1-16. 絶望の地下71階

 三人は街の近くのダンジョンへとやってきた。

 エントリーするとポータルの魔法陣が並んで淡く光っている。それぞれ、近くに『11』、『21』、『31』と飛び先の階数の数字が書かれていた。ただ、『81』と『91』は暗いままである。まだ開通していないらしい。

「さて、何階から行く?」

 マスターは挑発的な笑みを浮かべ、聞いてくる。

「行ける最高は地下71階ってことか?」

「そうね、過去最高の到達階数が72階だから……」

「では、71階で……」

 ジェイドはそう言うとユリアの手を取って71階の魔法陣を踏んだ。

「えっ!? ちょっと待ちなさいよ! 二人で行ける訳ない……、あああ……」

 マスターが叫んでる間に二人は71階へ行ってしまった。

 呆然ぼうぜんとするマスター。

 フル装備のSランク6人パーティですら72階で壊滅したのだ。何の装備もしていない二人組が行こうものなら即死である。マスター自身名を馳せたAランク冒険者ではあったが、自身の最高到達階は59階。70台などまさに未知の領域だった。

「どうしたら……」

 頭を抱えてしばらくしゃがみこんでしまうマスター。

 しかし、マスターとしてこのまま帰るわけにもいかない……。

「うぅぅぅ……、バカ者どもがぁ!!」

 そう叫ぶとポータルを踏んだ。


        ◇


 マスターが71階に着くと、ユリアが真紅に光る魔石を拾っていた。その鮮やかな赤は見まごうことないグレーターオーガの魔石、つまり、もうすでに二人はグレーターオーガを倒してしまっていたのだ。

 グレーターオーガは最低でもレベル百。Sランクパーティでも手こずる相手である。その魔石が点々と落ちているということは、グレーターオーガの群れを瞬殺したという証拠なのだ。

 マスターはこの二人の恐るべき強さに唖然あぜんとして言葉を失った。

「あ、マスターさん。もうやっちゃってますよ」

 ユリアはニコニコしながらマスターを見る。

 マスターは何も言えず、ただ、うなずいた。


       ◇


「さあ行くぞ」

 ジェイドはそう言って洞窟の奥を目指し、チョコチョコとユリアはついていく。

「ちょ、ちょっと待って! もうちょっと上へ行きましょう。ここは危険だわ」

 マスターが蒼ざめて言う。

「危険? ここが?」

 ジェイドは首をかしげる。

「結構いい魔石が落ちるんです。このまま行きましょう!」

 ユリアはうれしそうに笑い、当たり前のように二人は奥へと進んだ。

「えっ、ちょっと、置いて行かないで!」

 マスターは必死に追いかける。


 しばらく行くとジェイドはピタッと止まる。

「ど、どうしたのよ?」

 マスターはびくびくしながら聞く。

「落とし穴だ」

 そう言いながらジェイドは手近な石を放り投げた。


 カチッ!

 床がガン! と開き、深い穴が姿を現す。のぞきこんでも底は見えない。相当深い階に繋がっているようだ。


 ヒュオォォォォ――――。

 下から風が吹き上がってくる。


「降りるぞ」

 ジェイドはユリアを見る。

 ユリアは好奇心いっぱいにニコッと笑ってうなずいた。

「ちょ、ちょっと待って――――」

 慌てるマスターを、ジェイドは飛行魔法で持ち上げると一緒に穴へと飛び込み、ユリアもそれに続く。

「ひゃぁぁぁ!」

 マスターの叫び声が洞窟に響いた。


 しばらく降りて行くとフロアが見えてきた。しかしそこには無数の魔物がうようよしており、降りてくる一行を待ち構えている。トロールにゴーレムにジャイアントスケルトン……どれも超Aランクの厄介な魔物だった。


「ひぃ! だから嫌だったのよぉ!」

 マスターはほとんど泣き顔で叫んだ。


 しかし、ジェイドは表情一つ変えず、ほわぁ! と気合を込め、全身を魔力で青白く光らせる。その圧倒的な魔力に空気はビリビリと震え、熱気が吹き上がってきた。

 ジェイドはゆっくりと魔物たちに向かって両手を向ける……。


 フン!

 ジェイドがそう声を上げると、


 ブゥン!

 という空気の震える音が響き、激しく光る青白い衝撃波が放たれた。


「うわぁ!」

 あまりのまぶしさにマスターは腕で顔を覆う。

 衝撃波は超音速で一直線に魔物たちに迫り、


 ズガーン!

 と、大爆発を起こし、ダンジョン全体が揺れ動くほどの振動が巻き起こった。パラパラと小石が落ちてくる。

 爆煙が晴れてくると、魔物たちは倒されており、全て魔石となってコロコロと地面に転がった。


 マスターは目を疑う。Sランクパーティでも手こずる超Aランクの魔物の群れがたった一撃で消え去ってしまったのだ。一体このイケメンは何をやったのだろうか? あの衝撃波は何なのだろう?

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