1-17. 双頭のワイバーン

 ほどなくして床に降りてきた一行。そこは巨大な広間となっており、床には色とりどりの魔石が転がっている。

 ユリアはうれしそうに魔石を集め、ジェイドはそんな様子を微笑んで見守る。

 するとユリアは向こうの柱の陰になにかを見つけた。

 ユリアはポケットに魔石をしまうとゆっくりと深呼吸をし始める。

 スゥ――――、……、フゥ――――。


 マスターがその視線の先を見ると、盛り上がる筋肉に覆われた赤い巨躯、禍々しい角の魔物が鼻息荒くこちらに歩き出した。一瞬、グレーターオーガかと思ったが、それよりも一回り大きく、伝わってくる圧倒的な魔力を考えると……、もしかしたらジェネラルオーガかも知れない。

 ひ、ひぃ……。

 マスターはタラリと冷や汗を流し、思わず後ずさる。

 ジェネラルオーガはオーガの最終進化系と伝えられているが実際に見たことなど無いし、見たことがある人など聞いた事が無い超レアモンスターだった。その強さは想像を絶する。


 すると、ユリアが両手をオーガにかざし、ハッ! と気合を入れた。直後、激しい閃光が走り、強烈なエネルギー弾がオーガへと放たれた。


 ズン!

 激しい爆発が巻き起こり、ダンジョン内は閃光に埋め尽くされる。


 きゃぁぁ!

 マスターは思わず倒れ込む。こんな魔法見たこともなかったのだ。その圧倒的な魔力量、爆発の規模、それは今まで見てきた魔法のどれとも似つかず、かつ圧倒的な威力だった。

 そして、マスターは魔力測定の水晶玉が割れた理由を理解する。たしかにこの威力なら割れてしまうだろう。人間離れした魔力量、一体この少女は何者なのだろう。


 直後、爆発の衝撃波が一行を襲ったが、それはマスターたちには届かなかった。

「へっ!?」

 見ると、ジェイドがシールドを張って一行を守っていた。

「近い敵に撃つときはシールドが要るんだ」

 ジェイドはニコッとしながらそうユリアに説明する。

「あ、ありがとう」

 ユリアは恥ずかしそうにジェイドに頭を下げた。


 すると、爆煙から何かが飛び出し、目にも止まらぬ速さでジェイドのシールドを砕いた。それは体表が焦げたオーガだった。


 ひゃぁ!

 思わず両手で頭をかばうマスター。

 しかし、ジェイドは顔色一つ変えることなくオーガの胸元に瞬歩で迫ると、青白く光らせたこぶしでオーガの胸を打ち抜いた。


 ゴフッ!


 オーガの体が宙に浮く。そしてそこにジェイドは青白い衝撃波を放った。


 ズン!

 衝撃波はオーガの身体をメチャクチャに潰す。直後、オーガは鮮やかな朱色の魔石となって落ちてくる。


 コン、コン、コロコロ……。

 マスターは転がる魔石の音を聞いてそっと顔を上げ、ハイタッチして喜んでいる二人を今にも泣きそうな目で見上げた。そして、二人の底知れない強さに言葉を失い、試そうとした自分の浅はかさを呪った。


        ◇


 ジェイドが急に険しい顔をして大きな通路の向こうをにらんだ。


 ズーン、ズーン!

 地響きが近づいてくる。

 とんでもない魔物の気配にマスターは青ざめ、思わず後ずさった。


 曲がり角からニョキっと巨大な恐竜のような頭が二つ現れる。そのウロコに覆われた頭には鋭い角が生え、口には大きな牙が光っていた。

「そ、双頭のワイバーンだわ! Sランクモンスターよ! だから嫌だったのよぉ!」

 マスターが悲鳴に似た叫びを上げる。ジェネラルオーガも相当な難敵だが、双頭のワイバーンは破格だ。街すら焼き尽くすその圧倒的な攻撃力は伝説にもなっているのだ。


 しかし、ジェイドは表情を一つも変えることなくワイバーンをにらむ。

 ワイバーンは、ギュァァァ! と重低音の叫びを上げ、ドスドスと迫ってくる。

「いやぁぁぁ!」

 マスターは真っ青な顔で叫び、急いで柱の陰に隠れた。


 ところが……、近くまで来たワイバーンはジェイドを見つめると急に歩みを止めた……。

 そして、なんと後ずさりし始める。


「え?」

 何が起こったのか分からないマスター。

 次の瞬間、ワイバーンは急いで逃げ始めた。

 Sランクモンスターが逃げるなんてこと、聞いたこともない。マスターは唖然とする。

「逃がさんよ」

 ジェイドはそうつぶやくと手のひらに気合を込め、真紅のレーザービーム状のエネルギー弾を放つ。

 ドン!

 衝撃音を放ちながら、エネルギー弾はワイバーンの厳ついウロコを貫いた。


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