1-18. 最高に訳アリの二人

 グァァァァ!

 ワイバーンは断末魔の叫びを上げながら薄くなっていき、最後には金色の魔石となって転がる。


 マスターは信じられないものを見たかのように呆然として立ち尽くす。最高レベルの魔物ですらこのイケメンにとっては雑魚にしかならないのだ。それはSSSランクとかそう言うレベルではなく、人間の到達できる強さをはるかに超えている。

 逆に言えばこのイケメンがその気になったら人類は滅ぼされてしまうに違いない。言うならば魔王クラス……、いや、そのものずばり魔王なのではないだろうか?

 マスターはひざがガクガクと震えた。


「ジェイドすごーい!」

 ユリアは無邪気にジェイドに駆け寄り、手を握って興奮気味に喜んでいる。

 ジェイドは、

「魔法の才能はユリアの方が上だから、そのうちこのくらいできるようになるよ」

 そう言って優しく微笑んだ。


 それを聞いてマスターはさらに驚く。少女の方が上だというのだ。イケメンが魔王だとしたら、この少女は何なのだろう? 魔王妃? 何にしても今、自分は人類の脅威を目にしているのだ。

 ギルドマスターなんて引き受けなければよかった……。早く家に帰りたい……。マスターは心細くなり、早く逃げる事ばかり考えていた。


         ◇


 しばらく通路を進むと下への階段があった。

 二人は迷うことなく降りて行く。

 マスターは何か言おうとしたが言葉が見つからない。もはや彼らについていく以外生還する方法などないのだ。


 階段を下りると高さ十メートルはあろうかという巨大な扉が見える。青色の金属製で、金の縁取りがされた扉は美しく、風格すらあった。

 これはボス部屋だ。しかし、普通のボス部屋の扉には装飾などされていない。ここは特別なボス部屋……つまり、ダンジョンの最下層、百階だろう。

 マスターはとんでもない所に来てしまったことを知り、言葉を失う。

 今まで誰も見たことのない、ダンジョン最強のボスが出てくるのだろう。一体どんな戦いになるのだろうか? それは想像すらしたくない恐ろしい話だった。


 ジェイドは躊躇することもなく、無造作に扉を押し開いて進み、ユリアはチョコチョコとそれに続く。

 マスターは一瞬扉の外で待っていようかとも思ったが、待っていたからと言って生存確率が上がるとも思えない。渋々二人に続いた。


 扉の向こうは大広間になっていて、豪華な大理石で作られたインテリアで飾られている。そして奥の壇上には豪奢な椅子があり、そこには誰かが座っている……。


「いらっしゃーい」

 全身紫色の筋肉質の男が声を上げると、魔法のランプが一斉に大きく吹き上がり、大広間は明るく照らしだされた。

 マスターはゾッとしてブワッと全身の毛が逆立ったのを感じる。言葉を話す魔物なんて初めて見たのだ。確か、上級魔族は言葉を話すということを聞いたことがある。しかし、詳しいことは分かっていない。何しろ上級魔族に会って生き残った人間など、ほとんどいないのだから。

 ガタガタと震えるマスターを気にすることもなく、ジェイドはスタスタとその男の方へと歩いた。

「誰かと思えばアバドンじゃないか」

 ジェイドは男に声をかける。何と知り合いらしい。

「クフフフ、来てしまいましたか……。十年前に殺しきっておかなかったのは失敗でしたねぇ」

「やはり、あれはお前だったのか。世代替わりを狙うとはあいかわらず卑怯な奴だ」

「卑怯? 誉め言葉ですねぇ。クフフフ」

「十年前の恨み、晴らさせてもらおう」

「魔族とドラゴンは相容れない存在……。いいでしょう、雌雄を決しますか……」

 そう言うと魔族は全身をまばゆい紫色の光で覆った。

 ジェイドも負けじと身体を青白く光らせる。

 地下百階の大広間は魔族対ドラゴンの因縁の対決の戦場と化したのだった。


「えっ!? ド、ドラゴンって……」

 マスターは目を丸くしながら二人の会話に圧倒される。

「あぁ、バレちゃった……。彼はドラゴンなんですよ……」

 ユリアは苦笑いしながらそう言うと、マスターはユリアを見て固まった。世界最強の伝説の存在、ドラゴン。そんな恐るべき存在を自分は試そうとしていたのだ。


 ユリアは言葉を失っているマスターの手を引いて部屋の隅に下がり、強固な結界のドームを展開した。その壮麗に美しく輝く結界を見てマスターはさらに驚く。いまだかつてこんなに精緻で強固な結界は見た事が無かったのだ。一度有名な聖女の作った結界を見たことがあったが、こんなに上質なものではなかった。聖女の上にはもう大聖女しかいないが、現在大聖女と言われているのは一人だけ……。

「あなた! 魔術師じゃなかったの!?」

 マスターはあわてて聞く。

「一番得意なのは神聖魔法なんです」

 そう言って苦笑いをする。

 マスターはここで全て分かってしまった。そうなのだ、この二人はドラゴンと大聖女、最高に訳アリの二人だったのだ。

「な、なんでギルドカードなんて作りに来るのよぉ!?」

 マスターは半分泣きそうになって言った。

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