1-19. ワナにハマるドラゴン

 グォォォォ!


 魔人が恐ろしげな重低音を響かせ、吠える。そして、全身に力を入れると、周囲に十個くらいの球が紫色に輝きながら浮かび上がった。球は黒と紫の炎を揺らめかせながら不気味に揺れている……。


「死ねぃ!」

 と叫ぶと、球は紫色の矢となって一斉にジェイドの方へぶっ飛んで行った。先頭を鋭く輝かせ、キラキラと光の粉を放ちながら、ジェイドに向かって一直線に飛ぶ魔法の矢。

 ジェイドは冷静にスッと横っ飛びに飛んでかわす……が、外れた矢はUターンして追尾してくる。


 チッ!

 ジェイドは舌打ちをすると、輝かせた腕を振って矢に向かって青白い衝撃波を放つ。


 ズーン!

 激しい閃光が大広間を埋め尽くし、大爆発が起こって煙がもうもうと上がった。

 直後、爆煙の中から真紅のまばゆいビームが飛び出し、魔人を襲う。

 しかし、魔人は待っていたかのように、手の甲に展開しておいた金色の魔法陣をはすに構えてビームを捉え、軌道をそらした。


 ズガーン!

 大理石の壁に当たったビームが大爆発を起こし、大広間が激しく揺れ、パラパラと天井から小石が落ちてくる。


「あわわわ……」

 マスターは異次元の激しいやり取りに圧倒され、ユリアの後ろに隠れて目をギュッとつぶった。


「さすがだな、ドラゴン。だが、これはどうかな……」

 魔人はニヤッと笑うと

 フンッ!

 と、気合を入れる。すると、ボコボコと紫色の筋肉が盛り上がり、さらに鮮やかに紫の光を放った。

 そして、瞬歩で一気にジェイドの目の前に移動すると、目にも止まならない速さですさまじいパンチを放つ。


 ズン!

 ジェイドは腕に白く輝く小さな魔法陣を展開し、パンチを受けたが、衝撃で後ろにずらされた。


 クッ……

 美しい顔を少しゆがめる。


「どうした優男? うりゃぁ!」

 魔人はいやらしい笑みを浮かべた顔でそう叫ぶと、左右のパンチを交互に高速にくりだし、ボコボコと殴り始める。


 ガッガッガッガッガッ!

 重い響きの打撃音が大広間に響いた。

 ジェイドは両腕に展開した魔法陣でパンチを受け続けるが、徐々に後ろに押されていく。


「あぁっ! ジェイド!」

 ユリアは手に汗を握り、思わず叫ぶ。


「どうした? 手も足も出ないか? フハハハ!」

 魔人はさらに殴る速度を上げ、目にも止まらぬ速度でジェイドに襲いかかる。


 ガガガガガガガ!

 しかし……、その直後、


 ズン!

 重低音が響き、魔人が吹き飛ばされる。

 ぐはぁ!

 もんどり打って転がる魔人。


 見ると、ジェイドの後ろから太いシッポが伸びている。ドラゴンの尾で魔人を殴り飛ばしたのだった。

 そしてジェイドは何やら腕をビュンと振り、

「手も足も出なかったけどな」

 と、爽やかに笑う。


「ひ、卑怯者……」

 魔人は口から紫色の血をタラタラとたらしながら、ヨロヨロと立ち上がる。


「俺は龍だからな、卑怯でも何でもない」

 ジェイドは涼しい顔をして言う。

 魔人は大広間を駆けてジェイドと距離を取ると、

「正々堂々勝負しろ!」

 そう叫んで腕を前に出して、手のひらでクイクイッと挑発する。

 ジェイドはスタスタと距離を詰める……。

 それをニヤニヤしながら見ていた魔人は、

「クフフフ、馬鹿め! 死ねぃ! 《超重力》ギガグラヴィティ!」

 そう叫ぶとジェイドの足元に紫色の大きな魔方陣を輝かせる。

 前もって秘かに描いておいた魔法陣にジェイドを誘い込んだのだった。


 マスターが驚いて叫ぶ。

「《超重力》ギガグラヴィティ!? ま、まずいわ!」

「な、何なんです……あれ?」

 ユリアは青い顔をしながら、しがみついているマスターに聞く。

「あの魔法陣の内部は重力百倍なのよ。彼が八十キロだとしたら、今、八トンが彼の上に乗っかっている計算になるわ」

「八トン!?」

 ユリアは思わず両手で口を覆う。

 しかし、ジェイドは落ち着き払っている。ユリアは助けに行きたい思いをぐっとこらえ、

「大丈夫、ジェイドは負けないわ!」

 と、ジェイドを信じて待った。


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