瀬湊人さん貴方が持つ固有ギフトはそんなの関係無いよ』

「え? それはどういう?」


俺の一言にアンセムはにこりと微笑み、


『高瀬湊人さん、貴方の能力はーー』


その言葉にごくりと唾を飲み、


『ーー干渉能力です』


良く分からない能力を俺に言った。


1話 終

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