4-11. 黄金色に輝く星

 ズン!

 いきなり激しい閃光が部屋に走り、強烈なエネルギー弾がルドヴィカを貫いた。

 ぐはぁ!

 胸に大穴が開き、ガクッとひざをつくルドヴィカ。


「そこまでだよっ!」

 水色の髪をゆらしながらシアンが部屋に飛び込んでくる。

 そして、右腕を黒いワイヤーの束のようなハッキングツールに変形させ、緑色に光らせた。


「ちっ! もう少しだったのに!」

 ルドヴィカはそう言い残すとフッと消えていく。


「まてっ! あぁ……」

 シアンはハックツールを撃つ体勢をゆるめ、肩を落とした。

 そして、大きく息をつき、ユリアを助け起こす。

「あらあら、ずいぶんとやられたねぇ……」

 そう言いながら失った右腕を再生させていく。

「ご、ごめんなさい……」

 ユリアは涙をポロポロ落としながら謝る。

「戦っちゃダメって言ったよ」

 シアンはジト目でユリアを見た。

「ユリア、大丈夫か?」

 ジェイドが駆け寄ってくる。

「あれっ!? ジェイド? 部屋の外に……いたの?」 

「え? あのまま外でシアン様を呼んでたんだが?」

「じゃあ……、あのジェイドは……?」

「幻覚攻撃だね。ジェイドの映像で動揺を誘ったんだな」

 シアンは渋い顔をする。

「そ、そんな……」

「奴らは狡猾だ。強いだけじゃない、そういうからめ手にも長けてるんだ」

 ユリアはあっさりとテロリストの術中にはまった間抜けさに、ガックリと肩を落とした。


「あいつはユリアの身体のリソースを得て多くの権限を獲得しちゃった。ちょっと厄介だよ」

 シアンは腕組みをして何かを考える。

 すると、シアンはハッとした顔をしてユリアとジェイドの腕をつかむと空間を跳ぶ。

 気がつくと、ダギュラの街の上空を飛んでいた。直後、激しい閃光が天地を覆い、ズズーン! という爆発音が響いて、下の方で街の中心部が吹き飛んでいるのが見えた。


「あぁっ!」

 ユリアは真っ青になる。

 やがて立ち昇ってくる黒いキノコ雲。

 自分が迂闊な行動をしたばかりに大変なことになってしまった。胸がキュッとなって目の前が真っ暗になる。


 するといきなり空中に映像が浮かび上がった。

「ハーイ! みなさん、こんにちは! キャハッ!」

 上機嫌に金髪をゆらしながら手を振るルドヴィカだった。背景にはずらりと並ぶ円筒、なんとジグラートに居るらしい。

 ユリアは唖然とした。テロリストがこの星の心臓部にいるのだ。絶体絶命の大ピンチである。


「どうやってそこに行ったんだ?」

 シアンは険しい表情でルドヴィカをにらむ。

「あら、田町の方なのにそんなことも分かんないの? キャハッ!」

 ルドヴィカは楽しそうに笑う。

 ユリアの権限を奪った訳だから、海王星に行く事はルドヴィカにもできるだろう。だが、それは海王星の衛星軌道上のコントロールルームまでである。海王星の中にあるジグラートにこんな短時間で行けるわけなどないのだ。

 本当にそこにいるのだとしたらさらに上位の権限を得たという事であり、それは一万個の地球全体に対する脅威を意味している。

 もちろんシアンは宇宙を統べる存在の一翼である。今すぐジグラートに跳んでルドヴィカを吹き飛ばすことなど簡単なのだ。しかし、それを知りながらルドヴィカは姿をさらしている。何らかのワナがあると考える方が妥当だった。ルドヴィカのカラクリを解かない限り動けない。


「これ、なーんだ?」

 そう言ってさらに新たな映像を展開するルドヴィカ。そこには黄金色に輝く美しい星が映っている。

 シアンはギリッと奥歯を鳴らした。

 やがて映像がパンをして、衛星軌道上に展開されている巨大な施設が映し出される。

 それはいぶし銀の金属で覆われた、たくさんの大きな円筒モジュールで構成されており、そこから広大な放熱パネルがまるで翼のように多数展開されている。そして、少し離れたところには薄い金属フィルムでできた日よけが全体を太陽から守っていた。

 映像の奥の方をよく見ると、この施設が次々と連なっているのが分かる。巨大な惑星を一周しているのかもしれない。その異常な規模は海王星のジグラートが霞むくらいだった。

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